おかあさんの参考書
日本人の幸福度が上がらない理由を考える~次世代に負の遺産を残さないために~

日本人の幸福度が上がらない理由を考える
~次世代に負の遺産を残さないために~

親野智可等

高木香奈さん(仮名)夫妻は、共働きで2人の子どもを保育園に預けていました。ところが、コロナ禍で保育園が休園になり、夫婦のどちらかが仕事を辞めて子どもの世話をすることになりました。その時、夫は次のようなことを言ったそうです。

コロナ離婚の一事例

「男は簡単に仕事を辞められないんだ」

「俺が今辞めると会社が回らなくなるし、社会的にも損失だ」

「あなたは女だし母親なんだから、あなたが仕事を辞めて子どもたちを見るのが普通だろう」

これを聞いて、高木さんは大きなショック受けました。自分の仕事が夫に軽く見られていることがわかり、悲しさと虚しさを感じましたし、女だからとか母親だからという理不尽な理屈で決めつけてしまう夫に、怒りすら感じました。

高木さんは、福祉関係の専門職である自分の仕事に誇りを持っていましたし、給料も夫とほぼ同じくらいもらっていました。そういったこととまったく無関係に、ただ女だからとか母親だからという理由で、今までの自分の努力が水泡に帰そうとしているのです。高木さんは、この夫の言葉がきっかけで、今までの夫の男女差別的な言動がいろいろ思い出されてきました。

付き合っている段階ではわかりませんでしたが、結婚して生活を共にしてみると、夫の中に本人も気づかないらしい多くの差別意識があることがわかったのです。

コロナ禍で一緒に過ごす時間が増えて…

例えば次のようなことです。

世帯主は男性がなるのが当然。
名字も男性の名字にするのが当然。
朝は女性の方が早く起きるべき。
食事の用意は基本的に女性がするもの。
子どもの面倒を見るのは基本的に母親。
保育園への送迎も基本的に母親。
保育園の入園準備や持ち物への名前つけも基本的に母親。
お茶やコーヒーも妻が気を利かして入れてくれるのが望ましい。

夫のこういった差別意識について、高木さんは今まで我慢してきました。

ですが、コロナ禍で一緒に過ごす時間が増えて、目につくことが今まで以上に増えてしまいました。それに加えて、仕事を辞めてくれという要求もあり、ほかにも積もっていた軋轢が噴出して……、ということで結局離婚することになったのです。

差別意識が幸福度を下げる

実は、コロナ禍の離婚だけでなく、一般的な離婚でも、男性の女性差別が一因になっている例は多いのです。

また、離婚まで至らなくても、夫の女性差別意識に悩まされている妻は世の中にたくさんいて、家庭内不和の原因になっています。つまり、女性差別意識が日本人の幸福度を下げているのです。

日本人の意識の中には、儒教や封建的な家制度の影響が未だに色濃く残っているのが実状です。子育て中の家庭においても、気づかないうちにそういう意識を次の世代に手渡していることが多いので気をつけたいものです。

例えば、夫を主人と呼ぶのもその一つです。

主人?「では、妻は召使いなの?」と言いたくなります。

妻を家内と呼ぶのも、女性は家の中にいるのが当然という価値観の残滓です。

夏休みの作品作りで木工工作をしているとき、金槌で釘を打つ息子に「うまい! さすが男だ」というほめ方をしてしまう……。

玩具屋で「好きな物を買っていいよ」と言っておきながら、女の子がメカニカルな玩具を選ぼうとすると、「人形の方がいいんじゃないの?」などと言ったりする……。

「男のくせに赤いナップサックだって!」と言われて

次に紹介するのは、現在コンビニ店を経営しているある男性の話です。

彼は子どもの頃、母親と遠足用のナップサックを買いに、店に行きました。たくさんある中で、赤い色のナップサックがとてもきれいだったので、それを買いました。

家に帰ってから、ワクワクしながらさっそくそのナップサックを背負ってみました。すると、そこにいた親戚のおじさんが「男のくせに赤いナップサックだって!」と言って大笑いしました。

それから、彼は赤い色が大嫌いになってしまいました。

そして、何を買うにも黒っぽい色の物を選ぶようになりました。「黒なら絶対に男らしいはずだ」と考えたからです。「緑色や黄色でも男らしくないと思われるかも知れない」と恐れる気持ちがあったそうです。

彼が言うには、大人になった今でも、そういう気持ちが微妙に残っているとのことです。

私は、その話を聞きながら「これは男性差別であり、女性差別と男性差別は表裏一体なのだ」と思ったものです。つまり、女性にも男性にもジェンダーによる差別が影を落としているのです。

ジェンダー・ギャップ指数で、日本は153か国中121位

私たち大人は、自分の中にジェンダーによる差別意識が刷り込まれていることを自覚している必要があります。

そうでないと、次の世代に負の遺産として引き継ぐことになります。それでは家庭生活における幸福度も上がりませんし、よりよい社会の実現も難しくなります。

例えば、政治の場で女性議員が増えない理由も、女性への差別意識に原因があります。そして、女性議員が増えないと、少子化問題が解決しない、保育園待機児童の問題が解決しない、教育予算が増えない、福祉が脆弱、看護師・ヘルパー・保育士・学童保育職員の給料が安すぎる等の問題も延々と続くことになります。

世界経済フォーラムが「ジェンダー・ギャップ指数2020」を発表しましたが、日本の総合スコアは0.652で、順位は153か国中121位です。前回は149か国中110位だったので、また一段と下がってしまったわけです。

こういったところから改善していかないと、日本人の幸福度は上がっていきません。ぜひ、自分の中にある差別意識に目を向けていきましょう。

著者プロフィール

親野智可等
親野智可等
おやのちから

教育評論家。1958年生まれ。本名 杉山 桂一。公立小学校で23年間教師を務めた。教師としての経験と知識を少しでも子育てに役立ててもらいたいと、メールマガジン「親力で決まる子供の将来」を発行。具体的ですぐできるアイデアが多いとたちまち評判を呼び、新聞、雑誌、テレビ、ラジオなど各メディアで絶賛される。また、子育て中の親たちの圧倒的な支持を得てメルマガ大賞の教育・研究部門で5年連続第1位に輝いた。読者数も4万5千人を越え、教育系メルマガとして最大規模を誇る。ブログ「親力講座」も毎日更新中。『「親力」で決まる!』(宝島社)、『「叱らない」しつけ』(PHP研究所)などベストセラー多数。人気マンガ「ドラゴン桜」の指南役としても知られる。長年の教師経験に基づく話が、全国の小学校や幼稚園・保育園のPTA、市町村の教育講演会で大人気となっている。

教育評論家・親野智可等 公式ホームページ『親力』


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