杏林大学
基本情報
試験時間:2科目100分/問題数:大問4題
分析担当
鍛治 彰均

出題内容・難易度

大問 出題内容 出題形式 難易度
小問集合
(系統・分類、細胞周期、細胞、進化、植物生理)
マーク式
中問集合
(神経系、生産構造図、DNA計算)
マーク式&計算 標準
腎臓と尿、染色体と遺伝子
(尿中グルコース量のグラフ分析、遺伝子分析)
マーク式&計算 標準
PCR、免疫
(プライマーの決定、免疫の実験考察とグラフ分析)
マーク式 標準

問題分析

  1. 計9問からなる小問集合で、いずれもごく基礎的な知識問題で構成されており、全て正解したい。ただ、対策手薄になりやすい「系統・分類」「進化」の出題が例年より多く注意が必要である。
  2. 計9問からなる中規模問題集合で、典型題から構成されている。問1は脳の構造と機能からの出題で、単純な知識問題であるので全て正解したい。なお、⑷は大脳半球を繋ぐ神経繊維の束が通っている部位を問うているので⑧を選ばないよう注意したい。問2は植物の生産構造図からの出題で、問1同様、基礎レベルであるため全て正解したい。問3はDNAの数理計算問題で差がついたと思われる。タンパク質の分子量をアミノ酸の分子量で割る事でタンパク質を構成しているアミノ酸の個数が分かる→その3倍の数が指定していたmRNAの塩基数と分かる→⑴で算出したDNAの塩基数の90%の塩基数をmRNAの塩基数で割る、という1つ1つの段階の意味を理解しておこう。
  3. 計6問からなり、前半は血漿中のグルコースと尿中のグルコースの関係をグラフで分析する出題。グラフ分析の際の大原則は横軸と縦軸の把握に尽き、横軸の血漿中のグルコース濃度が増加すると縦軸のろ過・再吸収されたグルコース量がどのように変化するかを把握しよう。図1ではAがろ過されたグルコース量、Cが再吸収されたグルコース量と見抜けばその差であるA−Cが尿中に排出されるグルコース量と分かる。図2ではBがろ過されたグルコース量、Dが再吸収されたグルコース量であるから、その差であるB−Dが尿中に排出されるグルコース量と分かり、血漿中のグルコース濃度が200mg/100mlまではろ過されたグルコースの全量が再吸収されるので尿中に排出されるグルコース量は0であるが200mg/100ml以上では再吸収能を超えたグルコースが尿中へ排出されるため④のグラフが正しいと分かる。後半は特定の遺伝子座に存在するSNPの出現頻度から、その遺伝子座の染色体上での存在位置を探る出題。例えば、組み合わせ1と2を見ると、遺伝子座ⅠとⅡのSNPは同じ塩基で遺伝子座ⅢのSNPは異なる塩基である。ここでSNPの出現頻度を見ると、21%で同じであるから、遺伝子座ⅠとⅡは連鎖、遺伝子座Ⅲは別の染色体上に存在すると分かる。同様にして、組み合わせ3と4、5と6、7と8でも分析すると上記の例での考え方で正しい事がわかる。
  4. 計4問からなり、前半はPCRにおけるプライマー選択の典型問題。後半が免疫反応についての実験考察問題で、合否を決定しかねない差のつく問題である。実験2の結果のグラフにおいて、受容体αを阻害すると、タンパク質Sの効果としてインターロイキン6の放出が減少する事がわかる。この事から、タンパク質Sは受容体αで認識されると判断出来る。更に、受容体αと受容体βのどちらを阻害した場合も、タンパク質Nの効果としてインターロイキン6の放出が減少する事がわかる。この事から、タンパク質Nは受容体α、βの両方で認識されると判断出来る。実験3では結果のグラフ⑴〜⑷を読解しながら、曲線が示している量や、どんなワクチンを接種した結果のデータであるかを判断する問題になっている。結果の文章によると、抑制の効果は実験2でインターロイキン6の放出が多いワクチンほど大きいとあるので、タンパク質E、S、Nの順に抑制効果が高いとわかる。この順で抗体濃度、T細胞数が多いと考え、ウイルス量は少ないと判断できれば問4、5は対処しやすい。

総評

 本年度も大問4題で知識型問題と考察型問題がバランス良く配置され、基礎から標準レベルの問題中心の構成。定番の生命現象や実験に対する理解と知識が勝敗を左右しそうだ。前半の大問2題のような基礎的な出題への対応として、教科書や市販の参考書に出てくる生命現象、細胞、物質などの固有名詞の定義を厳密に記憶し、セミナーやエクセルなどの教科書傍用問題集で何度もアウトプットし、素早く正解できるよう訓練しておきたい。さらに杏林大学では毎年、教科書に掲載されている絵図やグラフやモデルなどが必ず出題されるので、日々の学習の中でこれらの絵図の理解と記憶の意識づけを持つ必要がある。また、後半の大問2題に見られるような実験考察系問題への対処としては、説明文の中で必ず「正常」「野生型」が定義されているので、こうした定義や設定を正しく把握すること。そして「異常」「変異型」「阻害」が引き起こす結果を「正常」と比較してその理由や機序を分析する訓練を豊富に積んでおきたい。また、実験結果の文章とグラフを往復しながら、「このグラフから何が言えるかな」と考察する経験も意識して学習を進めて欲しい。具体的な対策として、杏林大学の過去問はもちろんとして、北里大学や東京医科大学の過去問にある実験考察系問題の演習も有効と考える。その際、自分の理解や把握の曖昧さを排除する厳密性、仮説を立てる勇気と、その仮説を否定/肯定していくしなやかな論理能力を養っておきたい。