第6回 渋谷教育学園 幕張中学校・高等学校 田村哲夫 校長
-2018.04.11-
東大・ハーバード大・イェール大―
多様な進学実績は「自調自考」の成果
Profile
渋谷教育学園幕張中学校・高等学校、渋谷教育学園渋谷中学高等学校 校長
田村哲夫 先生
たむら・てつお●1936年生まれ。東京大学法学部卒業。住友銀行(現・三井住友銀行)に入行し、3年間の勤務ののち、1962年、学校法人渋谷教育学園常任理事に就任。1970年から理事長。1983年に幕張新都心に渋谷教育学園幕張高等学校を創立。公益財団法人ユネスコ・アジア文化センター理事長、中央教育審議会委員などを歴任。
2017年度の東大合格者数は78名。全国5位の進学実績を誇る。東大一辺倒ではなく、ハーバード大など海外有名大学への進学実績でも有名だ。大学合格だけを目標にした受験本位の詰め込み教育は行っていないというが、高い進学実績はどのような教育の成果なのだろうか。TOMASの松井誠 入試対策本部長がお話をうかがった。
※この記事はTOMAS会員誌「冊子版Schola」第2号(2017年秋号)の特集を再編集したものです。
「東大よりもハーバード」その仕組みを最初に実現した学校
先生は麻布中学のご出身ですね。
当時の校長は、戦後の麻布中学の基盤を作った細川潤一郎氏でした。細川氏は最高裁の判事を務めた法律家で、新憲法についての話を我々若い世代によく話してくださいました。私が渋幕を作る際も、麻布で学んだことが大変参考になりました。生徒の自主性を重んじる自由な校風の学校を作りたいと思ったのです。
渋幕といえば「グローバル教育」の先駆けです。どのような考えで建学されたのですか
大正時代に創立した渋谷教育学園は、女子の職業教育を目的としていました。理事長だった父の精神を受け継ぎつつ、私なりにどんな学校を作るべきか考えました。
1980年代、大正時代と同様に日本は大きな変化を迎えていました。ハーバード大学教授エズラ・ヴォーゲル氏の世界的ベストセラー「ジャパン・アズ・ナンバーワン」によって高度成長期の日本の勢いが世界の注目を集めます。さらに1985年にはプラザ合意で日本の円が世界通貨になり、日本人も世界を舞台に活躍する時代を迎えたわけです。今でいう「グローバリズム」ですね。このような世界情勢を背景に、これからの子どもたちは、国のためではなく人類社会のために活動し、それが結果的に国のためになるという考え方ができる子どもたちを育成したいと考えたのです。
ハーバード大学やイェール大学など世界の一流校へ卒業生を送り出しています。帰国生も積極的に受け入れていますね。
当校から海外の大学へ進学する生徒の半分は、帰国生ではなく外国に行ったことすらない生徒たちです。彼らが海外へ進学したいと考えるのは、帰国生の影響でしょうね。渋谷教育学園幕張中学校では毎年定員の約1割を帰国生枠としています。帰国生と共に学ぶことで、文化の違いを実感し、世界で活躍するために必要な寛容さを身につけてほしいのです。
今後日本は、少子高齢化で人口が減り、経済が縮小し、若者も夢を抱きにくい国になるでしょう。一方、周辺のアジア圏は急速に人口が増加しています。若者なら出ていきたいと思うはずです。若いうちは外に出て、高齢になってから日本に帰ってくればよい。それが当たり前と思える教育が必要です。その仕組みを最初に実現しようとしたのが渋谷教育学園幕張中学校であり、30年経過してようやく周囲も追いついてきたと思います。
実際に海外で活躍している卒業生も多いですね。
4期生で現在、日本マイクロソフトの社長をしている平野拓也さんがナンバーワンかな。今年プリンストン大学を卒業し、スタンフォード大学医学部の博士課程へ進学予定の山谷渓さんも渋幕の卒業生です。NHKの「アナザーストーリーズ」というドキュメンタリー番組に出た内山慧人さんは渋渋の6期生ですね。彼はハーバード大学を卒業し、Facebook創立者ザッカーバーグ氏の“ビジネスパートナー”というポストについている27歳の青年です。災害時に適材を適所に配置するという画期的な仕組みをFacebookで作り、ザッカーバーグ氏に認められたのです。東日本大震災では、物資は余剰にあるのに、必要としている人へ届けることができませんでした。彼が発見した方法を使えば、どこで誰が何を必要としているかが明確になり、震災やテロなどの災害時に役立ちます。彼はこのシステムをハーバード大学在学中に作ったそうです。
今年の東大合格実績は全国5位、一橋大は昨年全国1位に躍進
国内の進学実績も群を抜いています。今年は東大78名でしたね。
「自調自考(自ら学び・自ら考える姿勢)」を基準に6年間学ぶことが、この進学実績につながっていると考えています。
進学者数が最も多いのはやはり東大ですが、他の名門校と違うのは、一橋大や東工大、芸術系大学への進学者も非常に多いこと。何が何でも東大ではない。自調自考によって多様な考え方ができる子どもが育つからでしょうね。
独自のシラバスを作っているのは全国的にも珍しいですね。中1・2のAブロック、中3・高1のBブロック、高2・3のCブロックの3段階で「自調自考」の完成をめざすのですね。
シラバスにも書いてありますが、本校には「国語」という授業も「数学」という授業もありません。
本校のシラバスは、基本的人権を尊重するという前提で作成されています。人権とは複合的な権利の総称です。さまざまな権利を一つずつ取り外すと、最後に残る権利は「自立的な人格権」です。自分の人生は自分で責任を持って作る。責任者は自分です、ということです。責任を持って主体的に学んでもらうためには、シラバスが欠かせません。学校に我が子を預ける保護者がここでどんな教育を受けられるかを知るためにも必要です。
春と秋には、校長と保護者が教育方針について話し合う機会を設けています。保護者に積極的にかかわってもらう機会を作ることで、子どもの教育を選ぶ優先権は保護者にあるということを実感してもらいたいのです。この考えを教員と共有し、シラバスを作っています。
生徒と教員の距離が近い/保護者が主体の活動も盛ん
私どもTOMASでも渋幕の生徒さんをお預かりしています。男女の仲が良く、自由な校風と聞いています。制服についても、生徒たちの意見を取り入れているそうですね。
永井室長:生徒会の決議で学校指定の鞄が廃止されたというエピソードもあります。1年生は参考書が多いから背負える鞄がいい、自転車通学の人は雨にぬれても大丈夫な鞄がいい…などさまざまな立場からの意見をふまえ、生徒が真剣に吟味した結果の意見ですから、我々も反対しませんでした。
生徒や保護者による自主的な運営が盛んなのですね。
田村校長:学校とは生徒によって作られるものだと思います。渋幕と渋渋は同じ教育目標を掲げて創立されましたが、スポーツフェスティバルなどでそれぞれの学校の校庭に立つと、何と表現したらよいのかわかりませんが、伝わってくるものが違うのです。同じ教育目標でも、生徒が違えば学校が変わる。学校とは生徒が作っているのだと改めて実感します。
永井室長:在校生の保護者から、入試当日に受験生の保護者にお茶を出したいというアイディアが出たことがあり、今でも伝統的に続いています。当日は親御さんも非常に緊張していて、待合室も重苦しい雰囲気になっていますから、本当にありがたいと思います。
今年の入試は総計約2600名が受験し、厳しい戦いになりました。TOMASにも、渋幕を夢の志望校として頑張っている生徒がたくさんいます。そんな生徒と保護者にメッセージをお願いします。
田村校長:渋幕は12歳から18歳までの6年間を、自分で考え、楽しく過ごせる場所です。自分の成長を実感できて、同じように実感できる仲間がいる。それを楽しみに受験勉強を頑張ってほしいです。
永井室長:生徒と教員の関係が良いのも当校の魅力です。校内のあらゆるところに机と椅子が置いてありますが、これは頻繁に面談が行われているということです。
また、校長講話という授業を通じて、校長と生徒の信頼関係も構築されています。入学後には、副校長が生徒全員とグループ面接を実施し、不安に感じていることなどを話せるようにしています。
田村副校長:先行きが不透明な時代にあって、将来に対する漠然とした不安を抱く中高生も多いと思います。しかし、先のことを考えて悩むのではなく、今を前向きに考え、今やれることに全力を尽くす。それが将来生きてくるはずです。
取材を終えて―
TOMAS入試対策本部 本部長 松井 誠
創立してわずか34年。戦後これだけ成功した新しい私学は珍しいと言っても過言ではありません。主体性や多様性を重んじる自由な校風、生徒と教員の近さが成功の理由になっていると実感しました。渋谷教育学園幕張中学校・高等学校の学校情報と入試対策を知る
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