子どもとの距離感を考える
ご承知のとおり、中学受験は高校受験とは違い任意の受験。つまり、やるもやらないもご家庭次第で、やったほうがいいとも、やらないほうがいいとも言えない類のものです。
まず、大前提として、中高一貫の6年間、あるいは大学附属の場合ですと大学までの10年間という期間の中で、その学校での学びに意味を感じているご家庭が経験する入試が、中学受験ということになります。
よって、言い切るならば中学受験は親主導。子どもが自分から何もかもをやっていくというよりは、全面的に親が後方支援を担うという受験が中学受験なのです。
この「親がかり」という受験には良い面も沢山ありますが、一方で親が気を付けておかなければならないことがあります。それが「子どもとの距離感」なのです。
中学受験は子どもが幸せになるためにやるものだということに、異議を唱える方はおられないと思いますが、この「幸せ」とは、子ども自身が自分の人生を自分の手で切り拓いているという実感を持った上で、将来的には自立していく力を培うことにより得るもの。
これが中学受験の場合、あまりに親が子どもにかかりっきりになると、うまくいかなくなるケースが現れるので注意が必要です。
そのため今回は、子どもの自立を後押しするために親として気を付けておくポイントについてお話ししましょう。
自分の頭と手を動かして「考え抜く」こと
最近の中学受験の設問は非常に高度に練られているので、親が自宅で教えるというのもハードルが高く、子ども達は大抵の場合、中学受験専門塾に通います。一般的には、受験対策のために3年間の通塾をすることになるでしょう。
多くの塾では「振り返りテスト」などを実施し、学習した単元の理解度を測ろうとします。「ここまでは理解しているが、ここからの理解度が不足している」という学習の進捗状況を把握するためのものなのですが、ここが定員のある入試の落し穴でもあります。
そこには、〇×が付きますし、その点数で能力別クラス編成が決まりますし、そのテストが模試の場合は偏差値が出ます。もちろん、足りない部分を把握して、今後の学習方法に活かす意味で、それらは必要なのですが、問題は、それが親御さんの焦りを誘うものになることです。
受験ですから、当然、合格を手に入れたい。志望校の合格を勝ち取るためには、塾での点数を上げなければならない。そのため、心に余裕がなくなった親御さんは「手っ取り早く」点数を上げるのに腐心することがあるのです。
例えば、塾の授業よりも前に、その単元を教え込むことが挙げられます。
今は、YouTubeなどの無料コンテンツなどでも、塾に合わせたテスト対策動画が溢れている時代ですので、予習をしておくことも可能です。
実際にやってみると、授業も「はじめまして」ではないため理解が進むように思うかもしれませんし、短期的には点数も上がるでしょう。一見、良いことだらけの気がしますが、中学受験専門塾の先生方は皆さん、このやり方に警鐘を鳴らしています。
何故ならば、このやり方では「自分の頭で考える」という勉強の基本が疎かになるというのです。特に算数においてよくあるのが「パターン学習」なのだそうです。
予習した問題では、模範解答にあるとおりの解き方がベストだったとしても、自分で解き方を見出したわけではないので、次に出た問題が同じような問題であったとしても、数値が替わった、前提条件が少し違うなどというだけで、歯が立たなくなる。
常に模範解答という最善の解き方だけを良しとした場合、その解法ではうまくいかないという緊急事態に直面した際には、他の解き方を知らないので、高確率でお手上げという事態を招きかねない。自分で試行錯誤した経験がない子は、入試のように初見で出てくる問題には太刀打ちできないという結果になりやすいということのようです。
つまり、やるべきは、模範解答どおりの答えを最短時間で書くことではなく、自分の頭と手を動かして「考え抜く」ということ。10分・20分・30分と考えても、正答にたどり着けない様子は親にとっては「無駄」に思えるかもしれませんが、この「ああでもない、こうでもない」と試行錯誤をしていくことが実は大切なのだそうです。
子育てに必要なのは「放牧・放任・要観察」
「親が手とり足取り教え込むと、その場では理解したかのように思いがちだが、結局は子ども自身が自分の力で問題を解けなければ意味がない。時間がかかっても『自力で解けた!』という体験をした子どものほうが大きく伸びていく」という話は学校の先生からも、塾の先生からも数多く耳にしてきた言葉です。
中学受験は親子の受験なので、ついつい親心で良かれとばかりに、せわしなく口出しをしてしまう親は沢山います。しかし「何のために受験するのか?」を考えた場合、その答えは「子どものため」。親のためにやらせるという人はいないのではないでしょうか。
子ども自身がウンウン唸りながらも問題に取り組んで、それで正解にたどり着けたならば、子どもはものすごい達成感を手にするでしょうし、自分の力だけで、やり遂げたという経験は人生を豊かにします。
親の仕事は先回りして短期的な成果を得ることではないはずです。
何でも自分でやってみて試行錯誤しながら、一歩ずつ自分自身の体力をつけていくことが「自分の人生を生きている!」という基になります。
受験はこの力を育むことができるものなので、必要以上の手出しをして、子どもの可能性を潰してしまわないようにしたいものです。
入試会場には親も先生も傍にいません。子どもひとりで立ち向かわなければならない試練ですが、自分だけの力で頑張れたという経験が、子どもの自己肯定感を育て、自立を促します。
それには、まずはわが子をじっくりと観察してみて、現時点で解ける問題を把握してから、それよりも少しだけ難度の高い問題にトライするように働きかけるほうが、子どもの実力は上がります。
万が一、自信ややる気を失っている場合は、現時点で正答できる薄い問題集を1冊やって、〇をもらうことで達成感を得る方法もあります。
もし、やり方が分からない場合には、遠慮なく塾の先生に相談しましょう。
ある人の言葉があります。
「子育てに必要なものは『放牧・放任・要観察』である」と。
子どもをある程度、自由にさせておきながら、その意思はできるだけ尊重する。しかし、子どもの様子はじっくりと観察しておくという意味です。
中学受験は人生の中の通過点に過ぎません。中学に入った後のほうがより大事なのは言うまでもありません。
中学受験を通して、徐々に「自学自習」の学習習慣をつけ、自身が望めば、どの道であっても大丈夫という力の基を育てていきたいものです。
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