慶應義塾大学
基本情報
試験時間:2科目120分/問題数:大問3題
分析担当
吉山 茂

出題内容・難易度

大問 出題内容 出題形式 難易度
代謝に関する問題 説明記述・グラフ描図
・計算問題
やや難
細胞についての問題 語句記述・説明記述
・考察記述
標準
Vf菌とイカの発光器についての問題 語句記述・説明記述
・考察記述
やや易

問題分析

  1.  アルデヒド分解酵素四量体の問題。分解速度や存在比から活性の割合を答える問題や顕性か潜性かを理由を含め問う問題など問題はバラエティに富んでいる。考察では「推論」を述べる問題やグラフの描図なども見られる。前日に行われた東京慈恵会医科大学でも同様にこの酵素についての問題が一部言及されていたが、より複雑になっている。ただ、教養的な部分はあまり問われず、「問題集的」な難しさを感じるものであった。
  2.  ダイニンに関わる核の大きさ制御についての実験考察を扱った問題。実験によって何を解明しようとしているのか、実験の設定の意図など生物研究の過程をそのまま問題にしたものになっている。そして、実験から導かれる作用機序も聞かれ、また、これらの結果から推察を行う問題も出題と、実験を最大限に使った問題構成になっている。
  3.  イカの発光器に共生するVf菌についての問題。慶應義塾大学らしい「細菌類」の問題であるが、今年はやや平易。それ故に大問Ⅲに持ってきたのかもしれない。「説明せよ」という問いかけがメインであるように実験の説明やグラフの読み取りなどが問われている。実験で抗生物質を扱う理由など実験そのものへの言及もある。それでも、考察する範囲は狭いので他の大問や例年に比べれば解き易い印象である。

総評

 大問が3題で記述問題が多く、実験をメインにした構成は例年と同様であるが、今年度は計算問題やグラフ描図なども出題されてバラエティ豊かな構成となった。国公立に比べてページ数が少ないことから新書的な教養をバックグラウンドに考察していく形式が多かった。今年は大問Ⅲこそがいつもの慶應らしい問題であったが、大問Ⅰが最難関レベルの問題集的、大問Ⅱが核の大きさ制御をテーマに実験をベースとした記述問題中心と、他の最難関の大学に近い印象を持った。先にも書いたようにページ数は少なく、実験はコンパクトに書かれているのでその分一つ一つの要素に対して「自分で補う」ことが必要であり、今回はその部分が問題として問われている。問題で聞かれる分野は常に総合的であり、大問のテーマとして扱われない植物・生態系・進化・系統についても語句挿入や説明記述では単発で出題されるので、医学部だから範囲は限定的、ということは全くない。
 今年度は慶應義塾大学全学部で「解き易さ」を指摘されており、医学部の生物も?と思いながら問題を見たが例年の難易度は保っており、特に大問Ⅰは前日に東京慈恵会医科大学で同じテーマを扱っていたにもかかわらず、「昨日みたから楽」とはならなかった。そういう意味でも大問Ⅰをどのように切り抜けたかで生物の出来は決定したものと思う。
 このレベルの大学を目指す場合には、問題集で論述を鍛える、ということはゴールではなく最低条件になってくる。まずは「理系標準問題集」(駿台文庫)などで国公立レベルの解法と知識を早急に習得することが必要である。その上で新書や科学雑誌などで生物の新しい知識に触れていくことが目標になってくる。さらに慶應義塾と言えば、の「菌類・細菌類」については一定の知識を備えていることが合格の近道になる。他の大学ではほとんど扱われない分野であるだけに過去問をスタートにしてネット検索、書籍や論文の検索と学習と知識を増やしていきたい。