


子育てや教育における迷信が、
学問的研究によって打ち破られる
固定観念や先入観にとらわれていませんか?
人間である私たちは、数多くの固定観念や先入観にとらわれています。
子育てや教育においても、そういったものはたくさんあります。
それらの多くは、昔から当たり前と思われてきたものであり、人々が疑うことなく漠然と信じられてきたものです。
ところが、最近の科学的・学問的研究によって、特に心理学や脳科学の発展によって、「実は間違っていた」ということが判明したものが、いくつもあります。
それらは、ただの迷信、作り話、集団的勘違いだったのです。
そういう例を、今回は5つ紹介します。
1 勉強や仕事ができる人は、整理整頓も上手?
整理整頓について、世間では次のようなことがよく言われています。
「勉強や仕事ができる人は整理整頓も上手で、机の上も引き出しの中もきれい。整理整頓ができない人は、頭の中も整理できていないので、勉強や仕事もできない」
ところが、アメリカ・ミネソタ大学のキャスリーン・ヴォース氏の研究によると、整理整頓された部屋より雑然とした部屋の方が、面白くて独創的なアイデアが出ることがわかりました。
ただし、氏によると、変わった趣向のプレゼンについて考えているときは、雑然とした感じが創造力を高めるかもしれないが、こみ入った経理文書の記入には整然とした環境がよいかもしれないとのことなので、事務的な仕事にはきれいな環境のほうがよいでしょう。
ちなみに、アインシュタイン、マーク・ザッカーバーグ(米Facebook社の創業者の一人)、スティーブ・ジョブズ(米Apple社の創業者の一人)、葛飾北斎など、クリエイティブな天才たちは、みんな片づけが苦手です。
2 小さいときから勉強させたほうが、いい大学に行ける?
小学校入学前の幼児期について、世間的には、次のようなことがよく言われています。
「小さいときから勉強させたほうが、いい大学に行ける。社会的にも成功できる」
でも、内田伸子・お茶の水女子大学名誉教授の研究によると、偏差値68以上の難関大学に合格する子は、そうでない子に比べて、小学校入学前に十分遊んだり、自分が好きなことに熱中したりしていた割合が高い、ということが判明しました。
アメリカで行われた「ペリー就学前プロジェクト」という研究でも、同じような結果が出ています。
これは、ノーベル経済学賞を受賞した教育経済学者ジェームズ・ヘックマン氏のとても有名な研究で、40年以上にわたって追跡調査が行われました。
そこで明らかになったのは、幼児期に本人の主体的な遊びを重要視して非認知能力を伸ばすような教育を受けた子どもは、その後の人生においても、勉強や仕事などに対して意欲的に取り組めるようになり、結果的に学力や収入が高くなるということです。
ちなみに、認知能力とは、漢字が書けるとか計算問題が解けるなど点数化できる能力のことで、非認知能力とは、目的に向かって努力する力、忍耐力、協調性、感情をコントロールする力などのような点数化できない能力のことです。
3 夜型より朝型の方が、勉強や仕事の生産性が上がるから、子どもも朝型にすべき?
夜型と朝型について、世間では、次のようなことがよく言われています。
「夜型より朝型の方が、勉強や仕事の生産性が上がる。特に子どもはそうだ。子どものうちから朝型にしたほうがいい」
ところが、イギリス・エクセター大学のマイケル・ウィードン氏の研究で、朝型と夜型は、ある程度は遺伝子要因によって決まっていることが判明しました。
遺伝子レベルの話ですから、人間の努力で簡単に変えられるようなものではないのです。
ですから、もともと夜型の人には、朝型の生活を強制しない方がいいということです。
私もそうですが、朝なかなか起きられない子っていますよね。
そういう子は、怠け者とか、だらしがないとかではなく、遺伝的に夜型なのです。
ですから、毎朝叱りながら起こすなどということは、もうナシにしてください。
まずは、起きるための工夫をいろいろとやってみてください。
それでも無理なら明るく楽しく起こしてあげましょう。
4 学力を上げるためには、ご褒美で釣るのもあり?
自分から勉強したら50円とか、テストで100点を取ったら100円、お手伝いしたら50円などというように、ご褒美で子どもを釣る親はけっこういます。
その是非について、ネット上でもいろいろな意見が見られます。
しかし、これについても、もうはっきりと結論が出ています。
ひと言で言うと、ご褒美で釣るのはよくないということです。
これについては、心理学者エドワード・デシの実験が有名です。
デシは、実験の参加者にパズルを30分間解いてもらいました。参加者の半分には、パズルを解いたらご褒美を出すと伝え、もう半分には伝えませんでした。
30分後、参加者全員に終了を告げてから、デシは「実験の第二部に必要な書類を取りに行ってくる」と言ってその場を離れました。
その後、ご褒美を約束された人たちはパズルをやめてしまい、ご褒美を約束されなかった人たちはパズルを続ける人が多かったのです。
その理由は、ご褒美を約束された人たちにとって、パズルはご褒美をもらうための仕事になってしまったのに対して、ご褒美のことを聞いていない人たちにとっては、それは楽しい遊びのままだったのです。
この実験は非常に注目され、その後も他の研究者たちがいろいろ形で検証実験をしました。
有名なのが、アメリカのスタンフォード大学の心理学者、マーク・レッパーがいくつかの学校で行った、子どもたちに絵を描かせる実験です。
実験では、子どもたちの半分には「絵が描けたらメダルをあげる」と伝え、残りの半分には伝えませんでした。
すると、デシの実験と同じように、メダルのことを聞かなかった子どもたちの中には、絵を描く時間が終了してからも絵を描き続ける子がたくさんいましたが、メダルを約束された子どもたちは終了と同時に絵を描かなくなりました。
この子どもたちは、「大人がご褒美をくれるのは、子どもに嫌なことをさせたいときだ。今、絵を描いたらメダルをくれると言った。だから絵を描くのはきっと嫌なことなんだ」と無意識のうちに思ったと考えられるということです。
5 学歴や所得が高い方が幸せになれるから、親は子どもがそうなれるように線路を敷くべき?
「学歴や所得が高い方が幸せになれるから、子どもがそうなれるように線路を敷いてやったほうがいい」と考えている親はたくさんいます。
ところが、神戸大学の西村和雄特命教授と同志社大学の八木匡教授の研究では、「人間の幸福感に強い影響を与えるのは、所得や学歴ではなく、『自己決定』の度合いだ」ということが明らかになりました。
その研究によると、学歴によってもたらされる幸福感は非常に小さいことがわかりました。
たしかに、世帯年収額の要素もけっこう大きいのですが、一番大きいのは自己決定の度合いだということです。
この研究で自己決定の度合いを数値化するにあたっては、「中学から高校への進学」「高校から大学への進学」「初めての就職」について、自分の意思で進学する大学や就職する企業を決めたか否かを尋ねたそうです。
要するに、自分の進路や生き方を自分で決めてきた人たちは幸せを感じているのです。
ですから、親が子どものためと思って線路を敷き、それを強制するのはやめた方がいいでしょう。
たとえ高学歴と高収入を手に入れたとしても、その過程において自己決定の度合いが少なかった人は幸福感を持てないからです。
そういう人は、中年と言われる年代になって自分探しを始めるといったことも起こりえると思います。
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