医学部という進路

the path to medical school

強者(つわもの)たちが集う医学部受験の激しい競争で勝つためには、高い学力だけでなく、綿密な作戦も求められます。ここでは、選択科目をどれに決めるか、どの受験方式を選ぶか、どの併願パターンで受けるかなど、「戦うための武器の使い方」を伝授します。

【そもそも「医学部をめざす」とはどういうことか①】医学部と医学部以外で悩んでいる人へ

【そもそも「医学部をめざす」とはどういうことか①】医学部と医学部以外で悩んでいる人へ

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*この記事は、メディックTOMASへの取材にもとづいて執筆されています。

「物理」「生物」は、「科目適性」「進路適性」とセットで選ぼう

医学部の入試科目は、国公立大の場合には共通テストが課されるものの、個別学力検査では国公立大・私立大とも英語・数学・理科2科目という組合せが標準的です。また、理科2科目が課される場合、たいていは化学が必須です。したがって、もう1科目として、物理と生物のどちらかが選ばれることとなります。
理科の科目選択では、もちろん、「その科目で自分がどの程度得点できそうか」という「科目学力」が重要です。しかし、重要な要素はほかに2つあります。1つは、その科目によって刺激される自分の興味・関心である「科目適性」です。もう1つは、その「科目適性」にもとづいて選んだ受験科目と大学入学後の学びとの相性である「進路適性」です。

現在、多くの学校では、高1の終わりに理科の科目を選択させるケースが主流となっています。その際に、多くの医学部志望者が、選択科目と将来的な進路との深い関係を認識することなく、ただ何となく物理か生物を選んでしまっています。
また、近年は、医学部志望者であっても、生物よりも物理を優先的に選ぶ傾向が強くなっています。実際に学校で物理を履修している受験生からは、「物理は、潰しが利くので有利だ」「生物は履修者が少ないから、フォローアップが手薄になりがち。一方、物理なら履修者が多いから手厚く指導できる」などと学校の先生から言われて物理を選択した、という話をよく聞きます。しかし、そのように学校で言われるがまま安易に選んだ結果、物理が好きでも得意でもないという医学部志望者が増えているのです。
物理よりも生物により強い興味・高い関心、すなわち、より強い「科目適性」がある受験生は、生物を優先的に選ぶべきです。たとえば、物理で頻出する「斜面」の問題を見ると明らかに拒否反応を示すのに、生物で扱う「細胞」には高い関心を示し夢中で勉強するという受験生が実際にいます。
このように、医学部受験という進路は絶対的なものではありません。たとえば、生物を勉強していると「燃えてくる」という、生物の「科目適性」がある人であれば、あえて医学部ではなく獣医学部を選ぶということも考えてほしいのです。医学部と獣医学部には、治療する対象が「人間」なのか「動物」なのかという違いはありますが、どちらの領域でも生物の知識は欠かせません。聞くところによると、獣医の資格には海外でなければ取得できないものがあるそうです。実際に、国外での資格取得をめざし海外大学の受験を考えている獣医学部志望の受験生もいます。
以上、物理・生物のような理科の科目選択においては、自分が強い興味・高い関心から勉強できるかどうかという「科目適性」と、選んだ科目が大学での学びとマッチングするかどうかという「進路適性」を必ずワンセットで検討してください。たとえば、「斜面」を扱う物理よりも「人間」や「動物」を扱う生物のほうにより強い「科目適性」がある受験生であれば、医学部よりも獣医学部・農学部などを選ぶべきなのです。

「科目適性」「進路適性」だけでなく「職業適性」も考慮しよう

大学・学部選びは仕事選びでもあります。とくに、理系の場合には、進学先が将来の仕事と直接結びつきます。大学・学部という進路を決めたら、次は仕事という進路を決める必要があるのです。
前項までは、「科目適性」(=科目との相性)と「進路適性」(=大学入学後の学びとの相性)を取り上げてきました。この項目では、新たに、進路として考えている仕事との相性である「職業適性」という要素を取り上げます。

たとえば、医学部ではなく薬学部への進学を考えている受験生がいるとしましょう。上述の「科目適性」「進路適性」「職業適性」に即して受験生の将来をシミュレーションしてみると、「科目適性」には、たとえば、「化学が好きだから、薬学部を志望する」などという理由が当てはまります。「進路適性」なら、たとえば、「薬剤師などの資格を取りたいから、薬学部を志望する」などという理由がありえるでしょう。また、「職業適性」であれば、理由としては「結婚というライフスタイルと両立させたいから、薬剤師を志望する」などが考えられます。
自分にそのような「職業適性」があるかどうかを見きわめるポイントは、「その仕事を通じて『人の役に立ちたい』という思いを持てるかどうか」という点にあります。近年、「人の役に立ちたい」と本気で願う受験生が増えています。実際に塾で面談すると、彼らからは「お金を稼ぎたい」という金銭的欲望よりも「人の役に立ちたい」という社会貢献願望をより強く感じ取れます。
しかし、「人の役に立ちたい」というイメージが持てる仕事、一生涯を賭けられる仕事は、いまあなたが考えている仕事以外にもありえます。あなたが向いていると思い込んでいる仕事よりも自分に合っている仕事が、もしかしたらあるかもしれないのです。
したがって、「職業適性」の見きわめには、第三者の力が必要です。自分の性格を客観的に分析したり、自分が蓄えているポテンシャルを判断したりすることは、独力だけでは難しいはずです。プロの指導者に頼ることも検討してみてください。

学部選びには柔軟性が必要

先ほど、理系の場合には進学した大学・学部で将来の仕事が決まると話しました。しかし、実際には、たとえば薬学部に進学しても薬剤師にならず、製薬会社のような民間企業に就職する人もいます。もちろん、個人には職業選択の自由がありますから、薬剤師以外の仕事を選ぶことが批判される筋合いはまったくありません。
また、医学部・薬学部・農学部・理学部など従来型の学部に希望の専攻がない、という場合もあります。では、そういう場合には、自分が学びたいことを断念しなければならないのでしょうか。そのようなことはけっしてありません。
もし従来型の学部で自分に興味・関心のあることが学べない場合には、比較的新しい系統の学部を選ぶことをおすすめします。たとえば、生命科学部・生活環境学部・環境情報学部・総合科学部などです。また、学部によらず横断的に学べるカリキュラムが組まれている大学や、理系と文系をまたいで単位が取得できる大学もあります。進路については複数の選択肢を持っておきましょう。

世の中が「多様性」を認める方向に動いているのと同様、大学でも多様性が重視され始めています。大学での学びを柔軟に構築するとともに、「これでなら社会に貢献できる」と思える将来の仕事も見据えていきましょう。

医学部志望者は、高1・高2から意思を固める必要あり

前々項では、大学受験には、科目との相性である「科目適性」、大学入学後の学びとの相性である「進路適性」、および進路として考えている仕事との相性である「職業適性」の3要素が必要だと述べました。
とりわけ医学部受験では、この3要素のいずれもが高いレベルで求められます。そもそも、「科目適性」として高い学力が必要です。また、面接や小論文などを通じて、入学後の厳しいカリキュラムに6年間耐えられる「進路適性」も、どういう医師になりたいのかという明確なビジョンである「職業適性」も厳しく問われます。
他系統でしたら、入学後のことや仕事のことは合格してから考え始めてもとりあえずは間に合います。しかし、医学部の場合にはそうはいきません。本格的な受験勉強に取り組む前の段階、すなわち高1・高2の段階から進路と職業を考え始めなければとうてい間に合わないのです。

「やりたいこと」「なりたいもの」を自問してみよう

医師には2つの分野があります。1つは治療主体の「臨床医」、もう1つは研究主体の「研究医」です。医学部入試における面接ではしばしば、受験生がどちらの分野を志望しているのが問われます。したがって、受験生はあらかじめ、自分はどちらの医師に向いているのか、また、それぞれの道へ進むにはどう学びたいのかを熟考しておかなければなりません。
医学部受験生の中には、研究活動に対する強い興味・高い関心を持っている人が一定数存在します。もちろん、この場合には、上述のように医学部で研究医をめざすという道がありえます。しかし、そういう人にはほかにも、理工系学部、たとえば東大理Ⅰ・理Ⅱ、あるいは東京科学大の理工系学部などに進み、理工系の研究者をめざす道も検討してほしいのです。
医学部受験生の場合には、周囲にも医学部志望者が多いため、どうして「医学部至上主義」にとらわれがちです。しかし、いったん自分を客観的に見つめ直し、そのような周囲の雰囲気に流されてなんとなく医学部を志望していないかどうか、自分の適性から「逆算」するとほかの志望系統がありえるのではないかなど、自分の進路を冷静に見つめ直す機会を設けてほしいのです。
その結果、進路を変更して理工系学部をめざす、あるいは初志貫徹で医学部をめざすと決まったら、あとはその目標に向かってひたすら努力するのみです。明確な目標があれば、そのために燃え、そのためにがんばることができます。
たとえ自分が選んだ受験科目の偏差値が低いとしても、それはやり方次第でいくらでも上がります。それよりも大切なのは、「自分が何をやりたいのか・何になりたいのか」という「進路適性」と「職業適性」です。

あなたの決意は「本気」ですか?

先述のとおり、近年、多くの高校では、化学以外の理科の選択科目として、生物よりも物理を優先する傾向が強まっています。実際、強い興味・高い関心が物理よりも生物にありながら学校では高1の終わりから物理選択を強制された受験生もいます。また、進学校に通う生徒の場合だと、周囲の雰囲気につられて何となく医学部を志望しているという傾向が見られます。
そういう人には、次のようなことを考えてほしいのです。

  • 自分は、本当は何になりたいのだろうか。
  • じつは、本当は医学部ではなく、歯学部・薬学部・獣医学部・農学部・理学部などに行きたいのではないだろうか。
  • 「こういうことができたら幸せだろうな」とイメージできる仕事をいくつか挙げる場合、その中には医師以外の仕事が含まれる可能性はないだろうか。

どうでしょうか。自分自身に問いかけ、自分の適性や得意科目を見きわめたら、医学部という進路以外の選択肢も思い浮かぶのではないでしょうか。もし自分の将来像が医師以外にあるということに気づいたら、迷わず、医学部以外の道に進みましょう。それが、あなたにとってベストな選択です。
もちろん、悩みに悩んだ結論が、「やはり、自分は医学部に行きたい、医師になりたい」という答えだったとしたら、医学部以外の選択肢はスッパリ捨て、医師になる決意を固めましょう。あとは医学部合格に向け、一心不乱に勉強するのみです。

このように、受験勉強を始めるにあたっては、「何がなんでも医学部」という思考をいったん保留し、「本当に自分が行きたいのは医学部なのか、それともほかの学部なのか」をじっくり考えていきましょう。

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