


親は愛情のつもりでも、そのメッセージが子どもを苦しめる
親も先生も、自分で意識しないまま、子どもに矛盾したメッセージをおくっていることがよくあります。これをダブルバインド(二重拘束)といいます。親の例としては次のようなものがあります。
1.習い事・部活・塾などを「続けるか、やめるか、自分で決めなさい」と言いながら、子どもが「じゃあ、やめる」と言うと怒る
2.子どもの服や本を買うとき「自分で選んでいいよ」と言っておきながら、子どもの選択に不機嫌になる
3.「あなたはどう思う? 自分の意見を言って」と意見を求めながら、子どもが親と違うことを言うと「何もわかってないくせに」と押さえつける
4.「なんでも話して」と言いながら、話した内容を叱る材料にする
5.「失敗してもいいから、チャレンジすることが大事」と言いながら、子どもが実際に失敗すると「もっとよく考えて決めなきゃ」などと責める
6.「無理にがんばらなくてもいいんだよ」と言いながら、成績が下がると心配そうな顔をする
7.「行けるところに行けばいいよ」と言いながら、より偏差値の高い学校への未練を隠さない
親としての理想(建前)と本音のせめぎあいが原因
なぜ、親はこういうダブルバインドをしてしまうのでしょうか?
それは心の中で、「子どもに自己決定させてあげたい」「でも不安なのでコントロールしたい」「それに自分の価値観も大事にしたい」などの矛盾する気持ちがせめぎあっているからです。
理想(建前)と本音のせめぎあいといってもいいでしょう。
上記の1は、「子どもの人生なのだから自分で決めさせてあげたい。自己決定の経験が子どもを成長させるはず」という理想と、「でも親の思い描いているコースを歩んでほしい。その方が結果的に子どものためになるはず」という本音のせめぎあいです。
同じように、2〜7も理想と本音がせめぎあっています。私は、これは人間としてやむをえない部分もあると思います。親の愛情の表れといえるかもしれません。
とはいえ、親が無自覚にダブルバインドを多発していると弊害が出てきます。例えば1、2、3のようなことが多いと、子どもは常に親の顔色を伺い忖度するようになります。子ども自身の本音を抑えながら生きることが多くなりストレスが溜まります。
子どもが本音を抑え続け、爆発することも
また、抑えてきたものがあるとき爆発することもあります。実際、私が先生だったときも、私のクラスの子ではありませんが、高学年の女子でそういうことがありました。校内事例研究で取り上げられて非常に印象的な例でした。
その子は、生活態度も立派で、勉強も習い事も本当によくがんばっていて、何事においても優秀な成績を上げる子でした。でも、あるとき急に何もやらなくなり部屋に引きこもってしまいました。
母親と一緒に心療内科を受診して、医師に言われたのは次のようなことでした。
「この子は本当はピアノも習字も○○も○○も、そんなにやりたくなかったようです。他にやりたいことがあったみたいです。でも、親御さんの期待に応えたくてがんばってきたんです。そのストレスが一気に爆発したんです」。
母親は驚きました。強制したことは一度もない。大変ならやめていいと言っていた。本人が嫌と言ったこともない。もし嫌と言えば続けさせたりしなかった…。
すると医師が言ったそうです。
「言えなかったみたいですね。言うとがっかりさせると思ったんですよ。親の気持ちがわかって、しかも自己コントロールできる女子にはありがちなことなんです。本音が言えないまま無理にがんばってしまい、あるとき燃え尽きるんです。でも、いま出てよかったと思います。もっと後で出るともっと大変になるので」。
つまり、この母親のメッセージがダブルバインドになっていて、子どもを縛っていたのです。そして、子ども自身も真面目で努力家で自己コントロールができる子であり、「嫌と言いたくない。自分に負けたくない」という思いが強い子でした。
こういう例はよくあるので気をつけてほしいと思います。
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忖度や他者不信感の人生に繋がることも
1、2、3の弊害を詳しく見てきましたが、4以降にも似たような弊害が出ます。4のようなことが多いと、子どもはうっかり正直なことが言えなくなります。
5のようなことが多いと、子どもは「そう言われても、実際に失敗すると叱られるからよく考えてやらなきゃ」と考えるようになります。
6や7のようなことが多いと、子どもは「そう言われても、がんばって成績を上げないと親が心配するから、がんばらないといけない」と考えるようになります。
このようにダブルバインドが多い親だと、子どもは「どうせ言う通りにしないと怒られるんだから、自分で考えてもしょうがない」と学習してしまい、親の顔色を伺って忖度するようになります。
さらには、自分の本音を抑えて相手に忖度する生き方が身についてしまう可能性があります。そうなると、自分の本音が自分でもわからない、自分は何をしたいのかわからないという状態にもなりかねません。
またこれらとは逆の方向に進み、親の言葉をまったく信用せずに激しく反発するようになることもあります。当然、親子関係が悪くなります。
親子関係が悪くなると、人生の初期に自分以外の他者が信頼できないという経験をすることになります。それが他者不信感にまで繋がっていくこともあります。
日ごろから親子で民主的な対話を
このようなことにならないためには、まず親も先生も「自分の言っていることはダブルバインドではないか?」と意識していることが大事です。
例えば、「あっ、いま自分は不安だから、子どもを思い通りにさせて安心しようとしているな」とか「どの学校でもいいよと言ってるけど、本当はこの学校に誘導したがっているな」などのように自覚するようにしましょう。
ダブルバインドを全くゼロにするのは難しいとしても、自覚していればかなり違ってきます。
そして、日ごろから親子で共感的かつ民主的な対話をすることが大事です。
子どもの気持ちや考えを共感的に聞き、親も自分の気持ちや考えを丁寧に話します。譲れるところは譲り、主張したいところは主張し、ときには代案を考えたりしながら着地点を見つけていきます。
民主的な対話ですから、親が上で子どもが下という上下関係ではなく、ひとりの人間同士として話し合うことが大切です。外交交渉のようなものです。
例えば1の場合、次のことを丁寧に伝えながら話し合うといいと思います。
・自分の人生だから自分で決めていい。それが大事。その権利がある。
・でも、ママ、パパの正直な気持ちはできたら○○してほしい。なぜなら○○だから。
・でも、それはママとパパの気持ちだから、繰り返すけど自分の気持ちを優先して決めていい。
・他の選択肢として、○○という方法もあるかもしれない。これはどう思う?
これが基本ですが、とはいえ親として「絶対に譲れないライン」があることもあります。そういうときはどうしたらいいでしょうか?
実際にあった例がご参考になると思います。
ある中学生が、友だちと3人で海水浴に行きたいと言いました。親御さんは子どもの話を共感的に聞きながらも、危険性が高いと判断して最終的には許可を出しませんでした。
その理由を丁寧に説明して、他の2人の子の親で連れて行ける人がいないか聞いてみることと、海ではなくプールにするなどの代案も伝えました。結局、他の子の親が連れて行ってくれることになりました。
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子どもを苦しめないメッセージのポイント
他にも次のようなことに気をつけましょう。
・4のように「なんでも話して」と言ったなら、話した内容を叱る材料にしない。
・5のように「失敗してもいいから、チャレンジすることが大事」と言ったなら、子どもが実際にチャレンジして失敗した場合は決して責めることなく「ナイスチャレンジ」と言ってあげる
・6のように「無理にがんばらなくてもいいんだよ」と言ったなら、成績が下っても泰然自若としている
・7のように「行けるところに行けばいいよ」と言ったなら、より偏差値の高い学校への未練は断ち切る
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