
医学部入試問題分析

横浜市立大学 【2025年度 化学】
基本情報試験時間:2科目180分/問題数:大問3題
分析担当戸来 又四郎
分析担当戸来 又四郎
出題内容・難易度
大問 | 出題内容 | 出題形式 | 難易度 |
1 | 【理論】 中和滴定(酢酸+水酸化ナトリウム)と電離平衡 |
記述・論述・計算 | 標準 |
2 | 【有機】 必須アミノ酸の構造異性体の構造推定 |
記述・論述・計算 | 標準 |
3 | 【理論】 ラウールの法則と溶解エンタルピー |
記述・論述(描図含む)・計算 | やや難 |
問題分析
- 酢酸と水酸化ナトリウムの滴定曲線に関する考察問題。語句・数式の空所補充が計10箇所と記述・論述問題が2題(字数制限なし)で構成。どの問題集にも記載があるといえるくらい頻出の内容で、受験層を考えると初見の受験生は皆無であったであろう。このテーマはpHを計算させる問題が多いが、本問には実際に数値計算する問題は含まれず、数式は導出過程と共に文字式で解答することが求められている。問題全体として電離平衡、緩衝液、近似計算の考え方についての本質的な理解が問われているが、基礎理解がしっかりしている受験生ならば化学式・イオン式の空所補充はほぼ完答できる。数式は電離平衡の3大テーマともいえる弱酸のpH、緩衝液のpH、塩の加水分解のpHに関するものであり、難問ではない。現象の説明に関する論述問題については問題文の指示に従い化学反応式を示す必要があり、中和反応の進行に伴う緩衝作用の強弱の変化について、どの反応式に頼ってどのような表現にすれば良いか戸惑った受験生は少なくなかったのではないか。記述論述問題で問われている内容については教科書に記載があるレベルなので、一つ一つの学習事項を自分の言葉で説明できるくらいに理解を深めていれば、対応できるはずである。
- 必須アミノ酸の構造異性体の構造決定およびその加水分解物の性質についての考察問題。構造式(7種の化合物)を書く問題の他、分子式と分子量を求める元素分析の計算問題が1題、反応性の違いの説明、反応機構の説明について、論述問題が2題(字数制限なし)、ルイス構造式の共鳴構造を書く問題(共鳴効果の説明記述もあり)が1題で構成。一見、化合物Aと化合物Bの構造の候補が多く混乱しそうだが、問題文の誘導に従っていくと比較的スムーズに解ける。即ち、元素分析で化合物Eがフェノールであることをつきとめ、分子式から化合物Dがアラニンであることが確認できれば化合物Aはフェニルアラニンであることが推定できる。天然の芳香族アミノ酸3種の知識(チロシンが必須アミノ酸ではないなど)が身についているとより確信を持って解き進められる。結論、構造決定に関してはけん化、アセチル化、芳香環のニトロ化など、基礎的な学習事項が習得出来ていれば完答も可能な問題レベルで。共鳴構造のルイス構造式は高校レベルを超えているので書けなくても大丈夫だが、ベンゼンスルホン酸の溶解性、ピクリン酸の酸性度、ニトロ基の電子吸引性などが理解できていれば、反応性の違いの論述には対応できる。求核アシル置換の反応機構も高校レベルを超えてしまっているが、これについては他大学でも出題があるので対応できるようにしておくことが望ましい。
- ラウールの法則と溶解エンタルピーの融合問題。熱量測定のグラフから溶解エンタルピーを文字式で求める問題が1題、ヘスの法則を用いた溶解エンタルピーの計算問題が1題、溶解エンタルピーの値の正負と分子間相互作用についての考察、ラウールの法則についてその原理の描図を含めた説明、実在溶液の溶解エンタルピーの値の判定(記号選択)とその根拠について、論述問題が計3題(字数制限なし)、質量モル濃度を文字式で求める問題が1題、蒸気圧降下度が質量モル濃度に比例することを数式で示す問題が1題で構成されている。理想気体と実在気体のテーマは一昨年に出題されているが、本問はラウールの法則に対してずれが生じる理想溶液と実在溶液についてのテーマであり、初見の受験生も多かったのではないか。質量モル濃度の文字式以外は数式関連も数値計算もやや煩雑となり、得点しやすい問題とはいえない。論述問題は分子間相互作用による物質の安定化と実在溶液が理想溶液から正のずれを起こす理由に関して理解できているかが鍵になる。ラウールの法則は教科書の発展事項として記載があるレベルで、他大学でも出題率が上がっているので蒸気圧降下・沸点上昇のテーマと関連付けておさえておきたい。
総評
本年度は本大学の典型的な理論・無機・有機の大問3題の構成ではなく、理論2題・有機1題の構成であった。無機化学が出題されなかった点に大きな変化が見られた。また、多くの受験生にとって大問3は初見要素が多く、解きにくいと感じたであろう。論述問題の割合と計算問題の傾向に大きな変化はないが、昨年度と比べるとやや難化した印象である。字数制限無しの論述問題と文字式で答えさせる計算問題が目立ち、数値計算を含む計算問題はヘスの法則のエンタルピー計算1題のみであった。理論2題についてはどちらも現象に対する本質的な理解が出来ていないとスムーズに対応できないレベルの論述の出題が多かった。有機1題については、構造決定は難問ではないが、アミノ酸の知識も含めた有機化学の反応の総合的な知識がしっかりしていないと、混乱しやすい問題であった。求核アシル置換反応の反応機構や共鳴のルイス構造式など、高校レベルを超えた内容については背景知識があれば圧倒的に有利になる。これらを踏まえて本学の入試問題で安定して合格ラインの7割を得点できる力を養うためには、自分の言葉で説明できるまでの基礎事項の本質的理解は勿論のこと、教科書レベルを超えた内容の学習も必要になってくる。来年度に向けては本年度出題されなかった無機化学についても抜けのないよう、多くの問題に触れておきたい。昨年度も推奨したが、初見問題に対応する思考力という観点から記述・論述・描図の出題や思考力を要する問題が多い国公立の上位校の過去問で演習を積み、問題に含まれる学習事項を深く掘り下げて理解しておくのが良い。特に出題割合の多い論述問題対策として、採点者側の立場に立ったポイント採点を意識した記述解答のトレーニングは必要不可欠である。

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