慶應義塾大学
基本情報
試験時間:90分/問題数:3題
分析担当
小出 信夫

出題内容・難易度

大問 出題内容 出題形式 難易度
〔Ⅰ〕 読解(総合問題:13題) 選択式と
記述式
やや難
〔Ⅱ〕 読解(総合問題:10題) 選択式と
記述式
やや難
〔Ⅲ〕 英作文(課題型:1題) 記述式 やや難

問題分析

  1. 「飲料水汚染」について論文で、約1,200語。配点比率は40%ほどであろう。南米のウルグアイが干ばつによる水不足の影響で、塩分濃度が高く、発がん性物質も含まれる水を利用せざるを得ないために、腎不全や下痢などの身体疾患が多発していること、そして同様な問題が世界中で見られることを説いている。この問題は、国連ミレニアム開発目標の飲料水課題である「安全な飲料水の持続的利用」にかかわるもので、出題頻度は高い。実際に、医学部の過去問だけでも、同様なテーマの問題は、岐阜大2020(前期)、岡山大2015(前期)、山口大2007(前期)、琉球大2007(前期)、藤田医科大2021、聖マリアンナ医科大2012で出題されている。なお、設問は、選択式が内容一致1題(選択肢8個)、記述式が下線部和訳5題、下線部英訳2題、下線部説明3題(和文解答型2題[40字以内と60字以内]と英文解答型1題[語数指定なし])、単語の語形変化1題(4問)、動詞の空所補充1題(7問[語形変化型])で構成されている。例年より下線部和訳の問題数が多いのが特徴的である。
  2. 「食物が精神衛生に与える影響」についての論文で、約1,100語。配点比率は40%ほどであろう。「医食同源」という観点から、食物が身体の健康に与える影響を説く過去問は多い。しかし、本稿は、「脳腸軸(brain-gut axis)」という概念に基づいて、脳と腸との双方向的な関連を説くものである。この分野は「栄養精神医学(nutritional psychiatry)」と言われるもので、精神症状・身体症状・向精神薬に対する食事・栄養・腸管の影響を考える精神医学の分野である。過去問では、筑波大2021(前期)や女子栄養大2020で出題されている。なお、本問の設問文は全て英語である。設問の内訳は、選択式が副詞や接続詞の空所補充1題(5問)、動詞の空所補充1題(8問[同義語型])、名詞の空所補充1題(4問)、節の空所補充1題、記述式が下線部和訳2題、下線部英訳1題、下線部説明2題(和文解答型[約60字と80~100字])、前置詞の空所補充1題で構成されている。この様な設問構成は、例年とほぼ同じである。
  3. 学校のレポートで、上級生のレポートを写して提出し、露見する心配から夜も眠れないという新聞への投書に、コラムニストの立場で約100語の英文で返信するという問題。配点比率は20%ほどであろう。独創的で面白い問題だが、逆にそれが書きにくさを誘っているようにも思える。つまり、社会問題など、一定の知識があれば書ける紋切り型の解答ではなく、自由な発想が求められる。なお、慶應医学部の英作文は、他の問題と連結したintegrated writingと、それとは関係なく書くindependent writingがある。2021、19年度の問題は前者のタイプで、2023、22、 20、17、16、15、14、13、12年度は後者のタイプである。本年度の問題は後者である。これは、英検やTOEFL iBTのタイプと同じであるので、過去問だけでなく、それらを解くのも訓練になるだろう。

総評

 全体の設問構成は従来通りで、読解問題と英作文とが選択式と記述式とで出題されている。大問数も昨年度と同じで3題である。また、読解文のテーマは、2問ともにそれぞれ身体と精神にかかわる医療系である。難易度に関しては、読解問題は過年度よりも解きやすい。また、英作文は上述の様に、柔軟な発想がないと書きにくい。これらの点を踏まえて言えば、正規の最低合格ラインは60%ほどであろう。なお、本学のように記述問題を重視する大学は添削指導を受けることが必須である。言うまでもなく、和訳、説明、英作文の解答は一義的ではなく、生徒一人一人の解答が具体的に検討されなければならない。個別指導による添削が望まれる所以である。