横浜市立大学
基本情報
試験時間:2科目180分/問題数:大問3題
試験時間:2科目180分/問題数:大問3題
分析担当
戸来 又四郎
戸来 又四郎
出題内容・難易度
大問 | 出題内容 | 出題形式 | 難易度 |
---|---|---|---|
1 |
【理論・無機】 ハーバー・ボッシュ法と化学平衡(ルシャトリエの原理) |
記述・論述・ 計算 |
やや易 |
2 |
【有機】 炭素・水素・酸素・窒素からなる芳香族化合物の構造推定 |
記述・論述・ 計算 |
標準 |
3 |
【理論・無機】 マンガンとクロムの性質・化学的酸素要求量(COD) |
記述・論述・ 計算 |
標準 |
問題分析
- ハーバー・ボッシュ法におけるアンモニアの生成率に関する考察問題。初見であった受験生はほぼ皆無と思われる典型的な内容で、平衡定数の基本的な計算とルシャトリエの原理についての本質的な理解があれば、容易に7~8割は得点できる構成である。ただし、本問には本大学特有の字数が多い記述・論述問題として200字程度の説明が2題、150字程度の説明が1題、100字程度の説明が1題と、多く含まれており、採点基準を考慮した十分な対策が出来ているかが鍵である。さらに、異なる温度条件において算出したそれぞれの平衡定数の値の比較から、反応温度の高低を考察・説明する問題も出題され、平衡定数の温度依存性についての理解が問われている。その他、硝酸イオンの電子式や不均一触媒のメカニズムなど、やや高度な知識が問われているが、教科書に記載されているレベルなので、日頃いかに一つ一つの学習事項を丁寧に学習していたかで差がついたと思われる。
- 分子量405の含窒素芳香族エステルの構造決定問題。近年、同様に分子量が大きい有機化合物を題材とした、やや難解な構造決定の問題が目立っている状況であるが、本問は初見的な内容を含まず、けん化、アセチル化、臭素化、ヨードホルム反応、過マンガン酸カリウムによる酸化など、基礎的な学習事項から構成されている。構造決定の根拠として、できるだけ詳しい文章による説明が求められているが、これらの基礎事項について本質的な理解がある受験生は、時間をかければ確実に得点できる内容といえる。その中でも分子量が既知の場合の分子式の計算、アセチル化やニトロ化による分子量変化、分子量が奇数であるとき窒素原子を奇数個含むという見通しなどがあれば解きやすく、普段、質の高い有機化学の問題演習が出来ている受験生が有利になる良問といえよう。さらに配向性の知識があれば四置換ベンゼンの化合物が生成する過程について、確信を持って解き進めることができる。最後のp-ニトロフェノールの合成法についてもフェノールの製法とヒドロキシ基のオルトパラ配向性、混酸によるニトロ化についての教科書レベルの知識がしっかりしていれば、試薬および反応式について順序立てて記述することは可能であろう。
- マンガンとクロムの性質に関する知識問題と化学的酸素要求量(COD)の過マンガン酸法と二クロム酸法の計算問題を併せた理論無機融合問題。CODの計算に関しては空試験(ブランクテスト)のデータがあるタイプの問題であるが、受験層を考えると本問も初見であった受験生は多くはなかったと思われる。空試験を行う意味も含めて、本質的な理解がしっかりしている受験生は多くの定量的なデータに惑わされず、シンプルな立式で計算量を減らすことが可能である。多くの医学部志望・難関大志望の受験生が使用する、難易度が高めの市販の問題集にも同テーマの出題が掲載されており、一度触れたことがあるかどうかで大きく差がついたであろう。無機の知識問題に関しては、7族マンガンと17族塩素、6族クロムと16族硫黄およびそれらのオキソ酸(過マンガン酸と過塩素酸、クロム酸と硫酸)を対比させれば、電子配置および立体構造を推定できる。無機化学も普段の学習の質が大切である。
総評
本年度は、本大学の典型的な理論・無機・有機の大問3題の構成ではなかったが、理論無機融合2題・有機1題の構成であり、全体としての問題量および理論・無機・有機の占める割合は昨年度と比較して大きな変化は無かった。全受験生が初見と感じるような問題・難問は出題されず、相変わらず論述量は重かったが計算量は重くなく、普段の地道な努力が報われる構成だった。昨年度と比べてかなり易化した印象である。理論無機融合2題についてはどの問題集にも記載があるくらい頻出のテーマであり、有機1題についても難問ではなく、医学部志望レベルの受験生用の問題集を1冊きちんとやり込めていれば、対応できるレベルである。結論として、近年の傾向も加味すると横浜市立大学で要求される学力は、理論化学の計算問題に対応する煩雑な計算力よりも記述・論述問題、特に自分の言葉で説明できるまでの基礎事項の本質的理解と、本年は出題が無かったが、初見問題に対応する思考力である。次年度への対策としては東京大学、東京医科歯科大学など、記述・論述・描図の出題や思考力を要する問題が多い国立の上位校の過去問で演習を積むことを推奨したい。字数の多い記述・論述問題への対策は、字数や解答欄の大きさの基本ルールから、採点者側の立場に立ったポイント採点を意識して記述解答するトレーニングを十分に積んでおきたい。有機化学はペプチド配列も含めて構造決定問題が出題されるので、多くの問題に触れておきたい。