第9回 慶應義塾中等部 山﨑 俊一 部長
-2018.10.02
自ら考え、自ら判断し、自ら行動し、
その結果に責任を持てる人物を育てる
Profile
慶應義塾中等部 部長
山﨑 俊一 先生
やまざき・としかず●巣鴨高校から慶應義塾大学卒業後、都立高校で教鞭を執り、27歳で中等部の英語科教員に着任。12年間主事(教頭職)を務め、2016年に中等部長(校長職)に就任。
150年を超える歴史をもつ慶應義塾の中では、比較的新しい学校として
戦後まもなく誕生した慶應義塾中等部。福澤諭吉が説いた男女平等を体現した
義塾初の共学校としても知られる。その教育の根幹にあるのは「自由な教育」。
授業や学校行事、校友会活動に根付く教育方針について山﨑部長にお話をうかがった。
※この記事はTOMAS会員誌「冊子版Schola」第5号(2018年夏号)の特集を再編集したものです。
慶應義塾の一貫教育における中等部の独自性とは
大学の附属校ではなく「一貫教育校」という言い方をされています。
慶應義塾は、創立者である福澤諭吉先生の唱えた「独立自尊」「半学半教」といった建学の精神を共通の理念とする一方で、「同一のなかの多様」として、各校の教育方針や具体的な教育の運営についてはそれぞれが独自性を保っています。
大学からの命令系統があるわけではないので、「大学の附属校」という言い方はふさわしくありません。中等部も普通部も湘南藤沢も、独自の教育方針で生徒たちを導いています。トップダウンではなくボトムアップを重視しているのは、「独立自尊」という福澤先生の教えの影響です。
確かに、中等部・普通部・湘南藤沢は同一の理念でありながら、校風はそれぞれ異なります。特に中等部は慶應義塾で初めて男女共学を実施した学校です。
中等部は1947年、戦前の教育に対する反省から、戦後の日本教育はどうあるべきか、若い教員たちが真剣に考え、理想に燃えて創設された学校です。かねてより福澤先生が男女平等の教育を唱えていたこともあって、新しい中学校は男女共学にしようということになり、慶應義塾初の男女共学校が誕生しました。
創設にあたって教育方針として掲げたのが「自立した個人を育む自由な教育を行う」ということでした。自由とは、当然ながら何でもやってよいということではなく、自ら判断して自ら行動できるということです。
たとえば本校では、式典などの場で着る基準服を定めてはいますが、制服はありません。自分で考えて自分で選ぶことを大切にしてほしいと考えるからです。
中等部は、慶應義塾の各校の中でも特にのびのびした校風で知られています。
草創期から人間関係が明るい学校をめざしています。明るい学校とは、教員や生徒がお互いに個人として相手を尊重し、自由に意見を言い合える関係が基本になります。たとえば、先生と生徒の心の垣根を払うための工夫として、生徒も先生を「さん」付けで呼ぶことにしています。私も「山﨑さん」と呼ばれています。ときどき「部長さん」と呼ばれると少々変な感じがしますが(笑)。
「天は人の上に人を造らず」というように、福澤先生は目上・目下に関わらず誰に対しても「さん」付けで呼んでいました。その伝統が中等部に残っているわけです。
一貫教育ということで、中等部には幼稚舎から入学される生徒もいます。中学受験で入学した生徒はうまく溶け込めるでしょうか。
まったく心配はございません。幼稚舎からの生徒は、慶應義塾の根本精神をしっかりと身につけて中等部に入学してきます。例えば、「気品の泉源、智徳の模範」などの考え方を自然なかたちで身に付けています。
中学受験で入った生徒も、幼稚舎からの生徒と机を並べて学ぶうちに、慶應義塾の精神を自然と学んでいきます。
入学後すぐは出席番号順に席につきますが、隣に座った幼稚舎からの生徒が「よろしくね」と声をかけてくれてすぐに打ち解けることができた、といった話をよく聞きますね。
5月の初めには遠足があり、レクリエーション等を通して親睦を深めます。その後校友会(クラブ)活動も始まり、夏頃には受験で入ってきた生徒も素の自分を出せるようになります。ぶつかり合いや喧嘩も経験しながら切磋琢磨し、1年生の3学期にはすっかり溶け込んでいます。
自由な校風の中で育まれるソーシャルインテリジェンス
中等部卒業後は、塾内の高校に進みます。各高校とも大変優秀な生徒が集まります。どんな準備をされていますか。
大学までの学問に耐えうる力として基礎学力を大切にしています。英語や数学については中学の分野の定着を図りながら、高校のレベルまで発展させることもあります。
ただ、本校の本来の目的は高校・大学の準備ではなく、その先の将来何をしたいのかを見つけること、それを実現するための土台を育むことです。ですから、文系科目も理系科目も、家庭科も体育も美術もコンピュータも偏重することなく教えています。何でもやってみて、やりたいことや自分の可能性を見つけ、高校・大学で少しずつ絞って専門性を高めていく。その間に、勉強から得られる知識だけでなく、さまざまな経験を通してソーシャルインテリジェンスを身につけてほしいと思います。
「授業」「学校行事」「校友会活動」を教育の三本柱にされています。
三本柱で1番大切なのは授業です。授業を通して学力と教養を身につけてほしいと考えています。例えば国語では、『学問ノスゝメ』から始まってさまざまな古典を暗誦させます。
読書指導にも力を入れています。教員が執筆した『読書のすすめ』という冊子を1年生全員に配り、あらすじと感想を書くリーディングメモの提出を宿題として課しています。リーディングメモは司書教諭が読み、全校生徒にコメントを記して返しています。
山﨑部長ご自身も英語の授業を持たれているそうですね。中学校で初めて習う科目ですが、指導の際に心がけていることは?
まずは英語嫌いにさせないことですね。1年生の英語は週6時間あり、コアとなる語彙・文法を学ぶ「英語Ⅰ」、ネイティブスピーカーと日本人教員のティームティーチングで行う「英語Ⅱ」、さらに、1学期の成績で習熟度別にクラスを分ける「英語Ⅲ」があります。スタートでつまずいて英語嫌いにならないよう、2学期からサポートしていきます。
英国への語学研修もありますね
年に2回、希望者が英国にて研修します。2年生の終わりの春休みに、英国の公立校のホカリル校へ15名ほどが研修に行きます。ホームステイをしながらホカリル校の授業に参加し、日本とは違う生活様式や学校の様子を体験します。秋には逆にホカリル校生を本校に受け入れ、中等部生の家庭でホームステイを体験します。
3年生の夏休みには、40名ほどが研修に行きます。いろいろな野外活動ができる宿泊施設に英国の生徒たちと一緒に寝泊まりし、さまざまな活動を通して交流を深めます。参加者はこの研修で国際的な視野と見識を身に付けて帰ってきます。
このように中等部の英国研修は、一方的に語学を学びに行くだけではなく、こちらからも日本文化を伝える「相互発信」を基本としています。
三田の膝元で大学生をロールモデルに夢を描く
同窓会活動も盛んです。
三田の膝元にあり、大学の先生や先輩がすぐそばにいることは大きな利点です。大学生は最も身近なロールモデルで、彼らと接することで憧れや具体的な目標を抱くことができます。春の慶早戦には1年生全員を連れていきますが、ここで塾生としての一体感を味わう生徒も多いですね。
3年生になると、週2時間の選択授業があります。スペイン語やフランス語、大学の先生による授業などから、自分で選ぶことができます。
また、キャリア講座として政治家や医師、弁護士など各界で活躍している中等部出身者を招き、講演をしていただいています。数年前、ある企業の社長をされている方が興味深いことをおっしゃっていました。「自分の目標を早く見つけた人が、最終的になりたい自分に近づける可能性が高い」と。中等部の3年間を通してさまざまな経験をし、自分の可能性を発見して将来の夢に繋げてほしいと思います。
中等部入学は「登山」のスタート自分の頂上を見つけてほしい
入試についてお聞きします。2月3日の一次試験は、基本的なことを問う出題を貫かれていますね。
奇問難問を出さないのが中等部の伝統で、問題自体は標準的な内容になっています。2,000人以上の受験生がいたこともあるため、数字や記号で答える問題が主になっていますが、少しずつ記述で答える問題も取り入れています。
一次試験が筆記、二次試験が面接・実技という中等部ならではのスタイルは今後も続くのでしょうか。
将来に向けての入学試験の検討は始めていますが、しばらくは現在のスタイルが続くものとお考えください。
合否は、一次の筆記と二次の面接・実技の両方を総合的に判断して決めています。二次の面接だけで選抜しているのではないかと誤解されることがありますが、そうではありません。筆記で得点の高い受験生が有利なことに間違いありません。
中等部をめざす保護者の方へメッセージをお願いします。
一貫教育が「大学までのエスカレーター式」とも言われますが、私自身は登山のようなものだと思っています。高校・大学受験がない分、自分で頂上を見つけなければならない。その頂に向かって一歩一歩、自分の足で登っていかなければならない。ですから、自分の力で目標や夢を見つけることを良しとする方にぜひ目指していただきたいと思います。
取材を終えて―
TOMAS入試対策本部 本部長 松井 誠
取材当日、山﨑部長の姿を見つけると「山﨑さん」と親しげに話し掛けてくる生徒の姿をあちこちで見かけました。教員と生徒の距離の近さが垣間見え、互いを個人として尊重する中等部の校風を肌で感じることができました。慶應義塾中等部の学校情報と入試対策を知る
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