おかあさんの参考書
「中学受験生活に疲れたら?」を考える

「中学受験生活に疲れたら?」を考える

鳥居りんこ

「夏を制する者は受験を制す」といわれる夏休みに入りました。中学受験を目指す小学6年生はまさに“天王山”を迎えたわけです。
夏休みはまとまった期間、受験勉強に集中できる機会なので、この時期の頑張りが合否に影響するということなのですが、実は、この時期に「中学受験からの撤退」を考えるご家庭も少なくありません。

夏に「中学受験撤退」が起きる理由

たいていの大手中学受験塾では、お盆休みの数日間を除き、毎日、長時間の講義を受けることが普通です。昼食と夕食は塾で食べるという子も珍しくありません。
さらに、6年生の夏期講習は“総仕上げ”とばかりに、学習の量・質・スピードともにマックスの状態になりますので、それについて行くだけでも子どもにとっては大変です。
塾からの課題もたくさん出されるでしょうし、小学校で出された夏休みの宿題もこなさなければなりません。

「あれも!」「これも!」と追い立てられるように感じ、フルスピードで展開されていく講義や課題が未消化となり、「ついて行けない」と親子で悩むケースが続出してしまうのです。
塾の先生方に話を聞くと、「中学受験からの撤退を言い出すのは、たいていは親の側」とのことです。その理由としては、「お金も時間もかけているのに、子どもにやる気が見られない」「勉強しても成績が上がらない」「子どもらしい生活とは言えない」などが多いそうです。

もちろん、ご家庭個々の事情があるので、撤退するも受験を続けるも自由です。撤退したからといって、それまでの受験勉強生活で得た知識がなくなるわけではないので、何が何でも「中学受験」という選択が正しいとも思いません。
ただ、その決断には、子どもの意思を反映して欲しいと思っています。
「子どものやる気が見られないので塾をやめさせた」というご家庭の話を聞くと、実は子どもは「やめたくなかった」と思っていたというケースも、思いのほか多いものです。

長い受験生活、しかもコロナ禍の中、毎日続く長時間講義に疲れないほうがおかしいのですが、もし親の目から見て、子どもが疲れている、子どもが参っている様子が感じられたら、以下のことを考えてみてください。

1. 「課題をやらせすぎていないか?」という視点で学習計画を見直す

課題は毎日のように大量に出ますし、翌日には違う単元を学習するので、翌日には違う課題が出ます。つまり、下手をするとドンドンと課題の積み残しが増えていく構図になるのですが、全部やることは恐らく物理的にも不可能です。もともと中学受験の課題は、全部を完璧に仕上げる必要はないものなのです。

理解度に応じて、やるべき基礎問題、できればやったほうがよい問題、現時点では不必要な難問などに振り分け、家庭内で取捨選択するのが現実的です。
一番いいのは子ども自身がその割り振りができることですが、小学生には至難の技になりがちなので、ここは親の出番です。
もし、よく分らない場合は遠慮なく塾に「最低限やるべきこと」「余力があったらやったほうがいいこと」という具合に、具体的に指導してもらってください。

2. 疲労回復に努める

何がなくとも健康です。健康あっての受験なので、睡眠不足であるならば、ゆっくり眠らせることを一番に考えてください。
お風呂が好きな子ならば、ゆっくり入れる時間を取る、夏バテしないように好物を用意するなど、体の不調を治していくことが先決です。

3. タイムスケジュールの見直しを試みる

余裕を失っていないかという目線で、タイムスケジュールを検討し直してみてください。
受験生活はストレスが強いものなので、1日1回は子どもの自由時間を取り、ストレス発散をさせたほうがメリハリがつくものです。
それがたとえゲームであったとしても、ストレス解消になるならば、逆に有効です。ただ、ゲームは時間超過になりやすいので、親が一方的にタイムスケジュールを作るのではなく、子どもの意見も十分に聞いたうえで見直してみましょう。

4. 思い切って休む

「朝、家を出たが、塾に着いていない」「結局、塾をさぼった」「家出した」というような、親が泣きたくなるようなできごとも起こり得ます。
その多くが、受験生活の“飽和状態”、いわば、アップアップな状態から来る行動です。
中学受験をやめたいわけではないことが大多数で、単純に「ちょっと疲れちゃった」ということが多いように思います。

そういう時は、「思い切って休む」ことを恐れないでください。
ほんの数日、何もしないからといって、受験校に不合格になることはありません。
せっかくの夏休みですので、コロナ禍ではありますが、ゆっくりできるところにお出かけしてみてもいいと思いますし、特に計画を立てずに、「好きに過ごす」ことを優先してもよいでしょう。
筆者の見聞きしてきた事例では、数日間「思い切り遊んだ」子は、元の受験生活に自ら戻っていくので、中学受験というのは不思議なものだと思います。

5. 子どもの話をよく聞く

中学受験は、はっきり言えば「親の押しつけ」です。子どもの様子が「疲れている」「やる気が見られない」という場合には、親の意見は一切挟まず、ただただ、子どもがどう思っているのかを、ゆっくり聞いてみてください。
子どもは親の本音を敏感に感じ取りますので、「親は本当はやめようなんて思ってないな」、あるいは、「お金の無駄遣いだから、成績が上がらないならやめてほしいと思っているな」などということは何も言わずとも把握しているものです。
親がどう思っているかは一旦、隅に置いて、子どもの本音をじっくりと聞く機会を設けることで、次の一手が見えてくるでしょう。

長い中学受験生活に浮き沈みはつきもので、親子のメンタルも上下していきます。
夏休みは特に親子のバトルが増える季節ですが、親子でこの生活に疲れたと感じたならば、上記のことを試してみてください。

著者プロフィール

鳥居りんこ
鳥居りんこ
とりいりんこ

作家&教育・介護アドバイザー。2003年、長男との中学受験体験を赤裸々に綴った初の著書「偏差値30からの中学受験合格記」(学研)がベストセラーとなり注目を集める。保護者から“中学受験のバイブル”と評された当書は、その後シリーズ化され、計6タイトルが出版された。自らの体験を基に幅広い分野から積極的に発信し、悩める女性の絶大な支持を得る。近著に『【増補改訂版】親の介護をはじめたらお金の話で泣き見てばかり』(双葉社)、『【増補改訂版】親の介護は知らなきゃバカ見ることだらけ』(同)、『親の介護をはじめる人へ伝えておきたい10のこと』(学研プラス)、企画・取材・執筆を担当した『女はいつも、どっかが痛い がんばらなくてもラクになれる自律神経整えレッスン』(やまざきあつこ著・小学館)、『たった10秒で心をほどく 逃げヨガ』(Tadahiko著・双葉社)、『1日誰とも話さなくても大丈夫 精神科医がやっている 猫みたいに楽に生きる5つのステップ』(鹿目将至著・同)、『神社で出逢う 私だけの守り神』(浜田浩太郎著・祥伝社)など多数刊行。最新刊は『消化器内科の名医が本音で診断 「お腹のトラブル」撲滅宣言!!』(石黒智也著・双葉社)

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