第16回 聖光学院中学校高等学校 工藤 誠一 校長
-2019.09.05
献身の精神と、高度の学識をかねた
有能なる社会の成員を育成する
Profile
聖光学院中学校高等学校校長
工藤 誠一先生
くどうせいいち
●聖光学院中高11期生。大学卒業後、聖光学院中高にて社会科教諭として勤務ののち、2004年より現職。一般財団法人神奈川県私立中学高等学校協会の理事長も務める。
1958年創立の神奈川県を代表する中高一貫男子校。
例年、東大をはじめとする最難関大への進学実績に定評があった。
2019年度入試では前年度比16名増、93名の東大合格者を出し、
100名の大台に王手をかけた。大躍進の舞台裏に迫る。
※この記事はTOMAS会員誌「冊子版Schola」第10号( 2019年秋号)の特集を再編集したものです。
成功に近道なし
大躍進の秘訣は遠回りにあり
今春、東大合格者数全国4位ということで大変話題になりました。本日はそんな貴校の特徴についてお伺いできればと思います。
東大や京大などの最難関大は、短期間の詰め込み型の指導で合格できるものではありません。中学生の頃から、時間をかけていろいろな指導・経験を積み重ねたことが相乗効果を生み、今回の実績に結びついたものと考えています。
私自身、社会科教諭時代に多くの高2、高3を受けもってきましたが、伸びていく生徒は知的好奇心が強く、中学~高1の段階から興味関心の幅を広げ、いろいろなことに挑戦している傾向があります。そうして勉強の土台をしっかりと築くことが、結果的に志望する大学に合格する力を身につけることにつながるのです。
貴校は受験指導に直結しないカリキュラム・指導内容も多いですね。
伝統的に続けてきたこととしては、聖光塾や選択芸術などがあります。聖光塾は教養を高めることを目的としており、学年を限定せず、任意で自分が興味のある講座に参加するものです。「本気の昆虫採集」「ヤングアメリカンズ」「ロボット作り」「シリコンバレー研修」など内容は多岐にわたります。「シリコンバレー研修」では、実際に10日間サンフランシスコに行き、現地の企業や大学を訪問します。このプログラムに参加したことがきっかけで、海外の大学進学を決めた生徒もいますよ。選択芸術では音楽や美術を中心に、さまざまな芸術・文化に触れます。
2007年から導入した選択社会科演習では、中3の秋に2泊3日の宿泊体験に行きます。四国お遍路の旅や白神山地探訪、次年度からは、往復で+2日かかってしまいますが小笠原諸島へ行くプログラムも実施予定です。
タブレットや電子黒板の導入など、ICT活用も進んでいると伺いました。
移り変わりが激しく、多様化する現代社会で生き抜いていくためには、ICT活用と語学力が欠かせません。これらを習得することで、さまざまなことに挑戦する機会が増えていくと考えています。
本校では、生徒1人に1台のchromebookを支給しています。表計算やプレゼン用ソフトなどの操作は自分専用の端末があるほうが習得が早いですから。また、全教室に設置している電子黒板と併用することで、生徒が回答をchromebookで送信するなど、双方向型の授業が可能になっています。メールアドレスを全生徒に発行しており、重要な連絡を迅速に周知できたり、詳細が載っているURLを添付できたりすることもメリットとして実感しています。
オンライン英会話でもタブレットが活躍しているそうですね。
中2から始まるオンライン英会話では、chromebookを使ってフィリピンの現地講師による週3回のマンツーマン英会話レッスンを受けます。マンツーマンですから、必ず自分も会話しないといけないわけです。生徒たちに導入したのを機に私も英会話を学び始めたのですが、効果を実感しています。終業式の日は、生徒の海外研修の同行でアメリカにいるため、校長の挨拶はムービーで撮って送ることになっています。アメリカにいるので、もちろん英語で話しますよ(笑)。
次々に新しい取り組みに着手されていますね
何か新しいことをしようとすれば、当然反発はおきます。しかし、良いと思ったらまずやってみることが重要です。当校の取り組みを他校の先生方がよく視察にくるのですが、もち帰って検討する段階になって、ほかの先生から懸念点ばかりを指摘されて見送りになってしまうことが多いと聞きます。検討し過ぎも考え物です。
海外研修について詳しくお聞きしてもよいでしょうか。
主だったものでは、先に挙げたシリコンバレー研修のほか、ボストン研修やSSHマレーシア研修などがあります。ボストン研修ではハーバード大やMITなどアメリカの名門大学を訪問し、現地学生と交流しながら課題解決型のグループワークなどに参加します。SSHの海外研修は年度によって行き先が変わります。今年は定期テスト直前にもかかわらず11名が手を挙げ、選考の末3名がマレーシアへ行ってきました。
海外研修に参加した生徒にはどのような変化が見られますか?
大きく2つの収穫があるようです。一つは英語力に対する自信。これまで勉強してきた英語が現地人に伝わったことで自信がつき、学ぶ英語から使う英語に変わるようです。もう一つはプレゼンテーションスキルの向上ですね。こういった研修ではプレゼンする機会が多いので、発表後に反省や振り返りをすることで、上達していきます。うまくプレゼンできた生徒もできなかった生徒も、その後必ず成長していきます。
厳しい受験指導はしないが
自ら学ぶ環境は贅沢に整える
ここからは部活動や学園祭についてお聞きします。前号のスカラで貴校の学園祭を取材させていただいたのですが、本当に活気のある大規模な学園祭でした
そうでしょう。聖光祭をきっかけに当校を志望校にする生徒も毎年多くいます。聖光祭実行委員や生徒会役員などは、よく私のところに直談判しにやってきます。「これをやらせてほしい」「予算がほしい」などと交渉して自分たちのやりたいことを実現していくのです。そういう風土こそ聖光らしさと言えるでしょう。
部活動についてはいかがでしょうか。
日本では、一つのことにひたすら打ち込むことを美徳とする文化がありますが、在学中は多くのことに挑戦する機会をもってほしいと考えています。そのため部活動は週3回としています。部活動に全力で打ち込みつつ、活動がない日は委員会や課外活動などに参加するなど、何かと掛けもちしている生徒が多いですね。
御校の特徴の一つとして、塾・予備校に通う生徒が少ないという話もよく聞くのですが、その点についてはいかがでしょうか。
研修兼宿泊施設として設置されているザビエルセンターを自習場所として開放しています。70~80名が放課後や土日に自習していますよ。また、2014年に新校舎を建てた際に職員室を開放的なつくりにしたので、教員に質問にくる生徒も増えました。彼らのもってくる質問のレベルの高さには驚かされます。「東大の過去問を解いて解説を読んだけれども、自分は解説とは違う解法で解いてしまった。この解法でもよいのか」といった質問がいきなりくるわけです。
先生でも即答は難しいかもしれませんね。
そうです。その場で検証してみないと答えられません。それが可能な教員が揃っていないと、生徒は他所に通わざるをえなくなってしまうのです。聖光では、先生方に各教科のプロフェッショナルとして高い指導力を維持していただくために、雑用などは極力減らし、部活動も週3回に留めています。忙殺されて教科研究の時間をもてず、指導力が低下しては本末転倒ですから。塾・予備校で指導力に定評のある先生を採用したこともあります。
低学年からの土台作りに始まり、受験学年向けの環境整備まで、さまざまな要素が作用して、今年の結果に結びついたのですね。
最後に貴校を志望する受験生に向けてメッセージをお願いします。
まだ受験まで時間のある低学年の方は、ぜひ一度うちの学校行事を見に来てください。おすすめはやはり聖光祭ですね。自分の目で在校生を見て、聖光の雰囲気を肌で感じてみる。受験学年の方は、過去問を解いて問題の傾向を把握してみるとよいでしょう。問題の傾向は大きくは変わらないので、しっかりと対策をして解く力をつければ大丈夫です。
取材を終えて―
TOMAS入試対策本部 本部長 松井 誠
前号では学園祭も取材させていただき、展示・出し物等のクオリティの高さや、統率のとれた運営手法に感心しました。こうした学校行事に本気で取り組む姿勢が、大学受験で成果を出すことにも繋がっていたんですね。聖光学院中学校高等学校の学校情報と入試対策を知る
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