第10回 桜蔭学園中学校・高等学校 齊藤 由紀子 校長
-2018.10.02
「礼と学び」の心を養い
自立した女性の育成をめざす
Profile
桜蔭学園中学校・高等学校 校長
齊藤 由紀子 先生
さいとう・ゆきこ●桜蔭中学校・高等学校、お茶の水女子大学卒。国語教師と教頭職を兼任し、2017年4月より同校校長に就任。建学の精神「礼と学び」の心を大切にする自立した女性の育成を目指し、キャリア教育に力を入れる。
東京女子高等師範学校(現お茶の水女子大学)の同窓会「桜蔭会」を母体とする桜蔭学園。
1924年の創立以来、「礼と学び」の心をもった自立した女性の育成を目指し、
社会の第一線で活躍する多彩な人材を輩出してきた。
名実ともに“日本一の女子校”とはどのような学校なのか。校長先生からお話をうかがった。
※この記事はTOMAS会員誌「冊子版Schola」第6号(2018年秋号)の特集を再編集したものです。
美しい所作を学ぶ「礼法」の授業
まずは創立の歴史からお聞かせください。
東京女子高等師範学校(現お茶の水女子大学)の同窓会である「桜蔭会」の寄宿舎が、関東大震災で焼け野原となり、その跡地に学校を作ろうということで、会員の寄付によって本校が設立されました。震災直後は女性の自立支援のため、お裁縫など手に職をつけるための授業を無料で行っていたそうです。女性の選挙権がまだ認められていない時代に、同窓生で選挙を行って選ばれた初代校長が、後閑キクノ先生です。 後閑先生は、東京女子高等師範学校で家庭科や礼法を教えていらしたそうで、昭和天皇皇后である香淳皇后様の教育係も務められていたことから、修身・礼法の授業は後閑先生がご担当されていました。その流れが今でも続いていて、中学1年生だけは、校長と担任が隔週交代で道徳の授業を行っています。
「礼法」という授業がありますが。
中学1年生は毎週、中学2、3年生は5週に1回ある礼法の授業では、建学の精神である「礼と学び」の心を養います。お辞儀の角度や襖の開け方、座布団のすすめ方、物の渡し方などの所作を学びながら、なぜそうするのか理由も考えます。姿が美しく見える、他の人の邪魔にならない、大切な道具を壊さないといった合理的な理由があるのです。
十代で身につけておけば大変良い習慣になりますね。
基本が身についていれば応用がきくため、大人になってビジネスの場でも有効なことがあると思います。卒業生から「もう一度、礼法を学びたい」という声をよく聞きますよ。
女子校ならではの良さはどんな点でしょうか。
男子と女子では成長の段階で発達の早さに違いがあると思います。指導する側からすると、女子の成長に特化して自然に寄り添えるという良さがあります。生徒にとっては、男子の目を意識せず、やりたいことに立候補して自分たちの力で実行できること。力仕事もやります。そこで「女の子のくせに」や「女の子の割に」と言われることはありません。社会ではそのように言われることもまだまだありますが、その前に桜蔭でしっかり自信をつけていけると思います。
先輩が後輩を指導する「放課後学習ルーム」
入学後、周りが優秀な生徒ばかりで緊張するお子さんもいるのでは。
勉強面ばかりではなく、委員会活動やクラブ活動などさまざまな場面で自分より秀でた人は必ずいます。自分より優れた人を前にしたとき謙虚になれるか。それが長い人生においてとても大切なことです。優秀な人と比べて自分には何の価値もないということではなく、その中で自分ができることは何かを考え、できることを実行する。助けてもらう場面では素直に助けてもらう。そうした人間関係は社会の縮図でもあると思います。
授業やテスト、宿題…やはり大変なのではと思っている受験生も多いのですが。
試験順位の発表はしていませんので、それほどプレッシャーはないと思います。授業の小テストに合わせて予習・復習のペースさえ確立できれば不安はまずありません。大切なのは、自分の生活を自分で管理する力。鞄の中が整理できない、時間割を間違える、忘れ物が多いといった状態では勉強もおぼつかない。自己管理力がそのまま勉強の力につながっています。
学習のフォローとして「放課後学習ルーム」があるそうですね。
毎週土曜日、本校の卒業生がチューターとして生徒の質問や学習相談に応じています。チューターは大学1・2年生ですので、生徒たちと年齢が近く、自分たちが桜蔭にいたときにどう勉強していたか、クラブ活動とどう両立したかなど、体験を交えて具体的にアドバイスしてくれます。数年前に本校を卒業したばかりの先輩たちの言葉は説得力があり、生徒たちはとても励みになるようです。特に中学1年生の1学期には、放課後学習ルームを学習に組み入れて自分のペースを確立していってほしいと思います。こんなことを聞きに行っていいのだろうかと迷うことでも臆せずに聞いてほしいですね。
御校では勉強だけでなく、文化祭や体育祭、水泳大会などの行事にも力を入れています。
文化祭は、各クラブの活動成果を披露する大きな行事です。受験生に特に人気なのがサイエンスストリートですね。数学部・化学部・物理部・生物部・天文気象部などの理系クラブが並ぶサイエンスストリートは、各クラブの部員数も多く毎年にぎわっています。中学1年生による浅間山荘合宿についての展示や模擬店も盛況で、受験生にとっては大変印象に残るようです。
水泳の授業が大変ハードだと聞いています。
高校3年生までプールの授業があります。中学2年生は夏休みに外部からコーチをお招きして、5日間の水泳特別指導を実施しています。4日間の指導のあと、5日目にクラス対抗の水泳大会を行います。頑張り屋さんが多いですから、入学当初は全く泳げなくてもかなり上手に泳げるようになりますよ。最終的にはバタフライまで泳げるようになります。
キャリア教育講演会を定期的に開催されていますね。
生徒たちの職業観を広げるために、30代の社会人を招き、結婚や出産を含めた女性のキャリアについて話していただいています。裁判官や科捜研の方、医師やテレビ局のディレクターなどさまざまな職業の方に話していただきます。以前、グーグル社でプログラマーとして活躍している女性を招いた際、印象的な話をしてくれました。「今はグーグルがITの最先端を走っていますが、テクノロジーは常に進歩して、数年後に何が起こるか全くわからない。ただ、どんな会社でも変わらず大切なことは、コミュニケーション力であり、人間的な魅力である」という話でした。生徒たちもいずれ大人になったら、この言葉の意味がわかるときがくると思います。
進学指導についてお聞きします。難関男子校に引けを取らないほど理系に強いですね。
約65%の生徒が理系志望です。出産しても続けられる仕事とは何かと考えた結果、理系を選んだという生徒が多いのでしょうか。高校2年生から数学と英語は習熟度別クラスになりますが、文理のクラス分けはしていません。文系の生徒でも数学の授業を取り、理系の生徒も国語の授業があるなど必修科目が多いため、受験科目の多い国立を受ける生徒がほとんどです。
文理のクラス分けをしない理由は何でしょうか?
分けた方が時間割作成は楽ですが、敢えて分けていません。早い段階から得意・苦手でクラスを分けてしまうのではなく、「この教科はあのお友だちが得意だから教えてもらおう」というように、教え合いの環境を作ることで理解を深めてほしいからです。そもそも私立は、公立と比べて同質な人が集まりやすい。そこをさらに同質化するのは良くないと考えています。志望先や科目の得意・不得意、好き嫌いが異なる生徒たちが互いに刺激を受け、想像力を高めてほしいと思っています。
入試問題に込められた桜蔭からの本当のメッセージ
中学入試問題についてお聞きします。算数は難関男子校顔負けの難しい問題が並び、国語では高度な思考力や記述力が試されますね。
私も国語の採点をしていますが、受験生の答案を読んでいると、問題文をきちんと読んでくれていないなと感じます。試験本番で緊張して読めていないこともあるとは思いますが、まず問題文を素直な頭で読んでほしい。文章をしっかり読んでいたら点が取れるはずなのに、塾でやってきた対策やテクニックに引っ張られてしまうのでしょうか。「この問題はこのパターン」というようなテクニックを使った解答が目立ちます。力作であっても、答えになっていないので残念ですね。
2月1日の最初の試験というのもありますし、「難しいよ」と言われて緊張しているのでしょうね。
まずは肩の力を抜いてほしいですね。国語では、この話の続きが読みたいと思うような出題をしたいと思っています。なんて面白いお話なんだろうと。文章量があるため一定のスピードは必要ですが、まずは素直に読む力をつけてほしいと思います。
算数では、解くのに手数が必要な計算など、高い処理能力が問われる問題が出ます。
書き出すことをいとわないことが大切です。途中でこんな数字でよいのかと不安になるような面倒な計算が出ますが、これで絶対合っているはずと筋道を立てて諦めずに解いてほしいですね。中学生の段階では、手を動かして作業することがとても大切です。それが考える力の基本になるのです。
面接についてお聞かせください。
本当に一言で簡単に答えられるようなことしか質問していませんので、緊張なさらずに。もし質問の意味がわからなければ、「どういうことですか」と聞いてくださればよいと思います。保護者面接では、入学後の通学方法や、親御さんからご覧になったお嬢さんのことなど、ごく普通のことをお聞きしています。面接が合否に大きく影響することはありません。
最後に、受験生へ向けてメッセージをお願いします。
とても前向きで、元気で明るい生徒がたくさんいる学校だと思います。桜蔭の創立の歴史や、身近にいる本校の生徒を見て、こんな先輩と一緒にクラブや委員会をやってみたいなと思ったら、ぜひ受験していただきたいと思います。何事にも全力で取り組む生徒たちが本校の雰囲気を作っています。文化祭にもぜひいらして、実際に肌で感じてみてください。
取材を終えて―
TOMAS入試対策本部 本校長 松井 誠
お話をうかがう中で見えてきたのは、何事にも全力で取り組み、真面目に頑張る生徒を応援する教育方針。勉強だけでなく、社会で必要とされる礼法や道徳を大切にする姿勢に、深い感銘を受けました。桜蔭学園中学校・高等学校の学校情報と入試対策を知る
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