横浜市立大学
基本情報
試験時間:90分/問題数:大問3題
分析担当
小出 信夫

出題内容・難易度

大問 出題内容 出題形式 難易度
1 読解(6問):
「ファンタジーとSF」(約450語)
記述式 標準
2 読解(5問):
「風刺漫画に表れる
人種差別的言辞」(約700語)
記述式 標準
3 読解(6問):
「家畜化による
遺伝子構成の変化」(約750語)
記述式 やや難

問題分析

  1. 内容説明4問(全て自由記述式), 下線部和訳1問, 下線部英訳1問の計6問で構成されている。配点は130点(32.5%)ほどであろう。ファンタジーとSFとの同質性と異質性とを「思弁小説(speculative fiction)」をキーワードとして論じている。昨年度との異同は, 先ず問題構成としては, 昨年度が全て下線部英文の説明問題であったのと比べると, 設問形式がより多様化している。また内容的には, 昨年度が「西洋文学と多文化主義との関係」であったのと同様に文学論である。本学は, この様に文学に関する論稿が出される傾向がある。実際, 2018年度にも「イングランド銀行に関わりのある作家たち」というテーマの文が出されている。
  2. 下線部説明4問(全て自由記述式), 下線部英訳1問の計5問で構成されている。配点は130点(32.5%)ほどであろう。出典はHuffpost。本学では初めて風刺漫画が引用された。Serena WilliamsがNaomi Osakaとの試合で, 主審の判定に怒ってラケットを壊している場面を, Osakaを白人に擬して対比的に描いたものである。人種的偏見を類型化したメディアの報道が, 黒人差別を助長するだけでなく, Osakaの日本人としてのidentityを損なっていることを説いている。それはともかく, 設問構成は和訳問題がなくなったことを除けば, 昨年度とほぼ同じで, 下線部説明問題が中心となっている。
  3. 下線部説明5問(本文中からの引用2問, 自由記述式3問), 下線部和訳1問の計6問で構成されている。配点は140点(35%)ほどであろう。出典はNational Geographic。キツネの「家畜化」を例として, 野生動物がヒトに懐く様に遺伝子構成を変えることが論じられている。今年度はこれと同様な内容の英文が東京医科歯科大でも出された。なお, 設問構成は英訳問題がなくなったことを除けば, 昨年度とほぼ同じで, 下線部説明問題が中心となっている。

総評

 全体的な出題傾向は例年と同じで, 全て読解問題である。英文の典拠は, 一題は単行本, 他の二題は雑誌記事である。雑誌記事からの引用が多いのは過年度も同じで,The Washington Post, The Financial Times, The New York Timesなどから採用されている。とは言え, 過年度と違って医療系に関する問題が一題も出題されなかったことは本年度の大きな特徴である。これまでは, 「感染症の原因」(2020), 「ドローンによる医薬品配達」(2019), 「遺伝子治療」(2018), 「虚偽記憶症候群」(2017), 「手術中の意識の覚醒」(2016), 「遺伝子検査」(2015), 「海藻を消化する腸内細菌」(2014), 「ヨーロッパにおけるマラリアの懸念」(2012)など, 医療系に関わる問題が通例一題は入っていた。その意味で, 今年度は例外であろう。もっとも, 出題形式には大きな違いはない。設問は全体の論旨に関わりながら, 細かい論点を拾って考えさせることを主眼として作成されている。問題構成も説明問題を中心として, 和訳, 英訳問題が適宜織り交ぜられている。なお, 本学の英文は語注が多いのが特徴的であるが, それにいちいち頼ることなく全体としての論旨を素早く読み取る習慣をつけることが必要である。また, 毎年の設問構成が似ているので, 過去問を解き慣れておくことも必要である。難易度と制限時間は国公立大医学部の問題としては標準的である。しかし, 合計点が400点で, 一問当たりの配点が高いので, ケアレスミスには気を付けたい。なお, 正規の最低合格ラインは70%ほどであろう。この様な理由から, 本学合格の鍵は, 1. 医療系英文に読み慣れていること, 2. 英文の論旨把握, 3. 記述型解答の添削指導, という三点に集約される。特に, 最後の添削指導は解答例を根拠に自己判断せずに, 担当講師に説明を受けながら, 内容だけではなく書き方に至るまで指導を受けることが望ましい。個別指導の強みはこの点において遺憾なく発揮されることは言うまでもない。