
医学部入試問題分析

慶應義塾大学 【2025年度 化学】
基本情報試験時間:2科目120分/問題数:大問3題
分析担当曽川 潤
分析担当曽川 潤
出題内容・難易度
大問 | 出題内容 | 出題形式 | 難易度 |
Ⅰ | [有機] 芳香族化合物の構造決定 |
記述・論述 | 標準 |
Ⅱ | [理論・無機] 水酸化ナトリウムの陽イオン交換膜法、水素とアンモニアの沸点の比較、 アンモニアの分解に関する平衡の移動 |
選択・記述・論述 | やや易 |
Ⅲ | [理論・無機] 鉄と希硝酸の反応、NOとO2の反応、NO2とH2Oの反応に関する実験考察 |
選択・記述・論述 | やや難 |
問題分析
Ⅰ. 芳香族化合物A, Bについての構造決定が問われた。1.(2)では、不飽和度から炭素数・水素数についての立式が求められた。また、1.(4)では、アルキル基がオルト・パラ配向性であることを考慮して、Aからトリニトロ体が生成しなかったという条件を考える必要があった。この2点を除くと、条件整理すべき情報量は多いものの、標準的な難易度と言える。短時間に正確に処理できるかが問われた。
Ⅱ. 水酸化ナトリウムの陽イオン交換膜法およびアンモニアがテーマの問題であった。1.(5)の隔膜の材質の選択は知識から陽イオン交換膜を選べば良いという方針はすぐ立つものの、選択理由の論述で手が止まった受験生も多かったと思われる。pKaのデータが与えられていることに注目し、①がpKaが最も小さくH+を放出して負電荷を帯びやすいためOH–およびCl–とは反発しあいこれらイオンを透過させないことを考えれば良かった。全般的に典型問題が多く解答しやすい大問であり、難易度は低かった。
Ⅲ. 本学の特色である歴史的な実験の考察が問われた。例年通り初見の実験問題であり、基礎知識を活用し論理的に読解することが求められた。難易度は昨年度と同程度であったものの、やはり応用・発展レベルの大問である。3.~5.では、一連の操作をもう1回繰り返しても結果は同じであったことから1回目の操作で空気中のO2がNOにより全て消費されたことを思考する点が難しかった。また、4.では鉄と希硝酸の反応が発熱反応であり反応終了後は温度低下による圧力低下も引き起こすことも考慮する必要があり、この点も難易度が高かった。一方で、5.の鉄の反応量についての計算は簡単であった。
総評
【難易度・分量】
難易度は昨年度と同程度であった。昨年度は近年では解きやすい問題であったことを踏まえると、今年度も難易度は低いといえる。分量も昨年度と同程度である。論述問題が昨年度の5問から8問に増えたものの、導出過程を記述する計算問題が昨年度の3問から2問に減り、全体的なボリュームは変わらなかった。やはり歴史的な実験問題の考察が難問であり大問Ⅲの3.と4.は解答しにくく考察に時間もかかる。大問Ⅲ3.4.を後回しして他の問題で得点を積み重ねるという工夫が求められた。化学単独での1次試験合格ラインは80%程度と予想する。
【来年度に向けた対策】
今年度の入試でも、高い思考力・処理力・表現力が求められた。来年度に向けてこれらを総合的に養成することを考えると、第1に基礎力を完成させることが必要である。教科書の太字部分は漏れなく説明できるようにする、教科書傍用問題集の応用問題までは解法を即座に想起できミスなく利用できるようにする等の基礎トレーニングをしっかり積んでほしい。その上で、東京大学・京都大学・東京慈恵会医科大学などの過去問を利用して、基礎知識を活用した条件整理・思考のプロセスの強化をしてほしい。論理的思考の経験値を高めることが、初見の実験考察問題を解くための鍵となる。

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