慶應義塾大学
基本情報
試験時間:2教科120分/問題数:大問4題
分析担当
曽川 潤

出題内容・難易度

大問 出題内容 出題形式 難易度
周期表と陰性・電子式・濃度換算・
錯塩・金属イオンの沈殿・コロイド
記述
アミノ酸・ペプチド・異性体 記述・論述 やや易
電池・電気分解・染料・糖 選択・記述・
論述
標準
芳香族・アルデヒド・溶媒抽出・
分配比・中和滴定・二量体・高分子
選択・記述・
論述
やや難

問題分析

  1. 教科書レベルの小問が6つ出題された。周期表と原子の物性である陰性の関係や電子式の書き方、溶液の濃度換算、金属イオンの沈殿生成、コロイドの性質といった基本問題がほとんどであった。ただ、④では、錯塩であるFe4[Fe(CN)6]3中のFe2+, Fe3+の個数比を求めるのにやや工夫が必要であった。陽イオンと陰イオンである錯イオンの個数に着眼すると分かりやすかった。
  2. アミノ酸・ペプチドに関する、必須アミノ酸などの用語、不斉炭素原子による鏡像異性体の有無、α-アミノ酸の定義など、基本的な難易度の大問であった。ただその中で、4.の鎖状トリペプチドの構造異性体数は、グルタミン酸側鎖における結合を考える必要があり、やや難しかった。本学2017年や昭和大2022年等に類題があり、取り組んだ際に解法の要点が押さえられていれば、スムーズに解答できたであろう。
  3. 摩擦起電機という初見の実験装置を題材とした電池・電気分解・染料・糖の複合問題であった。1.の穴埋めより文章読解と基礎知識を踏まえた考察が求められ、相応の時間を投入しじっくり取り組む必要があった。1.~3.では水溶液の電気分解の応用と気付けるかがポイントであった。また、4.ではインジゴの構造式が問われた。構造のヒントが付記されていたが、基礎知識として構造を知っていれば即答できた。
  4. 有機分野全般に幅広く問われ、中和滴定およびNaOHの物性についても出題された。3.(2)での溶媒抽出における上層の取り出し方は基礎知識としてはやや細かい。来年度に向けた対策としては、単元学習においてちょっとした疑問でも素通りせず、分からないことは図録や資料動画などで調べるなどの積極的な姿勢が求められる。(4)のグラフの読み取りでは、安息香酸がベンゼン中で二量体を形成することに着想できたかが勝負の分かれ道であった。

総評

 全体の分量としては、答えの導出過程を記述させる問題が昨年度の1問から4問に増えたものの、ほぼ変化がなかった。また、難易度も、教科書レベルの基本問題と初見の実験考察などの応用問題が偏りなく出題され、昨年度と変わらなかった。
 本学の化学の特徴は、幅広い知識・知識事項に立脚した論理的思考と言える。そのため、来年度に向けた対策としては、次の3点が重要である。①教科書レベルの基礎事項を完璧に仕上げること、②実験操作などの考察問題に普段の学習から取り組み論理的な思考を強化すること、③演習時に答えの導出過程を端的に表せるよう訓練することである。ここで、①については、教科書の丸暗記では不十分であることに留意しておきたい。例えば、教科書の探究活動で書かれた実験では、操作を「文字」として知っているだけでは不十分であり、実際に自身の「経験」にまで落とし込む必要がある。そのためには、学校等で実際に手を動かして実験したり、または図録や資料動画などで一連の操作を確認することが有用である。丸暗記などの受動的な学習に留まらず、自ら行動する姿勢を大切にしたい。また、②、③については、旧帝大や私立御三家など難関校の過去問が活用できる。日頃の学習から少しずつ取り組み、思考力・表現力を着実に養成すると良いであろう。