東京大学
基本情報
試験時間:100 分/問題数:大問3題
分析担当
首藤 卓哉

出題内容・難易度

大問 出題内容 出題形式 難易度
『時間を与えあう―商業経済と人間経済の連環を築く「負債」をめぐって』
小川さやか
記述式 やや易
(やや易化)
『讃岐典侍日記』
藤原長子
記述式 標準
(やや易化)
『書林揚觶』方東樹 記述式 標準
(昨年並)

問題分析

  1. 「タンザニアの行商人の商習慣である掛け売りをキーにして、それが単純な売買契約ではなく、ツケの支払いを「負債」と「時間・機会の贈与交換」と分割して考えることで、彼らの文化習慣を理解できる」という旨の論説文。問題文の分量は昨年とほぼ一緒であったが、内容は比較的わかりやすい文章であり、比較すると読解のしやすさを踏まえ、やや易化と考えてよいだろう。設問数は記述4問、漢字の書き取りが3問と例年と同じ。形式も記述問題の内、3問は2行の解答欄の記述、1問は100字以上120字以内で、例年と同様であった。漢字の書き取り問題も漢字検定2級~3級程度であった。問一は直前と直後を端的にまとめる力が必要である。問二、問三は文中の語を言い換えて並べるだけでは不十分で、内容を踏まえた上での論述が必要である。問四の難易度は例年ほぼ同じであるので、過去問を利用して練習をされたし。
  2. 『讃岐典侍日記』からの出題であった。設問は全部で3問、問一は現代語訳3つとここ三年間同じ問題数。本文は平安時代の女流日記文学作品であり、心理描写が多分に含まれ、読解自体の難易度は少し難化したものの、問の内容を踏まえるとやや易化したと考えてよいだろう。例年同様リード文があり、問題解答にかかわる内容が書かれているためチェックは必須である。問一は「年ごろ」「ゆかし」「まゐらす」「心づから」「かし」などの基本的な語彙をおさえておく。問二はまず「いつしか」「あさまし」の意味の暗記や助動詞「ん」を「婉曲」と識別できるかが肝要である。そしてリード文と傍線イの前後の内容を踏まえて解答をする。問三は短歌の解釈であり、一見難しいように思えるが、これまでの問題の内容を踏まえればしっかりと解ける設計となっている。「乾くまもなき」が「涙」を表現している点や、「黒染め(の袂)」が喪服を表す点を抑えればよい。
  3. 問一が小問3つで現代語訳、問二は内容の説明、問三は本文の趣旨を踏まえた上での指示語の「此」説明で、出題形式は昨年と同様であった。問一の傍線部b・dは特に難しいところはなく、傍線部cも直後の「無毫末之損」と対になる点を踏まえれば容易に現代語訳はできるはずである。問二は「不得已」に留意した上で、直後に語られる内容を踏まえて記述する必要があり、この大問の中ではやや難易度が高いと言えよう。問三は指示語の内容把握であるので基本的には直前の内容に注意をして説明をすれば十分に解答できる問題であった。

総評

 例年通り確固たる基礎からなる総合力が問われる試験内容であった。ただし、本年は現代文の文章内容が平易であった為、解答内容の精度が求められたものになった。また、古文で平安朝文学作品が出題されるのは、2021年の『落窪物語』以来3年ぶりで、その前は2017年の『源氏物語』であったので、数年おきに出題されている。この時代の作品は近世のものなどに比べるとやや読解の難易度が高まるので、普段からの読解練習が肝要と言える。漢文の現代語訳に関しては難易度を踏まえるとここでの失点は避けたい。その他の問題もしっかりと内容把握ができれば答えられる問題設計になっているので、読解の時間を確保することが重要である。
 また来年度からは新課程入試になるため、出題傾向が変わる可能性がある。特に漢文においては、近体詩に限らず漢詩の鑑賞の練習をしておくことを推奨したい。