第19回 豊島岡女子学園中学校・高等学校 竹鼻 志乃 校長
-2020.01.09
Profile
豊島岡女子学園中学校・高等学校 校長
竹鼻 志乃先生
たけはな・しの
●豊島岡女子学園1984年度卒業生。筑波大学生物学類を卒業後、民間企業の研究所に4年間勤務し、1993年豊島岡女子学園の理科教員として着任。2013年より現職。
東京大学や医学部へ毎年国内トップクラスの合格者数を出し続けている豊島岡女子学園が今、大きな転換期を迎えている。
21年度入試をもって高校入試を廃止し、入り口を中学入試に一本化するのだ。
今回の変更の狙いはどこにあるのか。高校入試廃止分の定員枠はどうなるのか。
竹鼻志乃先生に詳しくお話を伺った。
また、コロナ禍で生徒たちはどのように学んでいるのかと、
授業や学校行事、次年度の入試予定についても取材した。
※この記事はTOMAS会員誌「冊子版Schola」第14号( 2020年秋号)の特集を再編集したものです。
4月初旬からいちはやく対応
オンラインでも質の高い学習を
まずはコロナ対応についてお聞きします。緊急事態宣言期間中、授業はどのように行ったのですか。
緊急事態宣言発令の翌日、4月8日に生徒たちには動画配信で授業を行う旨を伝え、13日からGWまでの3週間は動画で授業を行いました。緊急事態宣言が延長された5月中は動画対応を継続し、6月からは分散登校を実施しています。
はじめはクラス全員が集まる日を2日間設け、その後はクラスの半分ずつを交替で登校させました。2週間かけて1週間分の授業を実施するという状況でした。7月からは通常登校に戻しましたが、お昼休みの短縮、クラブ活動の休止などの感染防止策は継続しています。
受験生は特に不安も大きかったと思いますが、生徒たちの反応はいかがですか
高3にもなると勉強の仕方が身についており、授業内容も単元学習がすでに終わって演習中心へと移行していたため、学習面での大きな不安はなかったようです。これから定着確認の考査を行うので、結果を注視して心配な生徒には個別対応をとっていく予定です。夏期講習も高3生だけはオンライン授業と対面授業を混ぜながら実施します。
新入生への対応はどのようにされたのですか
入学式は5月8日にWeb上で実施しました。入学記念の写真を撮れるように6月に入ってから5日間ほど校門前に入学式の看板を設置し、御家族と一緒に撮影ができるようにしました。多い日では40組ほどが写真を撮りに来られ、なかには着物をお召しになったり、撮影のときだけ冬服を着せて撮ったりしている姿も見られました。また、新入生の不安を少しでも減らせるように、生徒同士の交流の場をWeb上で設けました。授業に関する質問を投稿する以外に、自由に雑談できる場を設けたところ、個性豊かに自己紹介や趣味の話をして盛り上がっていたようです。
文化祭、運動会や修学旅行など、今後の行事はいかがですか
11月の文化祭はリアルでの実施は厳しいので、オンラインでの開催を検討しています。運動会は毎年入間市にある運動場で実施していますが、今年は中止しました。修学旅行は今のところ3月に延期して実施する予定です。昨年度から学年全員同じ行き先ではなく、3行程にわかれて各自が興味関心のある行程に参加する形式をとっています。今年も広島、長崎、鹿児島の3行程で調整しています。学校は勉強のためだけに学校に通うところではありませんので、可能な限りさまざまな学校行事を経験させてあげたいと考えています。
ここからは貴校の教育方針や伝統についてお聞きします。貴校は何といっても運針が有名ですよね。
毎朝5分ひたすら針を進める「運針」は、1948年に第五代校長・二木友吉先生が「無心になる」「基礎の大切さを知る」「努力の積み重ねの大切さを学ぶ(勤勉努力)」「特技を持つ(一能専念)」を目的に掲げ考案したものです。
以来70年以上続く伝統になっており、受験会場にお守りとしてもっていくほど、生徒たちにとって愛着のあるものです。
新入生には運針用具を配布し、休校期間中は動画でやり方を教えました。しっかりと練習していたようで、6月の登校開始時には上手に縫えるようになっている生徒も多く見られて、頼もしく思いました。
教育方針は「道義実践」「勤勉努力」「一能専念」の3つを掲げています。これは学校教育に限らず、一生涯通じるものだと考えています。努力を怠らず、一能を磨き、正しい判断のできる人になってほしいですね。また、品位ある女性に成長してほしいという想いから、礼儀作法についてもしっかりと指導をしています。形通りにふるまえるようになることが目的ではなく、その背景にある思いやりの心を学んでもらうべく、小笠原流礼法の先生が、礼法・マナーに関する講義と、和室と洋室での立ち居振舞いの指導を行っています。
高校入試廃止分の入学枠は純減
今まで以上に手厚い指導を行う
21年度をもって高校入試を廃止し、中学入試に一本化することを発表されました。これはどういった狙いがあるのでしょうか。
すべての生徒の成長を6年かけてしっかりと丁寧にサポートするためです。そのため、高校入試廃止後も中学入試の定員は増やさず、240名で据え置くことにしました。
高入生は1~2年次、中学から通っている生徒たちとは別のクラスで学び、進度の都合上違うカリキュラムを組んでいました。今後は一本化することで、今まで以上に生徒一人ひとりを手厚く見ることができるようになると考えています。
進学実績はもちろん重要ですが、大学に合格することは人生のゴールではありません。常に勤勉努力でき、社会に出て自分らしく活躍できる人を育てたいですね。大学への進学実績だけではなく、卒業生が社会で多様に活躍している学校をめざしています。医学部に進学した卒業生は多くいますが、医学界でも活躍する人が増えると、続く後輩は心強いですね。
貴校はクラブ活動が盛んなことでも知られていますよね。
クラブは人間力を磨く場と考えています。ときには自分が希望しない方向に話がまとまることもあるでしょう。それでも皆で決めたことに対して全力で取り組む経験を通じて、協調性を身につけていきます。また、下級生が憧れの先輩の背中を追いかけて育つだけでなく、上級生も下級生への接し方を通じて多くのことを学んでいきます。
また、クラブの先輩は一番身近な年上の存在であり、そんな彼女らが東大や医学部に合格していく姿を見ることで、自分も行けるかもしれない! と勇気をもらっているようです。
一昔前は「東大をめざすなんて恥ずかしくて周囲に言えない」という考えの生徒もいましたが、今ではそういう声は聞かれなくなりました。
グローバル教育やSSHの取り組みについてお聞きします。
カナダ、イギリスなどへの2週間の海外研修、ニュージーランドへの3カ月留学、ハーバード大やMITの学生と交流するボストン短期研修など、現地で学ぶ機会を多く設けています。ただ、今年に関してはどれも中止が決まっています。国内で行う異文化体験研修は3月に延期して実施する予定です。これまでは中2の70名ほどで福島のブリティッシュヒルズに行っていましたが、今年から全員参加とし、行き先を東京グローバルゲートウェイに変更しました。SSHに指定された2018年度からカリキュラムを一部変更し、英語ではディベート英語という科目を設置しました。日常会話ではなく議論できるレベルを目標に設定したもので、年度末にはクラス対抗のディベート大会を実施しています。
SSHでは高1は科学探究基礎Ⅰの授業で、科学的思考力、データのまとめ方、ICTリテラシーなどについて学び、探究の成果をグループごとに発表してもらいます。高2からは文理が分かれるため、科学探究Ⅱもしくは総合探究Ⅱを学びます。完全中高一貫校になったら基礎探究を中3から導入し、より探究活動を充実させていきたいと考えています。
貴校の入試は受験者数が非常に多いことで知られており、次年度の実施予定に注目が集まっています。
入試は例年通りの日程で実施する予定です。体育館を試験会場にしていた時期もあったので、広い会場を使うなど密にならないよう工夫して実施したいと考えています。
また、説明会については当面はオンラインでの開催を予定しています。しかし、6年生は実際に一度は自分の目で学校を見ておきたいことでしょう。少人数ずつ見学できる機会を設けるなど今後検討が必要だと考えています。
入試ではどのような力を見ているのですか
最近は表現力を問う問題を出題する学校が増えてきていますが、当校では表現力は入学後に磨いていけばよいと考えています。それよりも入試では問題数を多めに設定することで、判断力や処理能力を見ています。入学後は勉強や行事で多忙な毎日が待っているので、入学後に学校生活についてこられるかどうかを問う問題になっています。
最後に、貴校を志望する小学生たちに向けてメッセージをお願いします
とても優秀な生徒たちが集まっているので、刺激しあって高め合いながら成長していける環境があります。異性の目を気にすることなく、勉強に部活に趣味に、全力で取り組むことができる豊島岡の6年間で、きっと多くのものを得られるでしょう。ぜひ当校を目指して頑張ってほしいと思います。
取材を終えて―
TOMAS入試対策本部 本部長 松井 誠
高校入試の定員分を中学入試に充当しないという判断に学校の「覚悟」を感じました。毎年東大や医学部へトップクラスの合格実績を出し続けていましたが、今後は合格者数だけでなくOGたちの活躍ぶりにも期待が高まります。
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