東京医科歯科大学
基本情報
試験時間:理科2科目合わせて120分/問題数:大問3題
分析担当
曽川 潤

出題内容・難易度

大問 出題内容 出題形式 難易度
1 【理論・有機】
電子式・構造式、
自己解離、ベンゼンのニトロ化
記述・論述 やや難
2 【理論・無機】
遷移元素、鉄の製錬、めっき、
接触法、レドックスフロー電池
記述・論述 標準
3 【有機】滅菌・消毒に利用される
有機化合物、有機合成、構造決定
記述・選択・論述 標準

問題分析

  1. 「形式電荷」をテーマにした大問。高校化学の範囲外である形式電荷について説明文を読解し、電子式・構造式や自己解離、ベンゼンのニトロ化に関する設問に答える総合問題であった。説明文は丁寧であるものの、受験生は予備知識がないため、読解に時間を必要としたであろう。また、問3~6では化合物・イオン中の原子の形式電荷を確認し表記することが求められ、処理力も問われた。昨年度と比較してやや難しかったと言える。他の大問が標準的であったので、大問1を一旦保留し最後に時間を掛けて取り組むといった工夫をしても良かっただろう。
  2. 無機分野の基礎事項を主に、電池についても問われた。無機分野では触媒など基本的な知識事項が問われ、また論述問題も典型問題であり、基礎から標準レベルであった。一方で、電池についてはレドックスフロー電池という初見の電池が問われ、計算問題は標準的だったが、論述問題がやや難しかった。具体的には、問5での「レドックスフロー電池の鉛蓄電池に対する利点」では考える手掛かりが図2-1と問7の問題文くらいであり、類推での解答をするしかなかった。その為、問5以外の基礎・標準問題を取り切れるかが勝負であった。
  3. 有機分野より基礎知識と思考問題がバランス良く出題された。難易度は標準であった。問1、2のエチレンオキサイドは受験生にとって見慣れない化合物であるが、条件整理を正確にすれば解答できる。問3のトリハロメタン類では、結合するハロゲン原子の種類・個数が異なると化合物の分子式が異なるため、問題文の「構造異性体」という表現に困惑した受験生もいたであろう。題意を汲み取って解答する必要があった。問6ではトルエンからのp-クレゾール合成における副反応が問われたが、クメン法と同様の反応経路であることから中間体の構造を予想できるかがポイントであった。日頃の学習で、有機合成での反応物と生成物を暗記するだけではなく、中間体の構造および反応機構の概略も整理しておくことが求められた。小問の難易度を考えると、落とせない大問であった。

総評

 本年度は、計算問題が昨年度の10問から4問に減り、50字以内など文字数指定の記述問題も昨年度の4問から2問に減ったものの、穴埋めや文字数指定のない記述が増え、全体の分量は昨年度と同程度であった。また、高校化学の範囲外である形式電荷に関する文章読解や初見のレドックスフロー電池の考察など、受験生にとって馴染みのない概念や装置などをテーマにした問題が近年の傾向を踏襲して出題され、全体の難易度も昨年度と同程度であった。
 来年度に向けた対策としては、本学の特徴である「初見テーマの文章読解」、「有機化合物の反応機構などの推定」、「複雑な理論計算」への対策が欠かせない。また、やや文字数の多い記述問題への対策も必須である。これらに対しては、本学の過去問の演習だけでなく、難関私立医学部である慶應義塾大学医学部・東京慈恵会医科大学・日本医科大学の過去問の演習も有用である。一方で、思考問題を解くには相応の基礎力が求められるため、今後の学習では基礎トレーニングも忘れないで欲しい。