おかあさんの参考書
「親の愛情」が空回りしていませんか?

「親の愛情」が空回りしていませんか?

親野智可等

「この子を立派な大人にしたい。しつけをしっかりしよう」と思った父親

今年の3月に会社を定年退職したある男性・清水さん(仮名)のお話です。

清水さんは真面目で優秀な技術者で、若い頃から大勢の部下を指揮して業績を上げてきた方です。

清水さんには30代になる息子がいます。

彼は、息子が生まれたとき、「この子を立派な大人にしたい。しつけをしっかりしよう」と思ったそうです。

というのも、会社で仕事をする中で、“なってない若者”をたくさん見てきたからです。

礼儀やマナーがなってない、言葉遣いもなってない、時間を守らない、仕事が雑など、清水さんから見るとどうしようもない若者がたくさんいたそうです。

その結果、「自分の息子をこんな大人にしたくない」と思った清水さんは、息子が小さいときから口やかましく叱って育てました。

礼儀作法、生活習慣、言葉遣いの3つについては、特に厳しくしてきました。

食事の作法では、箸の使い方にこだわって、寄せ箸や刺し箸などは許しません。

息子が食事中に立て膝をしたときは怒鳴りつけました。

食べ物の偏食は絶対に許しません。

嫌いな物が見つかれば、わざと毎日出して食べさせました。

ほめたことはなく、とにかく叱って育てた

玄関で脱いだ靴をそろえることも、口うるさく言ってきました。

生活習慣で特に言ってきたのは、時間を守ることです。

寝る時刻、起きる時刻はもちろん、勉強や食事の時間も厳守させました。

親へのタメ口は許しません。

電話に出たときの話し方や来客への接し方も、細かくしつけました。

一事が万事この調子でした。

清水さんは、「ほめたことはなく、とにかく叱って育てた」と振り返っています。

その結果、思春期の終わり頃から、息子との関係は冷え切ったものになってしまいました。

その後、息子は不登校や引きこもりも経験し、長いトンネルに入りました。

今ようやく、ちょっと調子が上向きになってきて、やる気も戻りはじめています。

母親は息子と仲が良いので、物心両面でいろいろサポートしています。

ところが、父親である清水さんはそれができません。

清水さんが近寄ろうものなら、「来ないで! 親父、オレのこと嫌いだろ。オレのことをダメ人間だと思ってるだろ。オレもあんたのこと無理だから」と言って、完全に拒否されてしまいます。

愛情が空回りしていた

今、清水さんは猛反省しています。

「愛情はあった」と言っています。

「あいつのためを思っていた」とも言っています。

それは確かにそうでしょう。

でも、その愛情が空回りし過ぎていました。

清水さんは、「親だから許される。オレはあいつの親だよ。何の遠慮がいるのか? あいつのために言っているんだ」と無意識のうちに思っていたはずです。

それが勘違いのもとで、子どもを叱り続け、否定し続けてきたのです。

その結果、親子関係の崩壊に至ってしまったわけです。

冷え切った親子関係になる前に

実は、こういう例は少なくありません。

親の愛情が空回りして、その結果、他人以上に冷え切った関係になってしまった親子の例は、世の中にたくさんあります。

今、子育て中のみなさんが、同じような種を日々蒔いていないか、私はそれが心配でたまりません。

少しでも心当たりがある方は、早く気づいて、すぐに方向転換をしてほしいと思います。

著者プロフィール

親野智可等
親野智可等
おやのちから

教育評論家。1958年生まれ。本名 杉山 桂一。公立小学校で23年間教師を務めた。教師としての経験と知識を少しでも子育てに役立ててもらいたいと、メールマガジン「親力で決まる子供の将来」を発行。具体的ですぐできるアイデアが多いとたちまち評判を呼び、新聞、雑誌、テレビ、ラジオなど各メディアで絶賛される。また、子育て中の親たちの圧倒的な支持を得てメルマガ大賞の教育・研究部門で5年連続第1位に輝いた。読者数も4万5千人を越え、教育系メルマガとして最大規模を誇る。ブログ「親力講座」も毎日更新中。『「親力」で決まる!』(宝島社)、『「叱らない」しつけ』(PHP研究所)などベストセラー多数。人気マンガ「ドラゴン桜」の指南役としても知られる。長年の教師経験に基づく話が、全国の小学校や幼稚園・保育園のPTA、市町村の教育講演会で大人気となっている。

教育評論家・親野智可等 公式ホームページ『親力』


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