東京医科歯科大学
基本情報
試験時間:理科2科目合わせて120分/問題数:大問3題
分析担当
鍛治 彰均

出題内容・難易度

大問 出題内容 出題形式 難易度
1 細胞構造とタンパク質
(タンパク質の機能、細胞接着、バイオテクノロジー)
選択型、記述、
論述
標準
2 動物の恒常性
(皮膚の機能、体温調節、自然免疫、バイオテクノロジー)
記述、論述 標準
3 動物の進化・系統
(免疫、卵割の様式、視覚、神経系、系統樹)
図示、記述、
論述
標準

問題分析

  1. 前半はタンパク質の構造と機能に関する知識問題で、どの問題集にも収録されているような典型題であり確実に得点したい。後半はカドヘリン遺伝子をヒト白血球由来の細胞株に導入する考察記述が占め、差がつきやすい問題群である。遺伝子導入についてのバイオテクノロジーの理解と免疫についての理解が必要である。白血球は細胞接着しておらずカドヘリンの発現がしていない事に気が付けば記述するべき論点を把握できている。
  2. 分泌腺や体温調節についての基礎的な問題がある一方で、iPS細胞作製に必要な4つの遺伝子の作用を問う出題やカバの体表の粘液の役割を吸光度のグラフを参照して説明する問題など、深い理解に基づく知識や生物だけでなく広範な科学の素養に根差した思考が必要である。グラフの吸光度のピークは紫外線の波長であり、粘液に含まれる物質が有害な紫外線を吸収している事を見抜ければよい。
  3. 発生分野の描図問題は教科書レベルであり、神経や進化、化石の問題も無理のない知識問題であるので取りこぼせない。オマキザルの視覚をオプシン遺伝子の染色体座位から思考し説明する問題で差がついたと思われる。メスはX染色体を2本持つのでホモ接合とヘテロ接合の場合がある事から表現型に差異が生じる事を指摘し記述できればよい。

総評

 出題内容は例年通り、動物生理と進化系統に軸足を置き、各大問の中で複数分野の内容を問う構成であった。出題形式も例年通り、本格的な論述説明が大部分を占め、描図と実験デザインの要求やグラフを与えての推測など傾向に変化はなかった。本学の生物の特徴として、私立医大にみられるような異常に細かい知識問題と紛らわし過ぎる選択肢問題はほぼ無い事と、実験考察問題が同レベルの大学(例えば旧帝大)と比較してかなり少ない事が挙げられる(全く無いわけではないので注意)。実際、2021年度の出題では計30個の解答要求に対し、実に24個が知識問題(定義、理由、絵図の知識)である。これらの知識論述問題を取りこぼさない事が不可欠である。教科書・資料集の記述や絵図を精度高く記憶し、速くかつ的確にoutputする訓練を繰り返したい。出題傾向の類似している京都府立医科大学や滋賀医科大学の過去問も演習し、知識記述まとめノートを作成し知識をプールする事を勧める。他の受験生に差をつけるには、前述した知識論述力の養成を大前提(知識問題での正解率は85%以上)とし、骨太な思考・考察記述と新奇探索傾向問題(本年では問題1 i)3)、問題2、問題1 c)、d)、問題2など)で得点できる能力の養成が必要である。対策としては、同レベルの大学の過去問を演習する中で、着目している生命現象の原理は何なのかを見抜く力、自分で仮説を立て、その内容を評価していく実証力を培う事が望まれる。 その際、友人や講師とdiscussionし「自己の理解の曖昧さの排除」「他者の視点の獲得」「論理的で的確な説明」を行えれば尚良い。その過程の中でsense of wonderが磨かれ、大いに興味を持って生物の学習が進められれば素晴らしいと考える。