慶應義塾大学
基本情報
試験時間:理科2科目合わせて120分/問題数:大問3題
分析担当
吉山 茂

出題内容・難易度

大問 出題内容 出題形式 難易度
視覚経路に関する問題 語句記述・説明記述
・考察記述
やや難
生物毒に関する問題 語句記述・説明記述
・考察記述
標準
アメーバ類の共生について 記号選択・描図
語句記述・説明記述・考察記述
標準

問題分析

  1. 視覚については2015年度にも出題されている。その際には平易な問題構成であったが、今回はかなり難易度が高かった。視覚経路という少しメインではないテーマであることと、記号問題がなくすべてが記述であることで時間がかかったのではないか。今年はノーベル賞研究者からであるが、過去の研究者の行った実験の説明と考察を問う形は非常に多く出題されている。語句記述、説明記述は平易であった。
  2. 生物の毒についての問題であり、毒の進化についての考察をメインにしている。「流れに乗る」と解きやすいが、進化の知識と見識を必要としているので、生物の「学習」で得たものよりも生物の「教養」で得たものが役立つ問題。「毒蛇=抗体を含んだ血清」という教科書的なものを疑ってかかるところから問題が進んでおり、通り一辺倒な知識では対応できないことを示している。最後の2問は「推論せよ」となっており、記述力・考察力が試される。
  3. 菌類や原生生物などの共生関係や寄生について問う問題は慶應では頻出であり、今年もその分野からの出題。ここでやっと記号問題が出題されたように、ここは時間的な負担は少ないところである。

総評

 60分では少し時間がタイトになる問題構成であるが、複雑な計算やコドンの読み取りや遺伝の計算などがなく、「流れに乗る」ことと「問題の意図をつかむ」ことが重視される。東京医科歯科大の問題に近いスタンスで臨むことがポイントになるであろう。実験に対する評価や研究者の実験についての考察など実験についての多角的な分析が必要になってくる。また、問題全体を通して「答えづらい」という印象を持つことが多かった。何を答えたらよいのかを一瞬思いつかないものが多かった。過去問などを通じてこの大学特有の「問いかけ」のパターンをつかんでおいて、このような問いかけにどう答えればよいのかを感覚的につかんでおくことも大切である。
 問題傾向は例年通りで、進化を含めた微生物などの生活、動物生理が中心で、植物はそれほど重要視されていない。ただ、各大問は総合的な知識を問うものが中心なので、分野を絞ってという学習は危険である。
 東京医科歯科大でもそうであるが、このような「流れに乗る」ことが大切な問題の場合、「学習」よりも「教養」が大きな意味を持ってくる。ただ問題演習を行っているだけでなく、早い時期に生物をテーマにした新書などを読むことで教養を深めて、問題の流れに乗ることが必要になってくる。高3夏以降にそれほど読書に時間を割けない状況になるのは仕方ないので、それまでに学校の課題作文などを利用しながら生物の教養を深めていくことが効果的になる。
 当たり前だが、基本的な問題演習を早めに終了させること、知識を土台にできる程度につけておくことが教養をつける以前に必要になってくる。「理系標準問題集」(駿台文庫)などで基本的な問題形式についての対処法を身につけた後に、「国公立標準問題集」(駿台文庫)や「思考力問題精講」(旺文社)などで実験の考察の基本やアプローチの難しい問題の解法や解答法についての学習が必要である。