第3回 女子学院中学校・高等学校 鵜﨑 創 院長
-2018.04.11-
中高の6年間で、自分の中にある
「賜物」が花開くのを楽しみにしてほしい
Profile
女子学院中学校・高等学校 院長
鵜﨑 創 先生
うざき・はじめ●国際基督教大学教養学部理学科卒。旭化成工業に勤務後、テネシー明治学院高等部を経て、恵泉女学園中学・高等学校にて理科教諭。2012年より同校副校長。2016年より女子学院中学校・高等学校院長。
女子学院の1日は朝の礼拝から始まる。中高それぞれの生徒が講堂に集まり、讃美歌を歌い、聖書を読む。1870年の創立以来つづいているキリスト教を土台とした教育活動について、院長先生にじっくりお話をうかがった。パンフレットだけではわからない“JG教育”の魅力とともに、女子学院をめざす受験生と保護者の方に向けたメッセージをお話しいただいた。
※この記事はTOMAS会員誌「冊子版Schola」第2号(2017年秋号)の特集を再編集したものです。
聖書によって自らをおさめるという伝統
まず学校の特徴をお話いただけますでしょうか。
女子学院は創立147年になるキリスト教教育の学校で、プロテスタントの女子校としては最も古い学校のひとつです。根本には、それぞれが持っている個性、能力を磨いていきなさいというキリスト教の教えがあって、自分のおかれた場所、必要とされる場所でしっかり働ける力を養うことが、教育の基本になっています。
「聖書によって自らをおさめなさい」ということですね。
校則は「校章をつける」「上履きをはく」「学校に来たら外に出ない」「校外活動は届け出る」の4つしかありません。それ以外は服装規定もない中で、生徒たちはどう秩序を保っていくのか。それを、初代院長の矢嶋楫子先生から代々の先生方が「あなたたちは聖書を持っている。その教えに従って、やってよいこといけないことを判断しなさい」という表現で伝えてきました。
キリスト教の学校ですが、信仰をお持ちではない方も自由に受け入れてくださるのでしょうか。
入学者の90%以上は、キリスト教の環境に触れたことがない方です。学校教育の中で信仰を強制することはありませんが、毎朝の礼拝は欠かさず続けています。朝の15分間、讃美歌を歌い、聖書を読み、それにまつわる話を聞いて、生徒にそれぞれの受け止め方をしてもらうわけです。そこからキリスト教に入ってくる者もおりますし、自らの心の支えという形で受け止める者もおります。ほかに、保護者を対象にした聖書に親しむ会も開いています。
一人ひとりの声を尊重し自らの思いを伝える大切さ
10代のお嬢様が、朝、学校に来て自ら神様と対話する時間は貴重ですね。女子学院の生徒さんは活発で自由、旺盛な挑戦意欲をお持ちの方が多いという印象があります。
おそらく女子学院の生徒は、機会があれば言うべきことははっきり伝えていくということが身に付いているからでしょう。これは、6年間の教育の中で培われる部分です。
キリスト教の考えに、一人ひとりを尊重するという考え方があります。発言が得意でないお子さんもたくさん入学してこられますが、女子学院では一人ひとりの意見を決しておろそかにしませんので、自分の言葉が周りにいったん受け入れられるという経験をします。そのうえで発言を求められる。そうした話し合いを徹底して行ううちに、自らの思いを伝えることが大切だという考えが身に付いていきます。もちろん無責任な発言はできませんので、自分の語ることに責任を持つという姿勢も養われます。
そうした話し合いが6年間、授業や学校行事の中で、何度も何度も繰り返されることになります。
思ったことをしっかり主張できるお嬢様たちが育つ学校というのはなかなかありません。それが女子学院の特長なのでしょうか。
私自身は共学校で育ちましたが、共学校の中での女子は時々、自分でできるのにここはあえてしない方がいいだろうという考えを持つことがあります。それが社会の縮図ですので、社会の一般的な在り方を早く経験するという意味ではよいのですが、一方、本来自分の中にあった可能性が発芽しないまま終わるということも考えられます。私は、一生のうちに自分の持っている力を見い出し、発揮し、それをさらに広げていく特別な期間があってよいのではないかと考えています。女子学院であれば、何を言ってもいいという環境の中で、本音でものごとについて話し合える時間を持つ。留学などとも共通していると思いますが、少し特別な環境におかれたときに、自分でも見えてこなかった特別なものが育って大きく成長していくということが期待できるわけです。
女子学院という特殊な世界の中に入って、どこに何が生まれてくるのか本人もわかりません。自分でも気づかないでいた本来の特性を見つけ、しっかりと磨き、人の役に、世の役に立てていきなさいというのが、私たちのすすめている教育です。
真剣な議論を通じて生き方や将来を見つめ直す
学校生活や行事についてお伺いします。
女子学院では、6年間徹底して議論を行います。その取りかかりとして中1ではオリエンテーション・キャンプがあり、そこから全員が真剣に話し合う機会を持ちます。
中2になると、ごてんば教室という行事があり、2泊3日で御殿場にある学校施設に泊まり込み、より深い話をします。去年のテーマのひとつは、震災で残された人たちはどういう役割を担っていくのかというものでした。
生徒たちは、そのごてんば教室を「女子学院の入り口」と呼んでいます。根本的な生き方についての真剣な話し合いが始まるという意味合いだと思いますが、この機会を非常に大切に思っているということの表れですね。
その後も、講演会などでさまざまな話を聞いて議論する機会がありますが、学校生活の終盤、高校3年生の夏休みには修養会というプログラムがあります。
やはり御殿場の寮に泊まって行われるのですが、そこでの話し合いはほぼ哲学に近くなってきます。人の生き方や、自分の将来、女子学院で何を学んできてそれをどう活かすのかという将来設計に関すること、あるいはキリスト教や信仰に関することについて深く話し合っていく3日間です。高3の夏休みにもかかわらず、あえて受験勉強用具は一切持っていかず、3日間は議論に集中する。生徒たちは夜遅くまで真剣に話し合いを重ねながら、自分自身と向き合い、考えを深める大切な時間を過ごすのです。
進学実績につながる質の高い授業と細やかな指導
特別に受験を意識するのではなく、多様性を大切にする雰囲気でありながら、一方で女子校では全国で2番目に東大合格者を出しています。また、全体の半分近くは理科系で、医学部医学科への合格者も多いですね。その秘密は何でしょうか。
全く受験指導をしていないのではないかとよく誤解されますが、決してそうではありません。そもそも授業の進度は速く、生徒は相応の準備を求められています。中学校で授業についてこられない生徒に対しては、個々への補習が密に行われています。
高校になると、授業の中で演習をやっていく時間も確保されています。また、生徒たちは自主的に先生に質問に行きますから、先生方は熱心に対応しています。
優秀で意欲的なお子さんたちですから、先生も授業の質にこだわってレベルを高めているわけですよね。
生徒も先生も、学業にはお互いに真剣に臨んでいますね。生徒も授業のためにきちんと準備をしており、授業の密度が濃くなりますので、先生方の準備も大変です。
ですから、先生方は授業を充実させることを第一に大切にしています。そういう意味では、学校の本来の意味、教師としての本来の立場が維持できているということで、教師にとっても厳しいながら恵まれているのではないかと感じています。
自分の中に潜む可能性が花開く6年間を
あと半年ほどで来年の入学試験があり、千人近い生徒さんがお受けになって、3分の1が合格するかどうかというところです。今、受験勉強を頑張っている受験生、5年生、4年生のお子さん、あるいは親御さんにも、院長先生からメッセージをお願いします。
今努力していること、目標に向かって進んでいることはすばらしいことですし、将来の宝物として残っていくでしょう。
ただ、その目標が決してひとつのゴールではないということも、お嬢様と一緒に考えてほしいと思います。努力の成果が表れたとしても、結果というのは自分で決められるものではありません。別の力が決めた結果に対して、それが自分に与えられた道だという思いを持っていただきたい。人生に、決して失敗などというものはありません。
新しい道に入った後は、今度は自分自身の中にある何かが開くのを楽しみにしてほしいと思います。女子学院の場合、入学してから、今は見えていないさまざまな賜物が見い出されることでしょう。それは、今想定している将来像とは全く違うものかもしれません。そのとき保護者の方には、生徒本人の思いに寄り添って、希望を叶えるための支えをしていただきたいと思います。
夢が叶い、女子学院に学びの場を与えられたお嬢様を、私たちは喜んで受け入れます。そして、全力を尽くしてお嬢様の中にあるものを開いていきますので、ぜひ信頼してお預けいただきたいと思います。
取材を終えて―
TOMAS入試対策本部 本部長 松井 誠
自由な校風とはいえ、東京大学の合格実績数は女子校で全国2位、医学部や理系への進学者も多い。その背景には、生徒と先生による密度の濃い授業準備をはじめ、昼休みや放課後の個人指導など、細やかなサポートがあることを取材から垣間見ることができました。女子学院中学校・高等学校の学校情報と入試対策を知る
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