昭和大学
基本情報
試験時間:2科目140分/問題数:大問4題
試験時間:2科目140分/問題数:大問4題
分析担当
戸来 又四郎
戸来 又四郎
出題内容・難易度
大問 | 出題内容 | 出題形式 | 難易度 |
---|---|---|---|
1 | ベンゼン環を有するエステル化合物の推定 | 記述式 | 標準 |
2 | メタンの実験室的製法とアルケンの酸化反応 | 記述式 | 標準 |
3 | ダニエル電池を電源とした並列回路の電気分解 | 記述式 | やや易 |
4 | 小問集合(気相平衡、二段階滴定、湿度、凝固点降下、混合気体の燃焼) | 記述式 | やや易 |
問題分析
- ベンゼン環を含む分子式C8H8O2およびC9H10O2のエステル化合物に関する総合問題。分子式C8H8O2に関しては構成カルボン酸と構成アルコールの炭素数の和を考えて手早く構造異性体を数えることのできる受験生が有利になる。C9H10O2のエステル化合物については全体像の把握が大変になるが、C8H8O2の構造異性体であるギ酸ベンジルにメチル基をつけた構造が不斉炭素原子を持つことを見抜けると速く解答できる。定性反応の知識については非常に基本的なことが問われているが、例を参考にしての記述であったり0の解答が複数回出現したりで戸惑う受験生も多いことであろう。近年ではコロナ禍以降に芳香族エステル関連の大問が2題出題されており、このテーマの出題率の高さが目立つのでエステル合成の実験操作なども含めて周辺知識を固めておきたい。
- 前半はアルカンに関する問題、後半はアルケンに関する問題。メタンの実験室的製法の知識が抜けていて、Xが水酸化ナトリウムであることがわからないと大幅失点となってしまうので必須知識の抜けには注意したい。アルカン・アルケンともに異性体を数える問題が出題され、特にシス-トランス異性体を持たない化合物の数え上げの問題は炭素数6のアルケンの構造異性体数が多いため、幾何異性体の有無の見極めも含めて時間を要する問題である。アルカン、アルケンともに計算問題も出題されているが、アルカンの計算問題は基礎的な問題なのでしっかり得点したい。アルケンの計算問題は過マンガン酸カリウムを用いた酸化反応の生成物が2価のアルコールであり、初見問題的に感じる受験生も多いと思われるが、問題文の定量的な情報は教科書傍用問題集レベルである。適切に処理できればエチレンがエチレングリコールに変化する状況を把握できるが、反応式まで完成させられるかで差が付く。反応前後の有機化合物中の炭素の酸化数変化まで把握できるようになっておくことが望ましい。
- ダニエル電池を電源とした並列回路の電気分解。一見、状況が教科書傍用問題集レベルよりもやや複雑に映るが、電源のダニエル電池の電解液濃度の変化から流れた電子のモルを計算する過程以外は、電極反応式およびファラデーの電気分解の法則に基づいて定量的な情報を処理していく典型的な流れ。小数点以下第3位まで求めさせる計算問題も含むが、本問の計算は煩雑にはならない。電解槽の並列接続における電気量の関係をはじめ、電気化学の基礎理解がしっかりしていれば容易に完答できる問題。
- 例年通りの計算問題に関する小問集合。問1の気相平衡、問2の二段階滴定、問5の混合気体の燃焼反応については教科書傍用問題集レベルで確実に得点したいところである。問3の相対湿度と蒸気圧のデータから水の凝縮量を計算する問題、問4の水和物を水に溶かした溶液の凝固点降下に関する問題は、見慣れない問題であることに加えて本大学特有の割り切れずにやや煩雑となる計算を正確に処理する必要がある。問3は方針が直ぐに立つレベルであるが、問4は存在する水の総量から-2.00℃における液体の水の量を引く方針が立てられるかが鍵である。受験層のレベルも考慮すると完答が望ましいが、最低5題中4題は得点したい。
総評
ここ数年とは異なり、本大学特有のアミノ酸、糖、油脂などの天然高分子分野からの出題が無かったことが特徴的であり、コロナ禍以前のマニアックな生化学の知識が問われることもなかった。有機分野はコロナ禍以後に出題されている芳香族エステル関連の問題が1題、炭化水素に関する問題が1題と全体に占める割合は依然として大きく、異性体数を数える問題は今年も出題された。残りは理論化学から1題、小問集合1題という計4題の構成は過去4年と同じであったが、頻出の電離平衡、浸透圧が出題されなかったことは本学の過去問に真摯に取り組んだ多くの受験生にとって予想外だったであろう。問題が特徴的であり、その構成があまり変化しないことに加えて類題がよく出題される傾向を考慮して難問にも対策してきた受験生にとっては少し物足りない残念な内容であったともいえる。とはいえ、難問は出題されず、昨年と同程度の易しいレベルに落ち着いたので、基礎力のある学生が多い受験層を考えると高得点勝負になったことが予想される。来年度に向けては、有機分野を中心に異性体数の数え方など確固たる基礎力を養い、余裕があれば過去問の類題に対応できる力も養っておきたい。