子どもの話にはまず共感。
励ましやアドバイスは共感の後に
「もうテニスをやめたい」と言い出した子
鈴木さん(仮名)には、小学6年生になる娘さんがいます。
娘さんは小学校1年生からテニススクールに通い始めて、持ち前の運動神経のよさからグングン上達しました。
そして、5年生になるころには、地区の大会で準優勝するなど、かなり活躍していました。
ところが、6年生になってしばらくしたある日、突然、「もうテニスをやめたい」と言い出したのです。
あわてた鈴木さんは、「何を言ってるの? 今までがんばってきたのに。あなたには才能があるんだから、がんばって続けなさいよ。今やめたら、もったいないでしょ」とまくし立ててしまいました。
すると、娘さんは「そう言うと思った」と言ったなり、自分の部屋に入ってしまいました。
「どうせお母さんにはわからないよ」
次の日の朝食の時、鈴木さんは「ねえ、どうしたの? テニスで何かイヤなことでもあったの?」と聞きました。
以下は、その時の会話です。
娘さん「だって、楽しくないんだもん。もうやめたい」
鈴木さん「何言ってるの? 長くやっていればそういう時もあるわよ。そういう時はね、始めたころのことを思い出して、初心に返ることが大事なのよ。やり始めたころはうまくできなかったけど、家でラケットの素振りをしたりしてがんばったじゃないの。そういうことを思い出して初心に返ってごらん」
娘さん「もういいよ。なんでそういうこと言うかな……。どうせお母さんにはわからないよ」
鈴木さん「何を言ってるの? ちゃんと話を聞きなさい。そんなことでどうするの? せっかく続けてきたのに。中学になればもっと大きい大会にも出られるのよ」
娘さん「そういうのいいから」
鈴木さん「ちょっと、何言ってるの?」
娘さん「もういいから。行ってきます」
まず謝って、ちゃんと話を聞こう
娘さんが登校して、ひとり残された鈴木さんは、しばらく腹が立って仕方がありませんでした。
そして、娘さんにテニスを続けさせるためにはどうすればいいかと考えました。
すると、いろいろ考えているうちに少し冷静になってきました。
そこで、昨日から今日にかけて、自分が娘さんの話をほとんど聞かないまま、言いたいことだけ言っていたことに気がついたのです。
「これは、かわいそうなことをした。学校から帰ってきたら、まず謝って、ちゃんと話を聞こう」
「そうなんだ。テニスやめたいんだ」と言葉を繰り返す
娘さんが帰宅すると、鈴木さんは「今朝はごめんね。あなたの話を聞かずに自分が言いたいことだけ言ってたわ。お話聞かせてくれる」と切り出しました。
娘さんはぶすっとした顔で、朝と同じように「だって、楽しくないんだもん。もうテニスやめたい」と答えました。
鈴木さんは、朝はいきなり自分の言いたいことをまくし立ててしまったのですが、今度は「そうなんだ。テニスやめたいんだ」と言いました。
つまり、娘さんと同じ言葉を繰り返したのです。
すると、娘さんは「だって、楽しくないんだもん」と、また同じことを言いました。
「それじゃ、やめたくなるよね」と共感的に聞く
鈴木さん「テニス、楽しくないんだ」
娘さん「楽しくないよ。ぜんぜん、つまんない」
鈴木さん「それじゃ、やめたくなるよね」
娘さん「そうだよ。前は楽しかったのに」
鈴木さん「前は楽しかったのに、今は楽しくないんだ。」
娘さん「あ~あ」
鈴木さん「楽しくないんじゃ、やめたくなるよね」
娘さん「私なんか、先輩ににらまれてるんだよ」
鈴木さん「え、そうなの? それってイヤだよね」
話し終わるとスッキリする
このように、鈴木さんは娘さんの言葉を繰り返したり、言い換えたりしながら、とにかく共感的に聞くように努めました。
その中でわかってきたのが、ある先輩とうまくいっていないらしいということでした。
1時間くらい話を聞いていると、最後の方には娘さんから愚痴がいっぱい出てきました。
テニス以外の愚痴もたくさん出ましたが、それもすべて共感的に聞きました。
娘さんは話し終わると、かなりスッキリしてきた様子でだんだん笑顔が出てきました。
それから1カ月経った今は、以前のように休むことなくテニスに通っているそうです。
共感がないまま励ましやアドバイスをすると……
鈴木さんは、娘さんが「もうテニスをやめたい」と言った時、娘さんの話を共感的にしっかり聞くことなく、自分が一方的に話をしてしまいました。
「やめさせたくない」という思いが強かったからです。
そこに、「娘さんの気持ちをわかってあげよう」という思いはまったくありませんでした。
それで、一方的に励ましたりアドバイスしたりしてしまったのです。
どんな場合でもそうですが、共感がないところで一方的に励ましたりアドバイスをしたりすると、言われた方は素直に聞く気になれなくなります。
「この人はぜんぜん私の話を聞いてくれない。話も聞かずにお説教してくる。そんな簡単なことじゃないんだよ」と感じるのです。
親が言いたいことは後回し。まずは共感
親も先生も、子どもにいろいろ言いたいことはあると思いますが、それは後回しにして、とにかくまずは共感的に聞いてあげてください。
そうすれば、子どもは話しやすくなります。
たっぷり話すことができれば、気持ちもスッキリします。
すると、「もう少しがんばってみよう」と思う場合もあります。
そうならない場合もたくさんありますが、そういう場合も問題点が明確になります。
話している方も、たくさん話すことで自分の気持ちが整理できます。
聞いている方も、情報がたくさん入ってくるので、「あ、これは先輩とうまくいってないんだな」「先生とうまくいってないんだな」「体力的に無理なのかも?」「ほかにやりたいことが見つかったのかな?」など、問題点がわかってきます。
問題点が明確になれば、対応方法も自然に見えてきます。
共感的に聞くことなく、いきなり励ましたりアドバイスしたりすると、このようにはなりません。
なお、子どもの話の聞き方については、本連載の下記の記事もご参考にしてください。
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