Profile
早稲田大学系属 早稲田実業学校
初等部・中等部・高等部
副校長 国際交流担当
菱山 和広先生
ひしやま・かずひろ●初等部から高等部まで、海外の複数の学校との提携・調整を行う国際交流担当。
第8回 早稲田実業学校 村上 公一 校長
-2018.10.02
早稲田大学系属 早稲田実業学校校長
(早稲田大学 教育・総合科学学術院教授)
村上 公一 先生
むらかみ・きみかず●名古屋大学文学部卒業。2002年に早稲田大学教育学部教授に就任。教育・総合科学学術院院長・教育学部長等を経て14年より早稲田大学理事。18年より同校校長に就任。
早稲田大学系属 早稲田実業学校
初等部・中等部・高等部
副校長 国際交流担当
菱山 和広先生
ひしやま・かずひろ●初等部から高等部まで、海外の複数の学校との提携・調整を行う国際交流担当。
「豊かな個性と高い学力、苦難に打ち克つ逞しい精神力を兼ね備えた人物」を育成する教育方針のもと、未来を見据えて常に変化を続ける早稲田実業。村上校長先生、菱山副校長先生の両名に、伝統を守りながらも変革を続ける早稲田の教育についてお話をうかがった。
※この記事はTOMAS会員誌「冊子版Schola」第5号( 2018年夏号)の特集を再編集したものです。
早実の一番の特徴である校是「去華就実」と校訓「三敬主義」の話をしました。また、早実の卒業生はほとんどが早稲田大学に進学しますので、早実の教育と早稲田大学の教育の連携や、校是校訓と早稲田大学の教旨の違いについて話しました。
去華就実は読んで字のごとく「華を去って実に就く」ということです。いわゆる外面的な華やかさではなく、内面や実質そのものを大事にする。これが早実の精神であり、創立以来の校是です。
これと併せて校訓の三敬主義があります。三敬主義は、「他を敬し、己を敬し、事物を敬す」という言葉です。「他を敬す」とは人に敬意を持って接し、相手を理解して一緒に何かをしようとする姿勢。他者に敬意を持ち、他者を理解して一緒に何かをしようとするという姿勢は、グローバル社会においてより一層求められていると思います。「己を敬す」とは自分の劣っている点も含めて自分自身を肯定したうえで、自分に足りないものを知り、努力していくこと。そして「事物を敬す」とは、例えば早実の校長である私は、早実に対して先入観を持たず、レッテルを貼ることなく、学校長の仕事について誠意を持って取り組む。この姿勢が事物を敬すということです。
新入生オリエンテーションの校長挨拶で「私は歩く三敬主義でありたい」という表現をしました。生徒たちには、これから三敬主義を中心とした器の中で育ちながら、卒業時には生徒全員が“歩く三敬主義”になってほしいと思います。そのためには、校長である私自身がどこを切り取っても三敬主義を貫いていることが大事である、と考えています。
早実は当初、大学で学ぶ専門教育を前倒しで速習的に行い、かつての中等教育を卒業するまでに大学の卒業生と同等の教育ができるのではないか、という実業教育の考えから始まりました。その後、実業教育から普通科教育への大きな転換がなされ、中核的な人材の育成を目的に初等部を開校しました。また、国分寺に移った翌年に男女共学になりましたが、大学も将来的なビジョンとして男女の割合を半々とする予定です。
実は早実だけではなく、早稲田大学の附属系属校が全体的にダイナミックに変化しています。それは、常に変化していく「進取の精神」が早稲田の中にあるからでしょう。
早実は、学業と課外活動の両立に力を入れる学校です。この敷地はまさにスポーツ系の課外活動や部活動には適しています。八王子市南大沢にもグラウンドがあり、スポーツをする生徒にとっては、伸び伸びとした非常に魅力的な環境だと思います。最寄り駅から徒歩7分という近さも恵まれていますね。
副校長:数年前に、イギリスの名門パブリックスクール・ラグビー校と協定を結びました。毎年2名の生徒が、中等部3年の夏から高等部2年の夏まで2年間をラグビー校に留学して勉強します。今は一期生として女子生徒が留学しています。今年の夏から行く二期生の生徒もすでに決定していて、準備を進めているところです。また、かつては海外留学すると進級が一年間遅れましたが、今は遅れることなく進級復学ができる制度になっています。
それはそれでいいと思っています。教育界の世界的なネットワークの中で、ハブのひとつであり続けたいと考えていますので、早稲田のネットワークの中で学び、必要であれば外に出る。そして必要なときに戻ってきてもらう。そうすることで、早稲田全体としての力が強化されていくと思います。
早稲田大学では、学部生の4年間のうちに一度は留学する、という方針がありますが、私は大学生よりも前、中学高校の段階で留学できるなら、ぜひ行ってほしいと思います。
私自身、大学院生のときに初めて海外へ2年間留学しましたが、もっと若いころに留学したかったと痛切に感じました。すでに進む道が決まっていて留学するのと、進む道がまだ決まらず、どの道も選べる状況で留学するのでは、受け取る刺激が全く違います。留学最初の一年でたくさんの刺激を受け、二年目はその刺激をもとに進む道を考えられる貴重な機会となるでしょう。ぜひ、若いときに深い刺激を受けてほしいです。
高等部2・3年生を対象に大学の授業を選択受講でき、大学入学後に単位として取得できるシステムや、大学の先生が高等部に来て行う模擬講義があります。しかし、本当に高大接続をめざすにはまだまだ足りない。大学創立150年の2032年に向けて、附属系属校と大学の高大一貫教育を本当の意味で実践していきます。平面的な接続ではなく、附属系属校だからこそできる大学までのつながりを意識した教育の提供など、お互いに融合していく接続を行っていこうと、大学、附属系属校の教員が共に検討を始めています。
総合ランキングは200位前後で変わっていませんが、医学系以外の分野では、この4~5年で軒並み上がっています。人文科学は100位台から45位、社会科学も60位に、自然科学は200位台から113位、工学も97位まで上がりました。さまざまな大学とつながることで世界的な研究を行い、認知度も上げています。これから受験される方には、昔のイメージだけではなく、大きく変化している今を見ていただきたいと思います。
今までは学習でつまずいている生徒へのケアは担任や科目担当者にお願いしていましたが、昨年から一人ひとりの生徒に合った学習法を提供する個別対応の体制を作りました。
この体制を作ったことで、下位だった成績が徐々に上がってくる生徒も現れてきました。受験がない附属系属校というのは、逆にその分、きちんとした教育を提供し続けないといけません。まだまだ早実には変化する余地がたくさんあります。変化していく過程の中で、教員にとっても生徒にとっても、どう変化していくのが一番よいのかを常に問い続けていく必要があると思います。
また、今年度より中等部2・3年生の英語の授業で、習熟度別クラス編成を始めています。
これには三敬主義の精神が関係しています。内部生は「他を敬し、己を敬し、事物を敬す」を学んできていますから、外部生という他者を敬して接することができて当然であり、お互いの関係はスムーズにいくはずです。仮にスムーズにいかないなら、他を敬す、己を敬すことが自分のものになっていないということですから、教育や学校のあり方を考えていかないといけませんね。
副校長:4月には、グループごとに長野県駒ヶ根市の校舎で二泊三日のオリエンテーションがあります。このときに、誰が外部生で、誰が内部生だ、と区別しないぐらい親しくなりますので、心配いりません。
副校長:高1からの成績と、高3で行う2回の学力試験の合計点で順位が決定し、順位の高い生徒は第一志望学部進学に有利になります。また、高2の夏に大学各学部の先生にお越しいただき、学部紹介をしていただきます。そこで生徒は自分の行きたい学部、自分に合った学部を選び、夏休みのオープンキャンパスに参加して、実際の学部の様子や雰囲気を体験します。
しかし入学後、思い描いていたイメージと違う、という問題がどうしても出てきます。この問題をなくすために、高大接続をどう変えていくかが、大きな鍵になります。一番大事なことは、生徒本人が何をやりたいのかという希望と適性の2点です。ここに学力を総合して最終的に進路を決めていく形が理想です。
副校長:やはり今まで難しい問題が多かったかもしれません。今後は、なるべく考える過程や、解答を導きだす過程も重視するような出題に変更しようと、各教科の担当者が検討を重ねています。入試のあり方も変えていく必要があると思います。
早実の使命は、新しい時代を切り拓くことができる豊かな人間性と、確かな学力を身につけさせることです。そして、早稲田大学の中核となり、伝統を継承して新たな価値を作り出していける人材の育成です。そのような早実の使命に共感し、一緒にやっていきたいという意欲を持ったお子さんに、ぜひ来てほしいと思います。人格や心が大事ですから、勉強だけではなく精神的にたくましいお子さんを、ぜひ中学受験までに育ててほしいと思います。
伝統校でありながら、恵まれた環境で勉強も部活動にも伸び伸びと、全力で楽しむ文武両道を体現する生徒の姿が印象的でした。常に未来を見据えて変化し続ける早稲田実業学校の今後が楽しみです。
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