東京医科歯科大学
基本情報
試験時間:2教科120分/問題数:大問3題
分析担当
菅 圭太

出題内容・難易度

大問 出題内容 出題形式 難易度
1 【理論】
実在気体、ファンデルワールスの状態式
選択・記述・論述・計算 標準
2 【無機・理論】カルシウム化合物、熱化学方程式、エチレンジアミン四酢酸によるキレート滴定、溶解度積 記述・論述・計算 標準
3 【有機】炭化水素の構造、アゾ化合物、連結を用いた有機化合物の合成 選択・記述・論述 標準

問題分析

  1. 実在気体のファンデルワールスの状態式を扱った出題であった。比較的なじみがある分野だが、ファンデルワールス定数の意味合いまで深く理解している受験生は多くないであろう。また、大問1が全てこのテーマに即した内容であったため、得点に大きな差がつくと予想される。窒素酸化物である亜酸化窒素は聞き慣れなかったかもしれないが、麻酔剤として用いられることやファンデルワールス定数からも特定できたであろう。キセノンの電子配置は知らなくとも原子番号から導き出すことは容易であり、貴ガスのファンデルワールス定数も大きな参考となったはずである。いずれにしても、ファンデルワールス定数についての認識があった受験生にはかなり有利にはたらいたと考えられる。
  2. カルシウム化合物である「さらし粉」・「高度さらし粉」、「セッコウ」・「焼きセッコウ」の性質から熱化学、カルシウムイオン濃度を測定するキレート滴定、溶解度積にまで発展させた出題であった。キレート滴定は解き慣れていない受験生もいたであろうが、誘導にのっていけば解けない内容でないことに気づくであろう。知識の問題では「高度さらし粉」の化学式を問われる問があったが、さらし粉から塩化カルシウム成分を除くなどの記載からも導き出すことは可能であった。大問2は、標準的な出題内容であったため、完答に近い状態が好ましいと考える。
  3. 炭化水素、アゾ化合物、クリックケミストリー手法による有機化合物の連結合成からの出題であった。炭化水素の基本的な構造やジアゾ化に関する問は典型的で比較的平易であり、取りこぼしは許されないと考える。また、有機化合物どうしを連結させる手法としてクリックケミストリーの反応が取り上げられていて、受験生としては聞き慣れなかったかもしれないが、丁寧な誘導があり、かつ問われている内容も好意的であったため、身構えたほどではなかったと考える。また、近年ノーベル化学賞を受賞している内容であることから、本学受験生のレベルを考えると周知していた受験生も一定数いたのではと推察される。

総評

 本年度は、計算問題および記述問題の分量ともに昨年度と大きな変化はなく、難易度はやや易化した。その分、取りこぼしが許されず、ある程度の高得点争いは必至であろう。例年、計算問題の分量や記述問題の分量が多く、かつ文章読解が難解で時間がかかる本学であるが、本年度は昨年度と比べてやや与しやすかったと考える。どの大問も標準的なレベルの出題であった。大問3は、難しい構造決定を覚悟した受験生も少なからずいたであろうが、結果的に最も得点しやすかったのではと考える。例年、時間内に全ての問題に手を出すことは困難であるが、本年度は問題を解く順序に悩まされることもなかったであろう。しかしながら、確固たる基礎学力は持ち合わせていること、知識についても知っているだけでは対応できず、一定レベル以上の深さは必要である。
 来年度に向けた学習方針としては、例年と同様ではあるが文章読解力をいかにつけていくかである。特に生化学的な内容を含む問題や複雑な有機化学反応の理解を含む問題には慣れておく必要がある。化学用語の定義や物質の化学式・性質・反応を体系化して把握できていること、自身の言葉で説明できること、文章として表現できることの練習は積み重ねていきたい。また、出題のレベル感に慣れること、またそのレベルに到達するためには、東京大学・京都大学・慶應義塾大学・東京慈恵会医科大学などの入試問題を解くことも有効な練習法の一つと考えられる。