
医学部入試問題分析

東京科学大学 【2025年度 化学】
基本情報試験時間:2科目120分/問題数:大問3題
分析担当菅 圭太
分析担当菅 圭太
出題内容・難易度
大問 | 出題内容 | 出題形式 | 難易度 |
1 | 【無機・有機・理論】ハロゲン、ハロゲン化合物の結晶、有機フッ素化合物 | 選択・記述・論述・計算 | やや易 |
2 | 【無機・理論】金属結晶、合金、電解精錬、溶解度積 | 選択・記述・論述・計算 | 標準 |
3 | 【有機・理論】糖類とその構造・性質、五炭糖の構造・反応および定量 | 選択・記述・論述・計算 | 標準 |
問題分析
- フッ素化合物の性質や有機フッ素化合物の構造を問う出題であった。大問すべてがフッ素に焦点を当てた問題であり、聞き慣れない物質名も基本的な命名法を習得している受験生にとっては、大きな障壁にはならなかったであろう。フッ化水素の製法や性質およびフッ化ナトリウムの結晶構造は、基本的な内容であるが正確な理解が求められた。ポリテトラフルオロエチレンやペルフルオロヘキサンなどは、エチレンやヘキサンなどの簡単な物質に置き換えることにより比較的容易に正答できたと考える。計算問題はイオン結晶の充填率や高分子化合物の平均分子量が出題されたが、典型問題であったため確実に正答したい。異性体に関する問も複雑な思考力は要しなかったので、慎重に数え上げていけば正答できたと考える。以上、大問1は完答したい難易度であった。
- 11族元素の性質、電解精錬、合金の知識および溶解度積からの出題であった。金属の結晶構造や特性に関しては基本的な内容であったが、金・銀・銅が面心立方格子の結晶構造をとることを知らない受験生も少数いたかと思われる。また、王水の成分についてもあやふやな記憶ではなく確実な知識が求められた。計算問題は銅の電解精錬、塩化銀の溶解度積の典型問題であり、基本に忠実に解いてほしい内容であった。アルデヒドの還元性を検出する銀鏡反応やフェーリング反応については、本問では反応試薬こそ問われていなかったものの、自身で説明できるようにしておきたい。アセトアルデヒドの銀鏡反応の反応式は正答の可否が大きく分かれたと考えられる。大問2に関しては総じて正確な知識が要求された問題であった。
- 糖の構造・性質、滴定による五炭糖の定量に関する出題であった。フルクトースの5種類の構造、多糖の枝分かれの結合は正確な知識が求められた。還元糖を選択する問題ではトレハロースが選択肢にあり、近年頻出である。キシリトールの構造式は書けたものの、鏡像異性体の存在の有無に関しては正答率がやや低かったと予想される。ヒドロキシアバタイトの組成式は知らない受験生も多かったであろうが、イオンの価数から容易に判断できたと考える。過ヨウ素酸酸化を利用したキシリトールの定量は、反応式の係数決定に戸惑った受験生も少なくなかったのではと考えるが、酸化開裂の反応式の誘導にのれたか否かが鍵を握る内容であった。チオ硫酸ナトリウム溶液の滴定によるキシリトールの定量は、量的関係を把握することが全てであり、理解できれば計算自体は比較的平易な内容であった。大問3は得点差がついたことが予想される。
総評
本年度は、計算問題および記述問題の分量ともに昨年度と大きな変化はなく、無機化学分野からの出題がやや増えたが、難易度は全体的には昨年並だった。大問ごとの出題形式もバランスよく配分されていた。問題のリード文には、やや難解な表現・用語も含まれていたが、問題を解く上では大きな影響はなかったと言える。大問ごとに正答率がやや低いと予想される問題が含まれていた。特に大問3のキシリトールの構造・反応式および定量の部分で差がつきやすいであろう。全体的に思考力を要する問題が多くなかったため、時間的な余裕は持てたと考える。いずれにしろ、本学受験生のレベルを考えるとミスは許されず、基本的な知識問題についても確実に得点することが要求され、取りこぼしが許されない厳しい戦いとなったことは容易に予想できる。
来年度に向けた学習方針としては、問題のリード文に与えられているヒントを如何に活用できるかが鍵を握る。特に見慣れない反応式は、その場で反応機構を理解する力が要求される。化学用語は表面上の知識では通用しない場面もあるので、理解を深めておく必要がある。論述問題に関しては、キーワードを含めて簡潔に表現することの練習を積み重ねておきたい。また、出題のレベル感に慣れること、そのレベルに到達するためには、難関国公立・私立大学の入試問題を解くことも有効な練習法の一つと考える。本年度は大学名が改名された初年度の入試であったため、予想通り大きな傾向の変化は見られなかった。しかしながら、来年度は2年目となるので出題傾向が変わることもありうるので留意しておきたい。

オススメ記事
記事一覧
お近くのTOMASを見学してみませんか?
マンツーマン授業のようすや教室の雰囲気を見学してみませんか?
校舎見学はいつでも大歓迎。お近くの校舎をお気軽にのぞいてみてくださいね。