慶應義塾大学
基本情報
試験時間:90分/問題数:3題
分析担当
小出 信夫

出題内容・難易度

大問 出題内容 出題形式 難易度
〔Ⅰ〕 読解(総合問題:13問) 選択式と
記述式
やや難
〔Ⅱ〕 読解(総合問題:7問) 選択式と
記述式
やや難
〔Ⅲ〕 英作文(課題型:1問) 記述式 やや難

問題分析

  1. 「犯罪行為に対する規制と傍観」に関する新聞記事で、 約940語。配点比率は40%ほどであろう。設問は、 選択式が動詞の空所補充[語形変化要]1問(枝問10)、 形容詞の空所補充1問(枝問7)、 記事の見出し1問(4択)、 記述式が下線部説明2問[20字以内と70字以内]、 下線部和訳6問、 下線部英訳2問で構成されている。この中で、 形容詞の空所補充は初めての出題である。なお、 犯罪論に関しては、 大阪医科大2015、 大分大2011、 島根大2007、 東京医科歯科大2010が参考になる。
  2. 「コンゴ民主共和国における貧困の中でのネット環境」についての論文で、 約850語。配点比率は40%ほどであろう。アフリカ社会の貧困問題が取り上げられたのは昨年度に続いてのことである。設問は、 選択式が空所補充1問(枝問10:4択)、 パラグラフ単位の内容把握1問(枝問5:4択)、 全体の論旨にかかわる内容一致1問(8択:判定不能の選択肢を含む)、 記述式が下線部和訳2問、 下線部英訳2問で構成されている。なお、 アフリカの貧困問題は、 関西医科大2010、 聖マリアンナ大2012、 旭川医科大2019、 金沢大2016、 九州大2019、 熊本大2008、 三重大2015が参考になる。
  3. 「慶應大医学部の学生として自分が受け容れられるべき理由」について、 約100語で英文を書かせる問題。配点比率は20%ほどであろう。求められる解答の要点は、 単に医学部を目指す理由や自分の能力を一般的に述べるのではなく、 自分の能力や人間性が如何に本学の教育方針と合っているのかを述べることである。なかなかの難題であるが、 実はそれに最も資するのは、 出願時の「志望理由書」にあった、 「『主体性』『多様性』『協働性』について、どのように考え、 心掛けてきたかについて書きなさい」という項目である。この3つの要件は確かに医学部生一般に求められる資質だが、それを一般論で論じるのではなく、本学の独自性に結び付けて論じればよい。例えば、 この3要件は共に「チーム医療(team medical care)」を支えるものであるが、それを「天は人の上に人を作らず(Heaven does not create one man above or below another man.)」という福沢諭吉の箴言と結び付ければ、 本学の特色に合わせた入学志望理由になる。要は、 医師、 看護師、 薬剤師などの職種の「多様性(diversity)」をもつ医療行為を、 自らが医師として「主体性(initiative)」を保ちながら「協働性(cooperativeness)」をもって営んでいける資質を持つことを書けばよい。もちろん、 能力や人格に関する具体的な論点は各人様々である。なお、 本学の課題型英作文は読解問題と関連していることがあるが、 本年度はそうでなかった。しかし、 過年度の傾向(2021、2019、2013)を前提とすると、 読解文で説かれた論点が前提になることがある。そのため英作文から解き始めない方がよい。

総評

 全体の設問構成は従来通りで、 読解問題と英作文とが選択式と記述式とで出題されている。しかし、本年度は大問数が1題減って3題になった。これは、 2000年代では2018年度しかなく、 他年度はすべて4題である。また、 読解文の出題テーマに関しては、 昨年度は感染症を中心にすべて医療系であったが、 本年度は2題とも「犯罪抑止」と「ネット環境」という市民社会論であった。なお、 難易度に関して言えば、 読解問題は過年度よりも比較的読みやすかった。この様な点を踏まえて言えば、 正規の最低合格ラインは65%ほどであろう。なお、 本学のように記述問題を重視する大学は添削指導を受けることが必須である。言うまでもなく、 和訳、 説明、 英作文の解答は一義的ではないので、 生徒一人一人の解答が具体的に検討されなければならない。個別指導による添削が望まれる所以である。