おかあさんの参考書
心の切り替え方を考える

心の切り替え方を考える

鳥居りんこ

今年度も中学受験が終了しました。
受験を終えたお母さん、本当にお疲れさまでした。
合否関係なく、これまでのご家庭でのサポートを称え、おひとりおひとりを抱きしめたいくらいです。

受験を終えたお母さんの今の気持ち

中学受験はかなり過酷な世界でもあり、今や第一志望校に合格できる子は3人に1人とも言われています。
裏を返せば、3人に2人は第一志望校に振られてしまうということ。
悔し涙を流しているご家庭のほうが圧倒的に多いのです。

どの子もその子なりに長い期間をかけて、日々、努力を積み重ねてきたのは事実です。それでも、入試では「合格か不合格か」という180度違う結果を突きつけられてしまいます。

今年もたくさんの小学6年生のお母さんたちから結果報告が届いていますが、なかなかに厳しいものがあるなぁ……と実感しています。

あるお母さんから、こんなメールをいただきました。
「息子も悔しいと思います。でも、私は息子以上に悔しくて、涙が止まりません。私自身がこれまであり得なかったほど、受験に向かって頑張ってきたのに……。こんな私は母親失格ですか?」
また別のお母さんは、
「どうして? どうして? どうしてX学園はウチの子を入れてくれないの? X学園命で、あんなに頑張ったんだよ? 神様っていないの?」
という率直なお気持ちを寄せてくださいました。

親子で日々、頑張ってきたんですものね。こういうご報告のメールをいただくたびに、どうして定員なんてあるんだろう? 志望者がみな入れるシステムだったらいいのになぁ、と無理なことを思ってしまいます。

受験からひと月が経とうとしていますが、このように、今もなお、悶々とした思いで立ち直れていないお母さんも多いと思います。
私ごときが、どんな言葉をかけたとしても、気持ちが晴れることはないと思います。
今回のコラムでは、それを承知のうえで語らせてください。

あらためて、家族にとっての中学受験とは

私は今もさまざまな媒体から「中学受験はご家庭に何をもたらしますか?」というような質問を受け続けています。
私の答えはいつも同じです。

「子別れの儀式です」と。

入試本番初日。どのお母さんも、受験校の校舎に吸い込まれていくわが子の背中を、万感の思いで見つめていたことでしょう。
「一緒に行ってあげたい!」「そばにいて励ましてあげたい!」と駆けよりたい気持ちになったかもしれません。でも、自分とわが子の間には、まるで大河が横たわっているように感じませんでしたか?

行きたくても、行けない。ついていてあげたくても、一緒にはいられない。

ついこの間まで、「ママ! ママ!」とまとわりついていたわが子が、今、振り返ることなく受験会場に進む姿を見送る。母はただ、祈ることしかできなかったのではないでしょうか。

「これからは、わが子は己の力で、己の道を切り拓いていく」
お母さんは、まさにその瞬間に立ち会ったのです。

極論するなら、この瞬間こそが「中学受験の意味」だと考えています。

連戦のなか、たとえ、番号のない合格発表に打ちのめされようとも、翌日の受験を放棄することなく、淡々と受験会場に向かったわが子。

「どこにそんな底力があったんだろう?」と、わが子ながら、心のどこかで「すごい!」と思いませんでしたか?

成績が思うように上がらず、沈み込む夜。猛烈サラリーマン並みのハードスケジュールのなか、それでも塾に行こうとした日。「今日は先生がこんな話をしてくれて!」とバカ笑いをしながら塾での話をしてくれたこと……。
思えば、長い長い喜怒哀楽の日々でした。

10年ちょっとしか生きていないわが子に対して、無理を強い、余計なひと言で落ち込ませ、そんな自らをかえりみて、「いい母親になんてなれないよ……」と涙したお母さんも多いはず。
でもね、諦めることなく、リタイヤすることなく、ここまでこの道を辿ってきたことは、誇っていい親子の物語だと思うんです。

合否に関係なく、この子は今、大きくなった! という瞬間を目にすることができるのが中学受験。これから先、毎年訪れる2月1日は、あなたがこれ以上ないほど頑張ってきた子育ての日々を、甘く切なく照らし出すことでしょう。

これまでの12年間、懸命にわが子を育ててきたのです。
そして、ぴったりと伴走してきた中学受験の日々。
言い尽くせぬものがあると思います。

門出へのカウントダウン

受験が終わった今、万々歳の結果ではないにもかかわらず、わが子は受験のことなどスッカリ忘れたがごとく、普通の小学生に戻って遊び回っていることでしょう。

わが子はとっくに気持ちを切り替えて、春からの新生活を楽しみにしているのに、自分はこんなにズタボロで、「なんで? なんで? どうして? どうして?」と空しい問いを繰り返している……。

「子どものほうが大人です。毎日、メソメソしている自分が情けない……」と言うお母さんも少なくありません。

でもね、私はそれでいいと思うんです。

お母さんたちも、第二の「お年ごろ」にさしかかっています。体力的にも精神的にも、いつも元気ではいられません。ましてや、ジェットコースターに乗っているような日々を過ごした後ですから、何もかもがすぐに通常運転に戻れるわけはないのです。

中学受験に意味があったか、なかったかの「総括」をするのは、もっと先です。
無理やり気持ちを切り替えなくても大丈夫。

今はただ、ボーッとしながら「私、頑張ったよね……」と呟いていればいいですからね。

それでも、もしよかったら、心のどこかに留めておいてください。

「子育ても、あと6年間」と。

受験当日のあの日、「なんだ、ママがいなくても、ひとりで大丈夫じゃない……」と感じたわが子。寄りそって過ごせるのも、残り6年間となりました。

「この子はもう、本当にひとりで大丈夫なんだ」と信頼して羽ばたかせるまでの、6年間が始まったのです。

さあ、春になるにつれて少しずつ、「中学受験生母」の鎧を脱いでいきますよ。

新たな門出が来ますね。
卒業おめでとう! 中学受験生母、よく頑張りました!

著者プロフィール

鳥居りんこ
鳥居りんこ
とりいりんこ

作家&教育・介護アドバイザー。2003年、長男との中学受験体験を赤裸々に綴った初の著書「偏差値30からの中学受験合格記」(学研)がベストセラーとなり注目を集める。保護者から“中学受験のバイブル”と評された当書は、その後シリーズ化され、計6タイトルが出版された。自らの体験を基に幅広い分野から積極的に発信し、悩める女性の絶大な支持を得る。近著に『【増補改訂版】親の介護をはじめたらお金の話で泣き見てばかり』(双葉社)、『【増補改訂版】親の介護は知らなきゃバカ見ることだらけ』(同)、『親の介護をはじめる人へ伝えておきたい10のこと』(学研プラス)、企画・取材・執筆を担当した『女はいつも、どっかが痛い がんばらなくてもラクになれる自律神経整えレッスン』(やまざきあつこ著・小学館)、『たった10秒で心をほどく 逃げヨガ』(Tadahiko著・双葉社)、『1日誰とも話さなくても大丈夫 精神科医がやっている 猫みたいに楽に生きる5つのステップ』(鹿目将至著・同)、『神社で出逢う 私だけの守り神』(浜田浩太郎著・祥伝社)など多数刊行。最新刊は『消化器内科の名医が本音で診断 「お腹のトラブル」撲滅宣言!!』(石黒智也著・双葉社)

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