東京慈恵会医科大学
基本情報
試験時間:2科目120分/問題数:大問2題
試験時間:2科目120分/問題数:大問2題
分析担当
中村 達郎
中村 達郎
出題内容・難易度
大問 | 出題内容 | 出題形式 | 難易度 |
---|---|---|---|
1 | 力学(角運動量) | 記述式 | 標準~難 |
2 | 電磁気(電場・磁場中における荷電粒子の運動、電場と磁場の関係性) | 記述式 | 標準~難 |
問題分析
- ケプラーの第2法則を取っ掛かりとして受験生になじみの薄い角運動量を扱っている。2020年の東大入試でも扱っているテーマ。手厚く誘導しているが、慣れない言葉が多く戸惑った受験生も多いだろう。問1は文中にある角運動量の定義に忠実に従って進むこと。α、βを正確に作図できれば容易。問2は微小量変化の扱い。また力と位置の2つのベクトルが平行であること(中心力という)を記述しなければならない。問3は円運動であるから(β-α)が90°と気づければよい。問4はお馴染みの運動エネルギーを、定義されたJを用いて表すだけ。問5は回転する電荷が光子を放出する現象を扱っている。(ア)は公式への代入、(イ)は微小変化の扱い、(ウ)はエネルギー保存則の適用。こう書いてくると簡単なように見えるが、実際にはとても難度が高かったと思う。というのも「光子放出による角運動量変化⊿J」「全角運動量Jが保存されるならば」などの誘導文を論理的に読みこなすことはほぼ無理と思えるからだ。「多分こうだろう」で流れに乗れたかどうかで大きく点差がついたと思われる。
- 静止した観測者と運動する観測者では電場・磁場の現れが異なるという興味深いテーマを扱っている。こちらは2020年の東工大入試に類題がある。Ⅰは誘導起電力をローレンツ力の観点とファラデー電磁誘導の観点、2通りで説明させる問題。磁場中を動く導体棒に発生する起電力の説明として受験生にも馴染があるはず。普段の勉強で導出を意識していればそこまで難しくない。Ⅱ問1は正負のミスがないようにしっかりと図示して答えよう。問2は円運動するためにはどのような力が働いていないといけないのか、を考察できたか。電場からの力が一定方向に働いていては円運動できない。つまりこの観測者にとって電場はないということになる。一度もこの手の問題を解いていないという人には敷居が高かったかもしれない。問3、これも正負に気を付けよう。問4は速度の合成。難しくないが問3で正負を間違えていると、ここでも失点する。Ⅲは電場、磁場が同じものの異なる現われだということが書けていればよい。Ⅳは「総磁気量」という言葉が意味することを理解できたか。「ガウスの法則」という誘導から、磁束線は電気力線と異なり出ていった分戻ってくる、すなわちN極とS極は必ずペアで存在し、単独では存在できない。したがって総磁気量は0と展開すればよい。
総評
昨年に続く出題形式の変更。ただそれが気にならないくらい内容が濃かったのではないか。また、「物理の記述問題に関する注意」というものがあり、「物理の記述問題では、記述内容の深さや脈絡の豊かさに加えて、それを筋道立てて他者に伝える姿勢を重視する」と記されている。受験生には相当なプレッシャー。普段から丁寧かつ簡潔な記述を心がけておきたい。内容としては、昨年は相対論、本年は角運動量、電場と磁場の関係とやや高校物理の枠をはみ出した。物理学の面白さを伝えたいものと思われ、他の私大医学部入試と全く性格が異なる。むしろ上にあげたように物理学科を擁する国立難関大学、東大、京大、東工大などの入試問題に近い。本学を第一志望とする者にはこれらの大学の過去問(とくに東大)を解いておくことを強く勧める。また、教科書で解説されている公式の導出過程は必ず手を動かして再現できるようにしておくこと。さらに問題を解くだけでなく、別の考え方はないか、観測者の位置を変えたらどうなる、など多角的に現象を捉え物理学を面白がりながら勉強できればいうことはない。健闘を祈る!