杏林大学
基本情報
試験時間:2科目100分/問題数:大問4題
分析担当
戸来 又四郎

出題内容・難易度

大問 出題内容 出題形式 難易度
小問集合(無機・有機) マーク式
小問集合(理論) マーク式 やや易
化学平衡 マーク式 やや易
イオン交換樹脂 マーク式

問題分析

  1. 無機3題、有機2題の計5題からなる知識問題中心の小問集合である。無機はハロゲン単体・ハロゲン化合物に関する知識、酸化物に関する知識、物質の保存方法に関する知識、有機はエステルの構造異性体数、合成高分子化合物の知識が問われている。知識問題に関しては昨年同様、教科書レベルであり、完答を目指して欲しい。問3のエステルの構造異性体と加水分解物の定性反応を数える問題は、要する時間も含めて差がつく問題であり、手早く数えられる受験生は試験全体の解答作業のリズムが良くなることだろう。エステルの構造異性体数については構成カルボン酸・アルコールが見える形で速く正確に数えられるように演習を積んでおきたい。
  2. 理論4題からなる計算問題・グラフ考察問題を含む小問集合。電気分解による金属の原子量決定、酸化還元反応の見極め、凝固点降下度の測定による分子量・分子式決定、PVグラフとVTグラフの対応のテーマが出題されている。いずれも教科書傍用問題集レベルの問題といえるが、典型問題ではなく、問題文・グラフから状況設定を正確に読み取る必要がある。特に問4のグラフ選択問題は定性的な判断のみならず、B→Cの定積加熱において絶対温度が何倍になっているかの定量的な判断が必要である。落ち着いて問題文をスムーズに典型問題レベルの情報に読み換えられる受験生は、4題とも取りこぼすことなく大きなアドバンテージが得られるのではないか。
  3. 化学平衡の計算問題3題とルシャトリエの原理1題の計4題から構成されている。平衡状態の状態方程式から解離度を求め、圧平衡定数を算出し、温度一定ならば圧平衡定数一定の立式で圧縮後の解離度を求める典型的な流れであるが、計算が割り切れないので、解離度を文字で置き、全圧、解離度、圧平衡定数の3者のシンプルな関係式による計算に持ち込めるかどうかでかかる時間に大きな差がつく。物質量の変化を文字で置いた受験生も多いと思われるが、計算がやや煩雑になるので注意したいところである。普段から教科書傍用問題集レベルの問題演習でも本番を想定して有効数字の計算も含めて正しい解法を選択する力を養えているかが鍵となる。
  4. イオン交換樹脂に関する知識問題6題と計算問題1題の計7題から構成されている。樹脂の構造や重合反応の種類、イオン交換能などの知識に加えて本大学頻出の2族の無機知識および石鹸と合成洗剤の違いの知識も併せて問われているが、いずれも基礎的な知識であり、教科書レベルで陽イオン交換樹脂を学習できている受験生はほぼ完答できるであろう。問7の実験器具を選択する問題は測りとる量が50mLとやや大きく、戸惑った受験生もいたかも知れないが、通常の滴定実験における実験操作と精度の理解があれば迷うことはない。計算問題も教科書傍用問題集の基礎レベルであり、差がつかなかったであろう。

総評

 本大学の化学はコロナ禍以降、易化の傾向にあるが、本年はさらにこの傾向が顕著になったと言っても過言ではなく、過去3年と同程度の平易な問題が中心であり、非常に得点しやすい試験であった。だが教科書レベルの学習事項ではあるが、大問Ⅱの問1、問3、問4のように教科書傍用問題集そっくりの典型問題ではないものも少なくなかった。例年通りグラフ問題も出題されており、これらの点は共通テストの傾向と類似しているが、共通テストのように問題文が長く、読みにくいものは含まれていない。受験生にとっては初見問題のように感じる問題を落ち着いて既習の学習事項に落とし込めるかが鍵になる。また、大問Ⅰの問3、大問Ⅲのように典型問題ではあるが、解法によって計算量も含めて要する時間がかなり異なる出題が目立った。2科目100分という時間設定の中で、典型問題をどれだけ時間をかけずに解くかという点も意識して普段の学習に取り組んでもらいたい。
 本年は難易度の高い問題は皆無であったが、解きやすい問題と解きにくい問題には差があったので、化学が苦手な受験生は平易な知識問題でしっかりと得点することを前提に、解きやすい大問Ⅳなどから着手すれば化学が得意な受験生とも大きな得点差はつかなかったのではないか。本年もかなりの高得点での勝負になったと予想されるが、それだけに1問を確実に正解すること、解ける問題を1題でも増やすことで順位が大幅に変動するので、受験生には解く順番も含めて落ち着いて対処して欲しい。
 次年度は新課程に移行するものの、傾向はほぼ変わらないことが想定されるので、本大学頻出の気体発生反応・イオン分析などの無機知識をはじめ、本年も出題された有機や高分子の知識を抜けがないように教科書傍用問題集レベルで幅広く確実に押さえることを最優先に対策していただきたい。尚、グラフ問題は毎年出題されるので、特に共通テスト受験予定者はグラフ問題の演習を多めに積むことを推奨する。特徴的なマーク形式なので、解く順番も考慮して時間を計る形で過去問演習を多くこなしておいた方が良い。高得点を目指す方は、教科書傍用問題集の演習においても、知識問題ならば知識を使えるレベルにあるか、計算問題ならば本番で通用する解法の質まで意識することが重要である。