試験時間:90分/問題数:3題
小出 信夫
出題内容・難易度
大問 | 出題内容 | 出題形式 | 難易度 |
---|---|---|---|
1 | 読解(5問): 「利他主義の生物学的・文化的要因」(約850語) |
記述式 | やや難 |
2 | 読解(5問): 「他者と世界を共有する意味」(約750語) |
記述式 | やや難 |
3 | 読解(6問): 「視覚的思考の重要性」(約900語) |
記述式 | やや難 |
問題分析
- 下線部和訳1問、下線部説明3問、本文中の文の抜き出し1問の計5問で構成されている。配点は130点(32.5%)ほどであろう。幼児期の自制心と将来の社会的成果との関係性を示す「マシュマロ・テスト」を、「利己的」ではなく「利他的」行動の観点で説いている。マシュマロ・テストは防衛医科(2020, 2019)、新潟(2000[前期])などで、また幼児の利他的行動は産業医科(2013)でテーマとなっている。本稿では、他者への配慮という利他的行動は社会的に陶冶される獲得形質ではなく、生得的なものであることを、食べ物を共有するという自己犠牲的な行動分析によって実証している。
- 選択1問、下線部説明2問(日本語1問、英語[30~50語]1問)、下線部英訳1問、本文中の語句の抜き出し1問の計5問で構成されている。配点は130点(32.5%)ほどであろう。『いかなる世界を我々は生きているのか―パンデミックの現象学』という本から引用された論稿に基づくもので、COVID-19パンデミックを切掛として、政治・経済・生態系などあらゆる問題について世界のあり方を再検討しようとするものである。なお、筆者のJudith Butlerの議論は、岐阜(2020[前期])でも扱われている。
- 本文中の語の抜き出し1問、下線部説明3問、下線部和訳1問、下線部英訳1問の計6問で構成されている。配点は140点(35%)ほどであろう。自らが自閉症である動物学者Temple Grandinが、言語的思考を重視する現代社会の欠陥を指摘し、自閉症者特有の視覚的思考の重要性を説いたThe New York Timesへの寄稿から出題している。Grandinの思考の独自性は、北海道(2013[前期])、福島県立医科(2006[前期])が参考になる。それにしても、「世界はあらゆる脳を必要としている」(『自閉症の脳を読み解く』)というGrandinの主張は、われわれ「健常者」の視野の狭さを鋭く指摘している。この観点は、脳科学や精神医学に関わるもので、将来当該分野を専攻しようとする受験生の問題意識を触発するものでもある。
総評
全体的な傾向は例年と同じで、全て読解問題である。英文の典拠は、一題は単行本、二題は新聞記事である。本学は新聞・雑誌記事からの引用が多く、これまでもThe New York TimesやThe Washington Postなどから採用されている。なお、本年度では、医系分野は「自閉症者の思考様式の独自性」であった。過年度では、「AIを用いた手術用ロボット」(2022)、「感染症の原因」(2020)、「ドローンによる医薬品配達」(2019)、「遺伝子治療」(2018)、「虚偽記憶症候群」(2017)、「手術中の意識の覚醒」(2016)、「遺伝子検査」(2015)、「海藻を消化する腸内細菌」(2014)、「ヨーロッパにおけるマラリアの懸念」(2012)などが出題された。英文の語数や設問の難易度は昨年度とさほど変わらない。設問は全体の論旨に関わりながら、細かい論点を拾って考えさせることを主眼として作成されている。その構成も説明問題を中心として、和訳や英訳問題が適宜織り交ぜられ、バランスが取れたものになっている。なお、英文は語注が多いが、それに頼らずに全体としての論旨を素早く読み取る習慣をつけることが必要である。また、毎年の設問構成が似ているので、過去問を解き慣れておくことが重要である。難易度と制限時間は国公立大の問題としては標準的である。しかし、合計点が400点で、一問当たりの配点が高いので、解答を詳細に検討することが必要である。特に記述問題は一義的な解答例はないので、各人の解答が具体的に検討されなければならない。以上の理由から、本学合格の鍵は、記述型解答の添削という点に集約される。その際、解答例を根拠に自己判断せずに、講師に説明を受けながら、内容だけではなく書き方に至るまで細かく指導を受けることが望ましい。個別指導の強みはこの点において遺憾なく発揮されることは言うまでもない。