試験時間:2科目 150分/問題数:大問3題
吉山 茂
出題内容・難易度
大問 | 出題内容 | 出題形式 | 難易度 |
---|---|---|---|
1 | RNAポリメラーゼによる転写と肢の発生 | 記号選択、考察記述、説明記述 | 標準 |
2 | フロリゲンと花芽形成 | 記号選択、理由記述 | 標準 |
3 | 神経誘導とカドヘリンによる細胞選別 | 記号選択、説明記述、考察記述 | やや易 |
問題分析
- 前半はRNAポリメラーゼの転写の過程を実験で突き止める問題で、後半は肢の発生をニシキヘビとの比較で考察する実験問題。最近の論文からの出題であり、論文などへのアクセスが「既知感」をもつ最も有効な手立てになるが、それがなくても実験を丁寧に読み、問いをスタートにもう一度解釈を修正すればストーリーは押さえられる。
- 前半はフロリゲンについての実験による発現制御を突き止める実験考察問題であるが、後半は実験を伴わずに考察を行わせる問題で構成されている。この構成の問題は東京大学では珍しく、自らの知識と考察力を問われた。
- 前半は発生とタンパク質についての基本的な問題。説明記述や語句の記述は基本的。実験の考察も平易。後半はゼブラフィッシュの細胞選別についての実験考察。こちらも記号選択メイン選択肢は「すべて選べ」が多い形になった。
総評
大問1が動物の遺伝子と発生、大問2が植物の物質輸送と例年通り動物、植物をテーマにした実験考察であるが、大問3が遺伝子発現についての問題であり、以前の生態・進化を扱った大問を扱っていない。3年連続でこの形式であり、この形式がほぼ固まったといえる。ただ、新課程で進化が細胞とともに最初に扱われる単元でもあるので以前の単元がこれから全く出題されなくなることはないと思われるので、広く知識は吸収しておきたい。記述は多くは1行や2,3行とそれほど長くない。ただ、全体で34ページと昨年よりも分量がやや多くなった印象であるが、実験により仕組みの考察⇒実際の生物における現象考察という流れで後半の現象を解りやすく誘導しているので、いかに「流れに乗れるか」がポイントになる。実験はグラフや図の読み取りをメインにしているものの、知識の裏付けは十分に必要であり、普段から論文レベルの教養を持っておくとスムーズに運べた印象がある。
昨年あった「生物的意義を答えよ」「適応的な意義について」という何を答えるのかをつかみにくいものはなくなり、「転写をどのように促進しているか」「どのような改変をゲノムDNAに導入すれば」など記述の方向性を示してくれているものが多くなった。問いに対して、やみくもに問題文やグラフだけで判断するのではなく、問いの文章からしっかりとつかんでから図表を評価する「問いをスタートとする」考察の方法の確立が必要である。特に、東大のようなテーマが難解なものであるほどこのような方法で「点を取りに行く」ことも必要になってくる。また、記号選択では「すべて選べ」という形式が多く、問いや選択肢から実験の方向性をつかむ大きな手掛かりになっている。
「実験・考察問題集」(数研出版)、「思考力問題精講」(旺文社)、「合格100問」(東進ブックス)など難易度の高い最新の問題を扱った問題集で基本的な実験考察のスタンスをつくることが最初になるが、問題集ではどうしても「長さ」が足りないので、早稲田大学、京都大学などの難関校の過去問を東京大学の過去問と合わせて行い「長さ」に慣れていくことが大切になる。また、日頃から最低でも新書、できれば専門書や論文レベルまで目を通しておくことで専門的な実験についての見識を深めておきたい。
最高峰の大学を目指す生徒であればこのレベルのことは当たり前にこなしていることになるので、時間があれば「生物学オリンピック」などにも参加して自らの知識や考察力を発信することで自らの表現力を鍛えていくことが合格への近道になるであろう。