おかあさんの参考書
母の不安を考える

母の不安を考える

鳥居りんこ

母というものは、お腹に子どもを宿したと気づいた瞬間から、子どものことで頭がいっぱい。我が子のこととなると、常に心配が先立ってしまう生き物です。これは本能的なものなので、「我が子は大丈夫?」と不安な気持ちになるのは、仕方ないのかもしれません。

しかも、こと、我が子の受験ともなると、心配の気持ちがマックスになり、脳内では勝手に「悪い未来予想図」を描きがちです。母だって受験道のひとつやふたつは通ってきたはずなのに、我が子の将来をポジティブには考えられなくなるというのは、もはや「あるある」です。
特に中学受験は、まだ幼い子どもの受験だという意識があるがゆえに、母は変に責任を背負ってしまい、余計に胸が押しつぶされそうな気持ちになってしまうのです。

さらに、自分が不安になるだけならまだしも、その気持ちが爆発して、受験さえしなければ、する必要もなかったであろう親子喧嘩を繰り返した挙句、「やる気がないならやめなさい!」「そんなんじゃ、どこにも受からないよ!」なんて暴言が出てしまうこともあります。
受験しない子に比べたら、はるかに勉強しているのに、どんどん追い詰められていくようで、涙が出てしまうことも実際あると思うのです。

そんな日は「母親失格」という烙印を自分で自分に押してしまったりして、「この道で本当にいいの?」「お願い、この道でいいと誰か言って!」と、何かにすがりつきたくなるものです。

でも、大丈夫。あなただけではありません。みんな、そうなのです。

「どこかには入学できる」と、みんなわかっている

ここで、今一度、母の気持ちを整理しましょう。

中学受験生の母は全員、不安です。雲上人と呼ばれるほどの偏差値を取ってくる子の母も、ボリュゾ(※ボリュームゾーンの略。受験生の真ん中くらいの位置にいる層のこと)だとか、低空飛行とか言われる子の母も、みんな、みんな、不安なのです。

(以前、全国模試1位の子の母に「不安でたまらない」と相談されたことがあるのですが、その理由は「受験本番に天災が起こったら? と思うと眠れない」という内容でした。
「万一、そうなったら、受験自体が延期になるだけ」と答えましたが、このように、天才・秀才の母であっても、不安の芽は、どこからでも芽吹いてくるのです。)

母の不安の一番の根源は「合格できなかったら、どうしよう?」というもの。

でも、母は全員、分かってはいるのです。志望校に落ちたからといって、命が取られるわけでもなく、人生や将来が決まってしまうわけでもない。義務教育なので、どこかの中学には入学できると。
みんな、このことはよく分かっているのに、目の前に「偏差値」や「合格確率」、果ては「大学合格実績」なんて数字が出てくると、途端に焦りだして不安になるのです。

そんな時は、夜空を眺めながら深呼吸。そして、子育てで自分が目指してきた一番大切なことに思いを巡らせてみてください。

子どもが生まれる前に望んだ、「健康で元気な子でありますように」という願いを、思い出す方が多いのではないでしょうか?

不安を取り除く呪文は「縦で! 縦で!」

「子育てがきつい」と感じるきっかけは、よその子と比べるようになったことです。
もし、中学受験も含めた子育てが不安でつらいならば、考え方を少し前に戻してみるといいですよ。

子育ての秘訣は「横で比べず、縦で比べる」です。

横は他人との比較。縦は先月の我が子、去年の我が子という具合に、我が子自身の成長。我が子だけを見つめて、我が子の頑張りや、長所を認める作業をやり続けるという意味です。

受験する子のご家庭は、熱量がある場合が多いので、周りの熱を感じてしまうと、どうしても影響を受けてしまい、揺れ動いてしまうのですが、そういう時こそ、「縦で! 縦で!」と呪文のように唱えてみてください。

これだけさまざまな勉強をしてきて、何の力もついていないわけがありません。
親はとかく100を求めがちですが、受験に挑戦しなければ0だったはずの力が、20でも30でも我が子にはついたのです。縦に伸びていない子はひとりもいません。

これだけとってみても、我が子はすごいことに挑戦しているし、実際、体力・知力・精神力ともに、素晴らしい成長を遂げていることに気づくのではないでしょうか。

「我が家流の受験」をやりきった親子は、合否に関わらず「楽しかった」と言う人が多いです。偏差値なんて関係ありません。

不安に駆られた時こそ、「よそはよそ、ウチはウチ」と強く意識し、「大丈夫! ウチの子なら絶対に大丈夫! 幸せになる!」と自分におまじないをかけましょう。

メンタルが安定したら、顔から不安をのぞかせる頻度は少なくなります。母のメンタルの安定が子どもに良いメッセージを与えます。良いメッセージを感じた子どもは、一層スクスクと育つでしょう。

さあ、我が家なりの「いい受験」を目指して、母も気分転換です。
不安になるのは当たり前。その気持ちすらも、母なればこそ。こんな経験も中学受験でしか味わえません。

いろんな感情が入り乱れる期間限定の受験道を、お子さんと一緒に楽しんでほしいと、心から願っています。

著者プロフィール

鳥居りんこ
鳥居りんこ
とりいりんこ

作家&教育・介護アドバイザー。2003年、長男との中学受験体験を赤裸々に綴った初の著書「偏差値30からの中学受験合格記」(学研)がベストセラーとなり注目を集める。保護者から“中学受験のバイブル”と評された当書は、その後シリーズ化され、計6タイトルが出版された。自らの体験を基に幅広い分野から積極的に発信し、悩める女性の絶大な支持を得る。近著に『【増補改訂版】親の介護をはじめたらお金の話で泣き見てばかり』(双葉社)、『【増補改訂版】親の介護は知らなきゃバカ見ることだらけ』(同)、『親の介護をはじめる人へ伝えておきたい10のこと』(学研プラス)、企画・取材・執筆を担当した『女はいつも、どっかが痛い がんばらなくてもラクになれる自律神経整えレッスン』(やまざきあつこ著・小学館)、『たった10秒で心をほどく 逃げヨガ』(Tadahiko著・双葉社)、『1日誰とも話さなくても大丈夫 精神科医がやっている 猫みたいに楽に生きる5つのステップ』(鹿目将至著・同)、『神社で出逢う 私だけの守り神』(浜田浩太郎著・祥伝社)、『消化器内科の名医が本音で診断 「お腹のトラブル」撲滅宣言!!』(石黒智也著・双葉社)など多数刊行。最新刊は、取材・執筆を担当した『黒い感情と不安沼 「消す」のではなく「いなす」方法』(やまざきあつこ著・小学館)。

ブログ:湘南オバちゃんクラブ

Facebook: 鳥居りんこ

Youtube:鳥居りんこちゃんねる


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