慶應義塾大学
基本情報
試験時間:理科2科目合わせて120分/問題数:大問4題
分析担当
曽川 潤

出題内容・難易度

大問 出題内容 出題形式 難易度
原子・元素、
電池・電気分解
選択 やや易
金属イオンの系統分離 選択・記述・
論述
やや易
化学反応と熱エネルギー、
ハロゲン、アルコール
選択・記述・
論述
標準
元素分析、エステル加水分解物の構造決定、
異性体
記述・
論述
標準

問題分析

  1. 原子・元素、電池・電気分解について小問ごとの選択肢から2つを解答させる設問であった。1は、選択肢の1つの「天然に存在しない元素がある」が基礎知識を越えており、この選択肢の正誤は一旦保留するという工夫が必要であった。一方で、2は、マンガン乾電池とアルカリマンガン乾電池の活物質という細かい知識事項が問われたが、他の選択肢の正誤判定が標準レベルであり、消去法でも解答ができた。全体的な難易度は例年と比較して易化した。落とせない大問であった。
  2. 金属イオンの系統分離をテーマにした大問。PbCl2の溶解度が比較的大きいため、塩化物イオンを加えてもPb2+がろ液中に一部残存することを考察できるかが要点であった。ただ、この点を除けば全体の難易度も標準的で論述も典型問題であったため、例年より解答しやすいと言える。本学は思考問題が頻出であり、来年度に向けても思考問題への対策が必須であることに留意しておきたい。
  3. 反応熱を主にハロゲン・アルコールについても一部知識が問われた。1のアでは、気体定数8.31×103Pa・L/(K・mol)の単位換算をすると8.31J/(K・mol)となることがポイントであった。物理選択者には当然であるが、生物選択者にはやや難しかったかもしれない。3では、昨年度同様に初見の実験装置が出題された。実験の目的から装置の機構を考察する必要があった。また、大問全体を通して、計算に必要な物性が問題中に散在しているため、必要事項を明らかにし的確に情報を整理することが肝要であった。
  4. エステルの加水分解を軸に元素分析・構造決定・異性体が出題された。1、2での元素分析・構造決定は基礎から標準レベルの問題であった。一方、3は分子式C4H8Oの化合物の異性体が問われ、やや難しかった。考え得る異性体を時間内に漏れなく数え上げる思考力・処理力が求められた。

総評

 本年度の入試では、答えの導出過程を記述させる問題が昨年度の3題から1題に減り、また、図を描いて解答させる問題が昨年度の2題に対し本年度は出題されなかった。問題の分量は昨年度よりやや減少し、難易度も昨年度からやや易化した。一方で、本学の化学で特徴的な初見の実験装置・方法の考察など思考力が求められる問題が、本年度も出題された。その為、合格ラインの突破には、基礎・標準問題で取りこぼしをせず、更に思考力が必要な問題でも一定の得点が求められたであろう。私立最難関校である本学の受験者層を考慮すると、やはり思考問題が勝負の分かれ目になると考えられる。
 来年度に向けた対策としては、次の3点が重要である。①教科書レベルの基礎事項を完璧に仕上げること、②実験方法等の思考問題に日頃から取り組み考え方自体を強化すること、③普段の演習から答えの導出過程を論理的に記述できるように練習することである。②、③については、旧帝大など難関国公立での過去問が活用できる。志望校の過去問演習に加えて、これらで思考力・表現力の強化を図ると良いであろう。