第4回 栄光学園中学高等学校 望月 伸一郎 校長
-2018.04.11-
他者とともに生きる精神と心を育む
「MEN FOR OTHERS, WITH OTHERS」
Profile
栄光学園中学高等学校 校長
望月 伸一郎 先生
もちづき・しんいちろう●上智大学法学部を卒業後、栄光学園に社会科教諭として就任。剣道部を創設し、最初の顧問となる。2009年の教務部長就任を経て、2015年より同校第6代目の校長をつとめる。中学生から続けている趣味のチェロ演奏で、栄光フィルに参加することもある。
イエズス会教育を理念に掲げ、自主性を重んじる栄光学園。緑豊かで広大な地に建てられた新校舎では、学業や運動に伸び伸びと取り組む生徒の姿が目立つ。1学年180人限定という少人数制のもと、一人ひとりに向き合うことを重視する教育方針について、TOMASの松井誠 入試対策本部長がお話をうかがった。
※この記事はTOMAS会員誌「冊子版Schola」第4号(2018年春号)の特集を再編集したものです。
イエズス会教育に基づいた一人ひとりを大事にする理念
栄光学園の教育方針であるイエズス会教育についてうかがいます。
元々は戦後の1947年に日本帝国海軍の施設跡を平和の基地に作り変えるという、占領軍による計画から始まった学校です。64年に海上自衛隊の施設跡を再利用したいという話があり、大船に移転しました。
野球場や運動場、体育館があり、広大な敷地と自然が近くにあるすばらしい校舎です。
新校舎を2階建てにした理由もそこにあります。AIが進化する一方で、未来のリーダーに求められることは、人でなければできないことだと思います。それは新しい発想やフェイストゥフェイスのコミュニケーション力、五感を使って目の前の自然からさまざまな情報を吸収していく力であり、その力は多感な中学・高校の時期に初めて築かれるものです。
フェイストゥフェイスということですが、「校長倫理」の授業を通して、6学年の生徒全員の顔と名前を覚えていらっしゃるとか。
校長が中学1年生の授業を一年間受け持つという開校以来の伝統です。イエズス会教育には「cura personalis(ラテン語/意味は『一人ひとりの世話』)」という言葉があります。一人ひとりの個性や発達の特性、発達の進度に応じて可能な限りの対応をしていくという考えです。
新入生たちは、一年間でどのように変化していくのでしょうか。
新入生はまず集団教育のなかで、状況に応じてどのような言動を取るかを自分で判断することを学んでいきます。たとえば、先生が静かにしなさいなどと繰り返すのではなく、クラス全員がパッと静かにするにはどうしたらいいのか、ということを生徒たち自身で話し合うようになります。教員は、一つひとつ具体的なルールを決めていくそのプロセスを大事にしています。
栄光学園の伝統である「瞑目」についてお聞かせください。
いわゆる祈りの時間ではなくメディテーション(瞑想)の時間です。授業開始と終了時に、30秒~1分程度の時間を取っています。瞑目することで心を落ち着かせ、自分を客観的に見つめることができる効果がとてもよいと思います。大学受験の際は、センター試験などの前でも瞑目をしているそうで、普段の気持ちに戻ることができると聞きました。
生徒全員が外に出て行う、名物の中間体操もありますね。
大事なことは体操を「させられている」のではなく、「自ら行う」ことです。自分で目標を持って取り組みやり遂げたことは、他人のものではない、自分だけの貴重な体験・財産であると常に生徒に言っています。私や教員も生徒と同じ格好で体操をします。先生が体操している姿を見てそれに倣うことで、子どもたちが自ら行う動機づけにしてほしいと思います。
活躍中の卒業生を招くOBゼミ、仕事を考えるきっかけに
6年間を中学1年・2年、中学3年・高校1年、高校2年・3年と2年ずつに分けて指導します。
創立50周年から初級段階(中学1年・2年)、中級段階(中学3年・高校1年)、上級段階(高校2年・3年)に分けて、各段階における生徒指導上・学習指導上の目標を設定し、それを具体化するプログラムを実施しています。中学3年生と高校1年生は他の学年にはない特徴的な成長の段階を示すため、2学年ずつに分けて考えた方が非常に現状に合っていると思います。
必修選択授業の高1ゼミや、その中のOBゼミが特徴的です。
学習指導要領にはないさまざまな側面から知育や体育、徳育に触れさせていくことが、栄光であればできるのではないかという考えから始まっています。選択したことをとにかく一年間続けてみることが大事で、外国語や手話などの言語コースや、敷地内の畑で育てた作物を自分たちで料理して食べるというコースもあります。
OBゼミでは、社会の第一線で活躍している卒業生が話をしに来てくれます。前回は医師として僻地医療に取り組む卒業生が来てくれました。ほかにも宇宙飛行士や建築家などの卒業生を紹介することで、仕事とは単に有名な大学を出て大手の企業や官公庁に入ることだけではなく、多様な選択肢があるということを考えるきっかけにしてほしいと思っています。
栄光学園は東大の合格者数がトップレベルで医学部志望者も多いです。医学部志望の生徒には、本当に医師になりたいのかと揺さぶりをかけるとか。
決して偏差値だけで医者になるべきではないと思っています。医者はとても貴重な仕事ですが、人間の死や精神に立ち会う覚悟や、医者であるという自覚が必要であるという話を生徒にはもちろん、父母会でもします。栄光学園では「MEN FOROTHERS, WITH OTHERS」という言葉を大切にしています。この言葉を非常にわかりやすい形で実現できる仕事が医者だと思いますので、医学部を志望する生徒が多いということは、教育の成果のひとつだと思います。
教育の主たるものは家庭と学校の連携であるという点についてお聞かせください。
「教育は家庭の理解や協力がないと無力である」。これは初代のフォス校長の言葉です。中学生になったから、教育は100%学校に任せて家庭は何もしなくていい、ということでは決してありません。しかし、小学生のときのようにたくさん話しかけると、子どもは逆に引いてしまうため、言葉をかけるタイミングと距離感のモードを切り替えることが大事です。 本校では春と秋に地区別懇談会があり、同じ地区の中1~高3の保護者の方たちが集まります。高3の保護者の方から中1の保護者の方がアドバイスをもらうなど、保護者同士のコミュニケーションを築く場となっています。
新校舎に込めた想いと国際教育に必要な経験とは
新校舎は木材とガラスによる採光部が広いのが特徴的です。
いわゆる“自然に負ける”建築ですね。完全に周囲に溶け込んで、威容を誇るものではありません。卒業生である隈研吾さんが設計したほかの建物とよく似た建築だと思います。
職員室には壁がなく、廊下と一体化しています。ラーニングスペースも開放的ですね。
私はラーニングスペースを「知の汽水域」と言っています。汽水域とは、海水と淡水が混ざり合う河口付近のことで、多様な生物が生息する生命資源豊かな場所です。職員室や図書室、個別自習室や教室からも近く、性格の異なるものがそこで混ざり合うことで、空間が豊かになっていく効果を狙いました。
国際教育としての海外交流についてお聞かせください。
フィリピンのイエズス会学校への留学では、住環境改善地区にホームステイをします。国としての課題や現地の人が私たち日本人に期待していることを直接感じる体験は、生徒がさまざまな場所でリーダーシップを発揮していくときに大事な土台となるでしょう。フィリピンは経済成長が著しく、高度成長を知らない日本の子どもたちにとって、国が成長して伸びていく姿を目の当たりにする経験もとても貴重だと思います。
1月初旬には同じイエズス会学校であるボストンカレッジの副学長が本校を訪問し、高1と高2の英語の授業を行いました。イエズス会の神父様である副学長から、自分の能力を活かしていくことの大切さについてのお話があり、とても有意義な時間でした。
そうした国際教育を生徒たちは日常的に身近に感じているのですね。
創立当初、教員の約4分の1がさまざまな国籍を持つイエズス会の神父様でしたので、自然にグローバル教育ができていました。当時の卒業生の話では、外国人と言葉が通じても、どうしても通じ合えない部分があるという体験をしたそうです。国の違いによるぶつかり合いやすれ違いが大事なコミュニケーションなのだと体験したことは、とても貴重なことです。文化として根付いてきた民族の多様性を今の生徒たちに感じてもらうには、海外のイエズス会教育機関とのネットワークを活用していく必要があると思っています。
栄光学園の入試問題は思考力が問われますが、こだわっている点をお聞かせください。
入試問題は学校の教育を紹介するひとつの大事なメディアであると解釈しています。本校の入試問題には記述が非常に多く、自分で考えた発想を論理構成して記述回答する力が求められるため、対策が立てにくいという声をいただきます。しかし、ここに本校が大事にしていることが表れているのです。算数の問題では最終的な解答が間違っていても、問題を解くプロセスを重視していますので、段階採点を行っています。理科や社会では覚えた内容を基に何を考え、どうまとめて表現するのかを重視しています。
中学受験をするお子様や保護者様にメッセージをお願いします。
栄光学園は少人数制で生徒と先生の距離が近く、非常にコミュニケーションが取りやすい学校です。生徒の自主性に任せるというスタンスや、失敗を通じて学んでいくことを大事にし、学校側も常に考えながら進んでいます。
在校生に本校を選んだ理由を聞くと、広い敷地や広い空、そして明るい先輩たちの様子を見て、この学校に入りたいと思ったと言います。本当にその通りで、栄光にしかない魅力だと思いますので、ぜひ一度見に来てください。
取材を終えて―
TOMAS入試対策本部 本部長 松井 誠
10分間の休み時間でも校庭に出て遊び、チャイムが鳴るとパッと教室に入る元気でメリハリのついた生徒たち。栄光学園ならではの自ら考える力を育み、自主性を大事にする教育が根付いていると実感しました。
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