校長:土屋雄一先生
チーフ講師:橋本兼一先生
例年、高い進学実績を誇る下北沢校。2016年度も大学受験で聖マリアンナ医科大・早稲田大・青山学院大・明治大・立教大など、高校受験では慶應志木・渋幕・ICU・青山学院など、中学受験では武蔵・渋幕・芝・世田谷学園など。特に高校受験の最難関校、筑波大附属駒場・開成について取材しました。そこで見えてきたのは、今後変わりゆく入試制度までも見据えた指導だったのです。
−−高校受験の最難関校、開成・筑波大附属駒場への合格おめでとうございます。今日は、頂点校に合格するための秘訣を教えていただけますか。
土屋校長:
正直なところ、下北沢という土地柄は中高一貫校への中学受験や大学受験が盛んで、高校受験はほかの地域ほどではありません。しかし、そんななかでも生徒の高い志には応えてあげたいですし、私たちには十分に応えられると証明できた。非常に有意義な1年でした。
橋本講師:
長く、じっくりと指導できたのも大きかったと思います。開成・筑駒に合格した生徒とは、中1の体験授業で初めて出会いました。その時にも光るものは感じましたが、ここまで成長してくれて本当に嬉しいです。
–初めから開成・筑駒を志望していたのでしょうか。
土屋校長:
そういうわけではありません。ただ、非常にマジメで優秀な生徒だったので、どんどん吸収する。限りなく高みを目指して指導していくうち、中3の初め頃には開成・筑駒という学校名を口にするようになりました。
–具体的には、どのような指導だったのでしょうか。
橋本講師:
優秀とは言っても、開成・筑駒ともなれば「ここまでやれば十分」というものはありません。私は中3で英語を受け持ちましたが、大学受験用のテキストも使いました。具体的には、新高校演習でも一番難しい『プログレス』、高校リード問題集の『英文法B』ですね。
–大学受験のテキストですか……。開成・筑駒を目指すにはそこまで必要なのですね。
土屋校長:
早稲田・慶應の附属校を目指す場合にも使いますよ。ただ、これは英語だけの話。数学の三角関数や微積分を学んでも意味がありません。
橋本講師:
特に開成の英語は、えぐい出題ですから(笑)。センター試験レベルの知識も平気で問われます。筑駒はそこまでの超難問ではありませんが、その分、ミスは命取り。さらに長文読解では深く読み、深く考える力も必要です。今回合格できた生徒の場合、長文読解に苦手意識があったのですが、大学受験向けの長文を大量に読むことで自信をつけてあげたかったというのもあります。
「ここ数年、開成などの上位校では、教科を横断する問題が出ています」と橋本講師。
–どのような出題なのでしょうか。
橋本講師:
例えば、普通の学校なら入試問題の長文から答えとなる部分を抜き出すだけで済むところでも、筑駒では“課題文の先”まで考えることが求められる。正確に速く読むこと、論理的に“先”を考える思考力も大切ですが、「問題が求めていること」も理解できなくてはいけません。今回の生徒も、最初は単に抜き出して答えていましたが、それよりも突っ込んだ解答例を見せ、「ここまで必要なんだ」という感覚を染みこませていきました。
土屋校長:
“深い思考力”は、今後さらに重要になります。現在、大学入試の制度改革が話題になっていますが、そこで掲げられている学力は、「判断力・表現力・思考力」を重視したもの。新しい大学入試制度は2020年ですから現在の高校生には関係ないのですが、その影響はすでに中学入試・高校入試にも現れ始めているのです。
橋本講師:
ここ1〜2年、開成をはじめとした上位校で教科を横断するような問題が出るようになりました。今のところ、“専用対策なしには合格できない”というほどではありませんが、今後は変わっていくでしょう。今年、合格できた生徒にしても、万全を期するために対策を欠かしませんでした。
–最新の出題だけでなく、今後も見据えた指導なのですね。
土屋校長:
多くの学校・進学塾が対応しようとしていますが、まだまだ手探りなのが現状ではないでしょうか。対策カリキュラムを作ることさえ難しいのに、さらに1人ひとりの志望校が新しい入試制度をどう捉え、どう出題してくるかまで判断するのは非常に困難です。そこまで見据え、生徒の現状に合わせて自在にカリキュラムを組むには、やはり個別指導こそが一番向いていると思います。
–“深い思考力”を養うための指導とは、どういうものですか。なにか特別なことをするのでしょうか。新聞を読ませるとか。
橋本講師:
今回のケースに限って言えば、特にそういうことはしていません。受験間際に余計な時間は取れませんから、深く考えることが必要な英文を与えるのがメインです。その代わり、量も質も鬼のように(笑)。あと、常に生徒の好奇心を刺激することも心がけていました。単に“問題を解く”“和訳する”という視点ではなく、「英語」という言語そのものの深みにまで踏み込む話をたくさんしたのです。例えば、冠詞1つにしても未知のものには「a」、既知のものには「the」を使うわけですが、日本語には冠詞自体がない。その役割は助詞の「〜は」「〜が」が担う。文法にしても単語にしても、言語の成り立ちにまで踏み込んで話すと、目を輝かせて聴いてくれました。
土屋校長:
元々、橋本先生は言語学が専門ですから、そういう話もできるのです。長く、高度な受験勉強を続けるには、「面白い」と思えなくては難しい。尽きない好奇心に応え、引き出し続ける指導は、だれにでもできるものではありません。
橋本講師:
英語だけでなく、現代社会の問題点を話し合ったりもしました。震災復興の現状や政治、環境問題……。“東京オリンピックの後に日本経済はどうなっていくのか”等々、真剣に。中3ではありますが、最後には“ひとりの大人”として語り合える深みがありました。
今年の開成高校合格発表の様子。開成をはじめ、難関校の入試にはすでに大学入試改革の影響が現れ始めている。
開成中・高出身の土屋校長。「勉強を“面白い”と思えなくては、長く、高度な受験勉強を続けるのは難しい」と話す。
–生徒の成長を実感されているのですね。
橋本講師:
そうです。あるとき、大量の宿題をこなしきれないことがありました。じっくりと時間をかけて考えなくてはいけない課題だったのですが、その時間がどうしても取れなかったそうです。でも、その生徒は時間の許す限り、別の英文法の問題をやって持ってきました。すまなそうに「何かやっていかないと授業が進まないと思って……」と言っていましたが、その気持ちが嬉しかった。ただ言われたことをこなすのではなく、自分の勉強をちゃんと自分のこととして考えているのです。
土屋校長:
彼は、筑駒の合格が決まった後の学年末テストも一生懸命に勉強していました。もう成績にも関係ないのにね。目標を持ち、自分で進んで勉強し、知的好奇心を持ち続け、常に自分のできる全力を尽くす。もう立派な大人だと思いませんか。そんな生徒だから最難関校にも合格できたわけですし、そこに至るまで成長に寄り添い、導くことができた。これが私たちの仕事なのです。