おかあさんの参考書
転塾を考える

転塾を考える

鳥居りんこ

いよいよ本格的な秋を迎えました。6年生は志望校の過去問に挑戦していくころです。
親も子も志望校に向けて一致団結する機運が熟すと最高なのですが、意外にも、この時期に入ると増えてくるのが「転塾」の相談です。

そもそも、「中学受験に塾は必要か?」という議論がしばしば見受けられますが、よい悪いを抜きにした結論を言えば、「中学受験=塾利用」が「王道」ではあります。
その理由のひとつには、難関校になればなるほど、小学校の授業だけでは太刀打ちできない入試問題が出題されますので、目指す学校に応じて、その道のプロである塾に教えを乞うたほうが効率的ということがあります。

もうひとつには、12歳の受験を親だけで指導することは非常に難しいという問題があります。
非受験組は受験勉強をしない年齢ですので、一家族だけの孤軍奮闘になりがちです。
受験に特化した学習指導、学習管理、メンタル問題などの受験生活のすべてを親だけで対応するのは強度の忍耐と根性を求められるでしょう。
そこで、多くのご家庭が「中学受験塾」を頼りにするのですが、入塾後「この塾でいいのか問題」で悩む親御さんは後を絶ちません。

中学受験は安易に参入するものではないので、塾をどこにするかも、入塾前に念入りに調べておく必要があるものです。
しかし、本当にわが子に合っている塾かどうかは、実際に入ってみないと分からないということも、また事実です。
私としては、安易な転塾はお勧めしませんが、もし「どうしても」という場合は、家庭教師、個別塾も含めた対応策を検討してみることはよいことだと思っています。

今回は、「どうしても転塾!」を考えるケースをお伝えしましょう。

1. イジメがある

塾のメリットのひとつに、同じ受験という目標に向かって、仲間たちと切磋琢磨していけるということがあります。励まし合ったり、よきライバルとして成長したり、気が置けない仲間同士、他愛のない話をして気分転換ができたりといったことが大きいのですが、よいことばかりとは限りません。

受験生活は多くのプレッシャーとの戦いでもありますので、当然、いつもいつも、全員が機嫌よい状態ではありません。たまたま不機嫌な子に八つ当たりされたり、いわゆるジャイアンタイプの子の標的になったりするということはなきにしもあらず。
わが子がその「からかい」をスルーできるうちは、人間関係の勉強として大目に見ることもできるでしょうが、塾の目的は「志望校に合格できるだけの学力をつけること」です。
目に余る、かつ、そこが我が子の快適な環境ではないと感じたら、即、塾に相談が鉄則ですが、困ったことに先生が解決してくれないというご相談も多いのです。
我が子が人間関係で塾に行くのを渋るようであれば、転塾を検討してもよいかもしれません。受験には期限がありますので、勉強するに相応しくないという環境にいる時間はもったいないからです。

2. 塾自体に不信感がある

これも転塾を悩む大きな理由のひとつになります。たとえば、相談に親身に乗ってくれない、子どもへの面倒見のよさが感じられない、子どもの質問に迅速に答えてくれない、先生がコロコロ変わる、そもそも講師の質が悪いなどが挙げられます。
転塾を考える前に、自分は塾の何に不平不満を感じているのかをリスト化してみてください。そして、その解決のために塾が動いてくれるかを見極めてください。
もし、塾のシステムの問題であれば、合う塾に変わった方がよい場合もあります。

3. 子どもと合わない

各塾によって復習型、予習型、成績順のクラス編成、1クラスの人数が多い・少ないなどの指導方針に違いがあり、同じ塾であっても教室ごとに、さらにはクラスごとに雰囲気が異なります。そこの講師、室長によっても全く違う空間が生まれるわけです。
同じように、子どもによっても、その塾の雰囲気に合う・合わないが出てきます。
熱血指導でやる気に火がつく子もいれば、優しく丁寧な指導によって伸びる子もいます。塾のカラー、講師との相性も子どものモチベーションに大きく関わってきますので、これが悪いと判断する場合は転塾の検討も有りです。

4. この塾だと成績が上がらない

転塾で一番多く挙がる理由が「この塾だと成績が上がらない」問題です。
受験には期限がありますし、そこには偏差値というリアルな数字が出てくるので、成績が上がらない、または下がっていくという問題は親子の焦りを生んでしまうのですが、親御さんの中には「これは塾が悪いからだ!」と断定する人がいます。
転塾前に本当に「塾のせい」なのかを見極めることが必要です。

以上のように、親が困っている問題が転塾という形で解決できるならば、転塾も有りですが、子どもにとっての転塾は「転校」と同じです。できれば、やらないほうがよいと思います。
なぜなら、ただでさえ時間がないのに、知らない教室、知らない友だち、知らない先生、知らないカリキュラムなどなど、「知らない尽くし」の中でイチからスタートとなるからです。
大人でも、転勤や転職で「はじめまして」の場所に行くときは、その環境に慣れるまでが大変です。ましてや受験生。ペースが乱れていくことは極力、避けなければなりません。

「今までの学習方法も含めた環境の違い」に順応するまでに、ある程度の時間は必要ですので、転塾の最終リミットとしては6年生夏前までというのが大方のセオリーです。
転塾を繰り返さないためにも、実行する場合は「勝機あっての転塾」という判断で行ってくださいね。

著者プロフィール

鳥居りんこ
鳥居りんこ
とりいりんこ

作家&教育・介護アドバイザー。2003年、長男との中学受験体験を赤裸々に綴った初の著書「偏差値30からの中学受験合格記」(学研)がベストセラーとなり注目を集める。保護者から“中学受験のバイブル”と評された当書は、その後シリーズ化され、計6タイトルが出版された。自らの体験を基に幅広い分野から積極的に発信し、悩める女性の絶大な支持を得る。近著に『【増補改訂版】親の介護をはじめたらお金の話で泣き見てばかり』(双葉社)、『【増補改訂版】親の介護は知らなきゃバカ見ることだらけ』(同)、『親の介護をはじめる人へ伝えておきたい10のこと』(学研プラス)、企画・取材・執筆を担当した『女はいつも、どっかが痛い がんばらなくてもラクになれる自律神経整えレッスン』(やまざきあつこ著・小学館)、『たった10秒で心をほどく 逃げヨガ』(Tadahiko著・双葉社)、『1日誰とも話さなくても大丈夫 精神科医がやっている 猫みたいに楽に生きる5つのステップ』(鹿目将至著・同)、『神社で出逢う 私だけの守り神』(浜田浩太郎著・祥伝社)など多数刊行。最新刊は『消化器内科の名医が本音で診断 「お腹のトラブル」撲滅宣言!!』(石黒智也著・双葉社)

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