医学部に合格するための具体的勉強法
study tips for medical exams
医学部入試では、とくに単科医科大を中心として、応用レベル・発展レベルの大変な難問がたびたび出題されます。たしかに、一部の最難関校では、このような難問でもある程度までは得点できなければなりません。しかし、そのような例外を除けば、医学部入試では難問の出来で合否が決まることはありません。医学部の受験戦略としては、「難問をとる」ことではなく、「基本問題・標準問題で落とさない」ことが必要なのです。
ここでは、「医学部という進路」「学習計画と学習戦略」「もっと知りたい医学部受験」のカテゴリで述べてきた「総論」からもう一歩踏み込み、「各論」として教科・科目別の対策と、個別対策を超えたより実践的な対策に触れていきます。医学部用の受験勉強に必要なステップである「入試基礎固め」「典型問題演習」「過去問演習」「共通テスト対策」「面接対策」「小論文対策」の具体的な方法論を確認し、日々の受験勉強に落とし込んでください。
【医学部受験用 教科・科目別対策①】受験勉強は、ステップを踏んで進めよう(入試基礎固め/典型問題演習/過去問演習)
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多くの高校生は、学校の授業をベースとして基礎学力を身につけていきます。しかし、授業の予習・復習で養われる学力と、入試対策として必要な学力は必ずしも一致しません。厳しいことを言うと、学校の勉強だけでは入試に通用しないのです。ましてや、医学部の中には、たとえば英語や生物が典型的であるように、学校の授業ではほぼ扱われない題材を出す大学もあります。医学部入試では、学校の授業を超えた高いレベルの学力が要求されるのです。
しかし、そのように独自の出題傾向があるからといって、医学部対策として特殊な勉強法が必要である、というわけではありません。たとえどの大学であっても、「確実に遂行したい『学習計画』の基本方針」の記事で触れた「入試基礎固め」「典型問題演習」「(志望校の)過去問演習」という3つのステップによる勉強法で十分対策可能です。
このような「入試基礎固め」「典型問題演習」「過去問演習」は、いわば「メインメニュー」です。受験勉強が進むにつれ、ここに「サブメニュー」として「共通テスト対策」「面接対策」「小論文対策」を加えていくこととなります。受験勉強は、「メインメニュー」を中心に進めるだけでなく、「サブメニュー」まで消化しなければなりません。
この記事では、教科・科目別の対策を進めていくうえで前提となる学習ステップにつき、それぞれの関連性と全体の姿を示していきます。
「汎用学力」を鍛えてから「特化学力」を身につける
6つの学習ステップは、求められる学力の違いで分けられる
上に挙げた「入試基礎固め」「典型問題演習」「過去問演習」「共通テスト対策」「面接対策」「小論文対策」という6つの学習ステップは、求められる学力の違いによって以下のように分類されます。
入試基礎固め | メインメニュー | 汎用学力 |
---|---|---|
典型問題演習 | ||
過去問演習 | 特化学力 | |
共通テスト対策 | サブメニュー | |
面接対策 | ||
小論文対策 |
あらゆる試験を解く際に必要な「汎用学力」
「汎用学力」は、試験の性質とは無関係に身につけるべき普遍的な学力であり、「入試基礎固め」と「典型問題演習」が該当します。「入試基礎固め」と「典型問題演習」の違いを述べると、前者は知識・解法を習得するという「インプット」中心のステップであり、後者はその使用によって運用能力を鍛えていくという「アウトプット」中心のステップです。
「入試基礎固め」の段階では、問題をいきなり自力で解こうとしてはなりません。このフェーズで必要なのは知識・解法の定着であり、ある程度までは暗記が求められます。じっくり時間をかけて問題に向き合うという勉強法は、次の「典型問題演習」に譲りましょう。
「汎用学力」の養成段階で踏まえるべきプロセスは、あなたの志望校が難関校であっても中堅校であっても同じです。このときには、どの大学でも問われる知識・解法と、大学のレベルによらず絶対に落とせない基本問題・標準問題のパターンを習得しなければなりません。また、この段階では、よく出る単元・分野・項目に絞る勉強ではなく、全範囲を網羅する勉強が必要です。
個々の試験を解く際に必要な「特化学力」
一方、試験の性質に応じて身につけるべき特徴的な学力があります。これを「特化学力」といいます。該当するのは、「過去問演習」「共通テスト対策」「面接対策」「小論文対策」です。「汎用学力」養成にあたる「入試基礎固め」「典型問題演習」が実力を積み上げていくことによって入試問題が解けるようになっていくという「ボトムアップ」の過程である一方、「特化学力」養成期にあたる「過去問演習」「共通テスト対策」「面接対策」「小論文対策」は、トレーニングを積み重ねていくことによって実力が確認・補強されていくという「トップダウン」の過程だといえます。
ひと口に「過去問」といっても、出題レベルは大学によって千差万別です。頻出分野も出題形式も大学によってまったく異なります。そのような出題傾向を把握できていなければ、たとえ「入試基礎固め」と「典型問題演習」が完璧にこなせていても、試験本番で合格点に達することはできません。それぞれの志望校の出題傾向に即して個別の対策を講じる必要があるのです。
共通テストは、医学部の個別学力検査とはまったく異質の試験です。難度は各大学の個別学力検査には遠く及ばないものの、試験時間に比して問題の分量が多いため、解き慣れておかないと試験本番での高得点は望めません。個別学力検査用の勉強では、共通テスト対策は兼用できないのです。共通テストという試験の性質に応じた固有の対策が必要です。
医学部入試には、学校推薦型選抜・総合型選抜だけでなく一般選抜でも面接・小論文を課すという、他学部には見られない特徴があります。そのため、医学部受験生は、他学部の一般選抜受験者には不要の「面接対策」と「小論文対策」まで立てなければなりません。面接では、「自分の長所」「高校生活」のような一般的な質問だけでなく、「再生医療」「国民皆保険制度」のような専門的な質問まで尋ねられます。また、小論文では、医療知識にもとづいて答案を書く「テーマ型」という出題も見られます。さらにいうと、医学部の面接・小論文では、学力とは別に、医師としての能力・適性も試されます。このように、医学部の受験勉強では、面接・小論文に照準を合わせた独自の対策が求められるのです。
*大学によっては、面接・小論文の代わりに、あるいは面接・小論文と並行して、「適性検査」( 例 聖マリアンナ医科大)や「口述試験」( 例 防衛医科大)を課すケースもある。
先ほど、「汎用学力」の養成段階ではよく出る単元・分野・項目に絞らず全範囲を網羅する必要がある、と述べました。一方、「特化学力」の養成段階では、頻出の分野・出題形式などを「ねらい撃ち」する必要があります。過去問から読み取れる出題傾向に合わせ、対策を実践していきましょう。
「入試基礎固め」「典型問題演習」では、単元ごとに全範囲を終える
以下では、受験勉強の「メインメニュー」である「入試基礎固め」「典型問題演習」「過去問演習」の各ステップにつき、やるべき内容と実行すべき方法を述べていきます。
「融合問題」は、単元ごとの学習を終えない限り解けない
入試問題の過去問には、1つの単元からのみ出題されるケースがあります。しかし、それ以上に多いケースは、単元の枠を超えた横断的な「融合問題」です。もっとも、受験勉強を始めたばかりの受験生がいきなり「融合問題」を解くことは不可能です。そのため、初期段階における受験勉強では、入試で問われる内容を単元・分野・項目ごとに一つひとつおさえていくこととなります。つまり、受験勉強の基本は単元ごとの学習にあるのです。
「領域学習」は、高3に入ってからも継続する
単元ごとの学習は、すべての単元・分野・項目を対象としなければなりません。このように、入試問題の出題範囲をすべてカバーしていくという勉強法は「領域学習」と呼ばれます。受験勉強の初期段階で行う「入試基礎固め」「典型問題演習」では、この「領域学習」を、自分が必要とするすべての入試科目について進めてください。
「領域学習」には、学校の授業で教わる前から着手しましょう。このように、学校の進度よりも早く領域学習を始めることは「先取り学習」といいます。「先取り学習」に学校の授業の「予習」として取り組むと、学校の授業が先取り学習の「復習」となります。同じ単元・分野・項目を繰り返し勉強することとなりますから、「先取り学習」によって知識・解法の定着率が格段に向上していくのです。
「領域学習」は高2までに終了してください。高3では、一部の教科につき新学期開始時期から「過去問演習」に入る必要があるからです。高3生となった時点では、「領域学習」の積み残しがすべて解消された状態にしておきましょう。
なお、高3に入ってからは、高2で終了した「領域学習」の復習を行ってください。志望校の頻出分野や出題形式に絞り込んだ「過去問演習」だけでは、知識や解法に抜け漏れが生じてしまいかねないからです。「これまでよく出ていたところ」と「これまではあまりよく出ていなかったが、これから出そうなところ」の両方を、「過去問演習」と「領域学習」の組合せによってバランスよくおさえていきましょう。
「典型問題演習」の段階では、難問対策は不要
「入試基礎固め」で知識・解法を習得したら、次の「典型問題演習」では、入試レベルの問題によって「運用能力」を高めていくこととなります。
多くの受験生が、この「典型問題演習」の段階で、「医学部受験では難問がたくさん出るから、ハイレベルな入試問題を解かなければならない」と考えています。しかし、それは大きな誤解です。ハイレベルな入試問題への対策は、「過去問演習」の段階で立てればよいからです。
たしかに、近年の医学部入試には「初見問題」が増えています。これらは、覚えてきた知識・解法に当てはめて解くのではなく、知識・解法をその場で運用して解くという応用的・発展的な問題です。しかし、このタイプの難問を解く学力は、「入試基礎固め」「典型問題演習」による土台づくり抜きには培われません。難問対策は「過去問演習」に譲り、「典型問題演習」の段階では、医学部入試でよく出る単元・分野・項目を網羅することに専念しましょう。
「典型問題演習」では、トレーニングのための時間を確保しなければなりません。ですから、時間を捻出する手段として、問題をある程度考えても解けない場合には正解を見てしまって解法を覚えていく、という方法をとることも致し方ありません。「典型問題演習」の段階では、解いた問題のストックを増やしていくことを最優先してください。
「過去問演習」は、「過去問分析」とワンセットで実施する
「過去問演習」は、文字どおり、志望校で過去に出た入試問題を解いていくというステップです。ここでは、「過去問演習」を行う目的や対策に関する注意点などを述べていきます。
「過去問演習」は「ゴール地点」ではなく「スタート地点」
受験生の多くは、「過去問演習」を「入試問題が解ける十分な実力がついてから始めるもの」だと考えています。これは、「過去問演習」を受験勉強の「ゴール地点」としてとらえる思考です。しかし、この認識は誤りです。
「過去問演習」は受験勉強の「スタート地点」です。「入試問題が解ける十分な実力」がつく前から着手しなければなりません。なぜなら、受験勉強は、「過去問演習」から得られる情報にもとづいて組み立てるべきものだからです。つまり、実際に過去問を解いてみない限り、本格的な受験勉強には入れないのです。
数学・理科は、単元・分野・項目がきっちり固定されているため、過去問を全題解くには「領域学習」で全範囲を終わらせなければなりません。しかし、入試が近づいている時期であるのに「過去問演習」に未着手のままだと、もし「領域学習」の終了が遅れてしまった場合、過去問に目を通せないまま試験本番を迎えるという最悪の事態になりかねません。数学・理科では、たとえすべての単元・分野・項目の学習が終わっていなくても、解ける範囲の過去問から手をつけ、試験の雰囲気に慣れておきましょう。一方、出題範囲が明確には存在しない英語については、受験勉強の初期段階からすべての出題形式に手をつけていきましょう。
「実力がつくまで過去問を温存しておこう」という考えは捨ててください。受験勉強の初期段階からドンドン解いて、過去問のストックを空っぽにしてしまいましょう。
「過去問分析」で見るべきポイントはココ
先ほど述べたとおり、自分で過去問を解いていくと、つまり「過去問演習」を行っていくと、さまざまな情報が得られます。その情報の中から必要な情報を精査し受験勉強に生かしていくというプロセスは「過去問分析」といいます。「過去問演習」は「過去問分析」と同時に進めなければなりません。過去問を解く前には、以下のようなポイントに注意して分析を行ってください。
出題内容 |
|
---|---|
出題形式 |
|
出題分量 |
|
配点 | 大問1題につきどのような点数配分となっているか |
難度 | 「典型問題」が多いか。それとも、「初見問題」が多いか |
試験時間 | 1教科(1科目)あたり何分か |
スタートとゴールのギャップを把握する
「過去問分析」によって頭に入れたポイントを意識しながら「過去問演習」を行ったあとには、解く過程で気づいたことを振り返り、ノートに記してください。とくに、「問題を初見で目にしたときにどのような発想が思い浮かんだか」という「問題の第一印象」は、その後ほかの過去問を解いていくプロセスにおいて普遍的な指針となる重要な情報です。忘れずに書き留めておきましょう。
まだ実力がついていないうちから過去問を解くと、正答率は散々で、自分がどれほどできないかに気づいて落胆します。しかし、それでよいのです。受験勉強の初期段階から「過去問演習」を行う目的は、現在の実力(=スタート)と志望校が求める実力(=ゴール)とのギャップを把握することにあるからです。「試験本番で間違えるよりもはるかにましだ」と考え、ドンドン解いて、たくさん間違えていきましょう。
スタートとゴールの差が自分の弱点です。試験本番までに、「過去問演習」によって気づいた弱点を粘り強く克服していってください。
志望校以外の過去問を「類題」として解く
医学部の過去問集は、総合大学用の本だと収録年度数がある程度多いものの、単科医科大用の本だとほんの数年分しか載っていない場合があります。そのため、「過去問演習」の消化ペースが速い場合、過去問のストックが底を尽き、「解く問題がなくなってしまった」という事態が起こりえます。
その際に、とるべき方策は2通りあります。1つ目は、過去問の解き直しです。2つ目は、同じ形式で出ている、志望校以外の過去問による演習です。これは、他大学の過去問を志望校の過去問の「類題」として解く、ということを意味します。
後者については、「他大学の過去問を解くなんて無意味。志望校の過去問だけ解けば十分だ」と思う人がいるかもしれません。しかし、その考えは2つの理由から誤りです。
1つ目の理由は、志望校の過去問だけを解いていると、出題傾向が変わった場合に対応できない可能性がある、という点にあります。
過去問はあくまで「過去に出た問題」です。あなたが受験する年度にも同じ傾向で出てくるという保証はありません。それどころか、入試問題の傾向が突然変わるケースはしばしば起こります。志望校の過去問を解いていくと、たしかに出題傾向の特徴が体で覚えられます。しかし、同時に「くせ」もついてしまうため、もし志望校の試験本番でこれまでとは異なるタイプの問題が出てしまった場合には手も足も出なくなってしまうおそれがあるのです。また、志望校以外の過去問を解いていくと、志望校における出題の特徴がより明らかになるという波及効果も生まれます。以上のようなメリットを頭に入れ、他校の過去問へ果敢に挑戦して未出の内容・形式への対応力を身につけていきましょう。
2つ目の理由は、志望校の過去問で頻出の単元・分野・項目を演習する選択肢が増える、という点にあります。
過去問には「こんな受験生に入学してほしい」という各大学の思想が反映されています。そのため、上で述べたことと少し矛盾してしまいますが、過去問は、「過去に出た問題」であると同時に、「これからも出そうな問題」でもあります。志望校の過去問を解き尽くしてから、似た傾向にある他大学の過去問で演習することは、志望校でよく出る単元・分野・項目の学習を強化することにつながるのです。
もっとも、他大学の膨大な過去問の中から、志望校の過去問の「類題」として適する入試問題を選び出すことは大変です。もし自力でチョイスすることが難しいと感じたら、信頼できる指導者から代わりに選んでもらうことも検討してみてください。
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