夢の志望校合格への
教育資金シミュレーション
第3回 家計向上のための収支計画のポイント
(その1:収入編)
子育てや子どもの教育への支援は年々手厚いものになってきています。しかし、難関私立大を目ざすのであれば、子ども一人が大学を卒業するまでの間に家を一軒購入できるほどの資金が必要になることに変わりはありません。
世帯収入が高いご家庭でも油断は禁物です。前回ご紹介したとおり所得が一定額を超えると国や自治体による「高校無償化」の恩恵が受けられなくなるほか、奨学金等にも制限が出てくるため、二人以上の子どもがいて就学・受験が重なる場合には教育資金が一時的に不足してしまうことも珍しくありません。
わが子が夢の志望校合格を勝ち取って大学を卒業するまでは、家計に入ってくるお金を少しでも増やし、無駄な支出を少しでも抑え、教育資金を計画的に回していく工夫が欠かせません。今回からはそういった家計向上のための収支計画のポイントを整理していきたいと思います。
家計に入ってくるお金は「かせぐ」「もらう」「かりる」で設計する
まずは「家計に入るお金」=「収入」サイドで考えてみましょう。
家計に入ってくるお金の流れには色々な形がありますが、計画的に利用できるものとしては次の3つがあります。
- 「かせぐ」お金・・・労働による定期的な所得
- 「もらう」お金・・・親族親類から譲り受ける財産
- 「かりる」お金・・・ローン等で一時的に補填する資金
ほかにも、金融商品や不動産等へ投資することで「ふえる」お金もありますが、確実性はあまり高くありません。教育資金に限らず、長期的な収支計画を設計する際には、手堅い収入だけを扱い、浮動要素のある収入は余剰分として考えることが定石です。
以下「かせぐ」「もらう」「かりる」それぞれについて、教育資金を設計する際の注意点を整理しておきます。
【かせぐお金】
将来年収の想定は悲観的すぎるくらいでちょうどよい
収入を増やすことができれば家計はそれだけ余裕ができます。しかし、収入を期待通りに増やすのは簡単なことではありませんし、景気や会社の業績によっても大きく左右されます。
まだ収入が落ち着かない20代~30代の方は、今後の昇給を見込まないと十分な教育費の準備を計画することができない場合も多いのですが、将来の年収を正確に予想するのは難しいものです。実際の年収が想定年収を大きく下回ると収支計画全体が崩れてしまいますので、少なくとも希望的な考えで将来の年収を想定すべきではありません。
社内の年収モデルや公的な調査によるモデル賃金の下限以下にとどめる等、悲観的すぎる位にしておくのがちょうどよいです。
※参考
厚生労働省による賃金構造基本統計調査結果
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00450091&tstat=000001011429&year=20190&month=0
年収が上がるほど、使えるお金の割合が減ることに注意する
所得税は所得が増えるほど税率が上がります。また、年収が増えるに従って各種の所得控除も減少または適用外となっていきます。結果として年収が増えれば増えるほど収める税金は増え、可処分所得(使えるお金)の割合は減っていきます。
たとえば年収1200万円の場合の手取り額は、年収600万円の場合の手取り額を倍にしたものよりも60万円~70万円程度少なくなります。つまり、年収が倍になっても可処分所得は倍にはなりません。
実際には収入が増えるほど資金に余裕は出てくるものですが、可処分所得の割合が減ることを考えずに収支計画を設計してしまうと、想定より大きなマイナスを生じることになるので要注意です。
受験のために共働きができなくなる場合があることに備える
夫婦の一方が専業主婦(主夫)なら、共働きをはじめることで確実に世帯収入を増やすことができます。日本の共働き率は2018年の統計では67%となっており、とくに扶養の壁※1の範囲内での共働きはごく当たり前のものになっています。稼ぎ手が二人になることで、万一のリスクヘッジにもなることも魅力的です。この記事を読んでいる方の中にも、すでに共働きをされている方や、「子どもが〇歳になったら働こう」と計画されている方は多いことでしょう。
一方で、子育てにおいて親が子と過ごす時間というのは大変重要なものです。とくに中学受験までの受験は「親子の受験」と言われるほど、親が子にかけられる時間が志望校合格に大きく影響します。
結果として、いざ受験がはじまってみると夫婦の一方が働く時間を大きく減らすことになったり、時間の融通がきくかわりに低い賃金での労働を余儀なくされたりして、想定する収入に届かなくなるケースが少なくありません。病気の場合の休職とは異なり、保険等でカバーできる性質のものでもありません。
共働きを収支計画の前提とする際には、一時的な離職・休職が起こりうることも十分織り込んでおくようにしてください。
※1:〇〇万円の壁
夫婦の一方が年収1220万円であれば、もう一方の年収が103万円~150万円の間は配偶者控除・配偶者特別控除が受けられ税や社会保険の制度上有利になるため、この範囲内での共働きをする人が多い。
自身の年収額 | 税制上の影響 | 社会保険上の影響 |
---|---|---|
100万円 | これを超えた分は住民税の課税対象 ※自治体によっては異なるところもある |
― |
103万円 | これを超えた分は所得税の課税対象 | ― |
106万円 | ― | これを超えると、自身の勤務先事業所の規模や勤務時間数、雇用期間等の状況によっては、自身で厚生年金や健康保険の費用を払う必要が生じる |
130万円 | ― | これを超えると、配偶者の社会保険の扶養から外れる →自身で公的年金や健康保険の費用を払うことになる |
150万円 | これを超えなければ、配偶者の所得について、配偶者特別控除を満額(38万円)受けることができる | ― |
201万円* | これを超えると、配偶者特別控除をまったく受けることができない | ― |
*正確には201万5999円
なお、税や社会保険とは別問題だが、配偶者の勤務先の「扶養手当」が支給対象外となる”壁”もありうる
【もらうお金】
税制の特例を活用することで生前贈与を非課税で受け取ることができる
必要な資金を世帯の「かせぐお金」だけで準備することが難しい場合には「もらうお金」「かりるお金」のことを考える必要があります。
このとき、可能なら第一選択とすべきものが、祖父母等の親族から「もらうお金」つまり生前贈与です。「大人にもなってお金をもらうなんて」と負い目を感じる方もおられるでしょうが、「かりるお金」と違って利子や返済がありません。
お金をもらう、つまり贈与を受けた場合には基本的に贈与税がかかりますが、以下のような税制の特例により非課税にできる場合があります。
1.贈与税の暦年課税における110万円の基礎控除
税制上1年(1/1~12/31)の間に受けた贈与には110万円の基礎控除があり、贈与を受けた額が110万円以内なら税金がかかりません。
2.祖父母等からの教育資金一括贈与での非課税特例
30歳未満の教育費に充当することを目的とした直系尊属からの贈与は、一定の要件を満たすことで1500万円まで非課税となります(現在のところ令和3年3月31日までの特例)。
※参考
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/sozoku-zoyo/201304/pdf/01.pdf
3.父母(子どもにとっては祖父母)等からの結婚・子育て資金の一括贈与での非課税特例
結婚や出産・育児の費用に充当することを目的とした直系尊属からの贈与は、一定の要件を満たすことで1000万円まで非課税となります(現在のところ令和3年3月31日までの特例)。
※参考
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/sozoku-zoyo/201504/pdf/01.pdf
4.父母(子どもにとっては祖父母からの住宅取得等資金贈与での非課税特例
自宅の購入に充当することを目的とした直系尊属からの贈与は、一定の要件を満たすことで最大で1500万円まで非課税となります(現在のところ令和3年12月31日までの特例)
※参考
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/sozoku/pdf/jutaku27-310630.pdf
とくに、一番目の「暦年課税の基礎控除」は利用目的を限定しないため、家計向上を考えるとき使い勝手の良い制度です※2。もし将来的に相続される資産があるのなら、「かりる」前に、まずは「もらう」ことを検討してください。
※2
たとえば毎年110万円をもらい続ける等、複数年に渡って贈与を受けた場合、暦年課税ではなく多額の贈与を税逃れのために分割しているとみなされ、追徴される場合があります。あくまで必要なとき必要な額だけもらうものとして、毎回別々の贈与契約を書面で交わす等の注意が必要です。
【かりるお金】
どこから・いくら借りる場合でも、完済までの計画と対で設計する
教育資金を目的とした「かりるお金」には、一般的に次の4つがあります。
1. 親族からの借り入れ
親族間の援助として贈与同様に広く一般的に行われているものです。自由に金利・返済期間を設定できることがメリットですが、「出世払い」のような返済計画のない貸借は実質的に贈与とみなされる場合があるので、内容の整った借用書を作成する必要があることに注意しましょう。
2.日本政策金融公庫による教育一般貸付
いわゆる「国の教育ローン」です。高校生以降の子どもの学費や部活動の費用、一人暮らしの場合の生活費等に利用できます。世帯年収や子どもの数による制限があり、子どもが1人なら世帯年収が790万円、2人の場合は890万円、3人だと990万円以内です。一律固定金利で、現在(2020年6月時点)は年1.70%。担保や保証人は不要ですが、保証料を支払う必要があります。基本の借入限度額は350万円、自宅外通学や大学院、海外留学のケースでは450万円までの融資となります。
3.民間の金融機関の教育ローン
「国の教育ローン」とは逆に、前年度の所得が一定以上あることが融資条件となりますが、中学生以下の学年、塾等の費用にも使えるのがメリットです。金利についても関東地区では変動金利で年0.90%、固定金利では年1.70%を最低ラインとしている銀行があります。担保や保証人、保証金は不要なことが多く、審査結果次第で1000万円以上の融資を受けることもできるのも特長です。
4.貸与型奨学金
親が債務者となる教育ローンとは異なり、高校生以上の子ども自身が借り、卒業後に返済していくもので、独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)の奨学金が代表的です。「第一種(無利息)」と「第二種(有利息)」の2タイプがあり、第一種は著しく経済的困難な人のみが対象で、第二種も成績水準による審査があります。大学生なら月額20,000円から120,000円(私立大学の薬・獣医学部は140,000円、同じく医・歯学部の場合は160,000円)の間で選択できます。在学中は無利息ですが、卒業後は年3%を上限とする所定の利息が発生します。令和2年5月の貸与分の金利は年0.160%(利率固定方式・基本月額部分に対する利率)でした。実質的には親がお金を出して返す予定だとしても、名目上は子ども自身が債務者となりますから、利用の際にはお子さまと十分に話し合う必要があります。
いずれも、低金利とは言え借金をすることに変わりありませんので、安易な利用は控えるべきですが、教育資金の形成期間を十分延長して考えることで、無謀な借り入れとなることは十分に避けられます。
普通預金には十分な資金がないが、定期預金や学資保険等の積み立ては十分にあるような場合には、利率や解約金の額によっては、積立を崩すより一時的にローンを利用したほうが有利になることもあります。
借金だからとはじめから選択肢から外すのではなく、万一のオプションとして、最新事情を把握しておくことは大切です。
使えるものを総動員してとにかく手堅く見積もること
繰り返しになりますが、収入はとにかく手堅く見積もることが重要です。後の回でご説明する予定ですが、病気や事故での長期治療、それに伴う労働の制約、命を失うような最悪の事態が生じたとしても、保険という手段を用いることで想定外の収支悪化を回避することは十分可能です。しかし、将来にわたって増収を確実にすることは本当に難しいことです。
新型コロナウイルス問題がその典型ですが、またたく間に世の中の風向きが変わり、目算が大きく狂ってしまうことは往々にして起きます。時として増収や好景気感を得ることがあっても決して未来を楽観的に見積もることなく、常に多少シビアな視点に立って、資格取得をはじめとしたスキルアップや、より大きな仕事へのチャレンジ等、自己の価値を高める努力を積み重ねていきましょう。常に危機感を持って行動することこそ、収入アップへの近道です。
さて、収入を増やすことが簡単ではない一方、支出を減らすための工夫は様々で、知識としても楽しいものになります。次回はそんな支出サイドからみた家計向上のポイントをご紹介します。
今回のまとめ
- 収入はあくまで手堅く見積もる
- 各種の税制を理解することで入ってくるお金を増やすことができる
- 長期的視野に立てば「もらう」ことや「かりる」ことも重要な選択肢
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