おかあさんの参考書
不登校生の中学受験を考える

不登校生の中学受験を考える

鳥居りんこ

長い夏休みが終わり、学校生活が再開する9月は子どもだけでなく、親にとっても心穏やかでいられない時期かもしれません。わが子が「学校に行きたくない」というケースが起こり得るからです。

文部科学省の調査「不登校児童生徒の実態把握に関する 調査報告書 令和3年※」でも、子どもが不登校になるきっかけとして最も多いのが「4月・5月」そして「9月」というデータが示されています。
今回は新学期を前に、学校に行き渋る、あるいは行けないというお子さんをお持ちで、なおかつ中学受験を視野に入れているご家庭の対応策を考えてみたいと思います。

https://www.mext.go.jp/content/20211006-mxt_jidou02-000018318_03.pdf

一番先に行うことは「共感」

まずは親として、新学期は子どもにとって大きなストレスになりやすい時期であるということを理解していてください。
上記の文科省の調査では「最初に学校に行きづらいと感じ始めた学年」は小学校4年生が30%で最も高く、いわゆる“ギャングエイジ”と呼ばれる時期と一致します。親御さんはお子さんが学校に行かない状況を目の当たりにすると、多くの場合、心の中でパニックになりやすいです。

筆者に悩みを寄せてくださるご相談者は、最初はたいてい「このままでは社会のレールから外れてしまう=ちゃんとした大人になれない」という「不安感」にさいなまれてしまい、お子さんをどうにか学校に戻す手段はないかと模索しがちです。
このため「いじめられているのではないか?」「先生とうまくいっていないのでは?」などという「犯人捜し」をしたがるのですが、筆者の経験上では、これは正解でもあり不正解でもあることが多いです(もちろん、いじめなどの明確な理由があるのであれば、解決する必要があります)。

不登校や行き渋りは、友人・先生などとの人間関係がこじれているケースがあるのも事実なのですが、実は大人には理由がわからない、もっと言えば本人にもハッキリとした理由がわからないというケースがほとんど。本人にもわからないというのは、子どもであるがゆえに言語化できないということもありますし、自分でも気づかない潜在意識レベルで、置かれた環境に不快感を持っているケースも多く見受けられます。この場合は調査に対して「不登校のきっかけは自分でもよくわからない」と答えるしかなくなります。

「何となく嫌」というものに対し「どうして?」と理由をしつこく詰められると、答えに窮し、ますます遠ざけたいという感覚を持ってしまう人は多いのではないでしょうか。
これと同じように、不登校の最初のきっかけも、言葉にはならない些細な違和感のほうが大きいのだと思います(例えば「クラスのあの子が変な目で自分を見たような気がする」という類の違和感が最初の出発点であるケースは多いです)。

さらに、今の子どもたちの環境は大人が考える以上に複雑で繊細です。幼い頃に、人とのコミュニケーションを断絶させられたコロナ禍を経ているのがひとつ。そして、何より、誕生以来、ITの進化に代表される、大人たちが経験してこなかった時代が生まれた時には始まっていたという事実があるのです。親世代の「常識」がほとんど通用しない時代になっているとも言えます。

つまり、大人が理由を探そうにもわからないことの方が多いのです。それゆえ、一番先に行うことは「犯人捜し」よりも「共感」です。
「学校に行けない」ことを喜んでいる子は経験上、ひとりもいません。本人も「行かなければならない場所」という認識でいるのに「どうにも行けない」という事実は親が思うよりも、子どもの心身を蝕んでいるものなのです。

親が行ったほうがいい4つの対策

大人が理由を探しても見つけられないとなれば、「急がば回れ」。子どもを変えるのではなく、親の意識を変えるのが先です。以下、親がやったほうがいい対策を挙げましょう。

1 学校に行く・行かないの選択は子どもを信じて任せてみる

子ども時代は親の言うことが絶対です。子どもは親に見捨てられると生きてはいけないというのを重々承知しています。大抵の子どもは親の意向(=不登校の場合は心配)を気にして(親からはそう見えなくても)心身の限界まで頑張ることが多いです。であるがゆえに、不登校の子は既にオーバーワークで気力は枯渇しています。

何でもそうですが、人生において自分がどうしたいのかを決めるには、ある程度の気力が必要です。ならばここは気力が回復するまでゆっくりするもよし、頑張って行くもよしという親としての「長い目」の見せどころでもあるわけです。

親から「行くも行かないも自分で決めていいし、今すぐ決めなくてもいい」という“自己決定権”を渡してあげることは、子どもの今後の人生にとっても大変、優位に働きます。どの結論であっても「応援するから安心してね」という親の決意は子どもの人生にとって最大の援護射撃なのです。

2 親は生活リズムを整えることに全力を尽くす

「自宅で休むもよし」「保健室登校もよし」と「子ども自身が決めたことを応援する」と腹をくくったならば、次は、子どもと親の心身の健康のために生活リズムを整えることに意識を集中し、サポートしてあげてください。

具体的には、起きたら窓を開ける。朝ごはんを食べる。出来そうなお手伝いはしてもらう。一家団欒の時間を作る(その際は楽しい時間にすること。責める・親の不安をぶつけるなどは言語道断です)、お風呂に入る。決まった時刻に寝る。まずは規則正しい生活からです。昼夜逆転をしてしまうと自律神経のバランスが崩れて学校生活どころではなくなるので、ここだけは頑張ってください。

なお、起立性調節障害のケースも多いので、その場合は医療機関で検査をして、血流を改善させる治療をしましょう。これだけで元気になる子も沢山います。

3 サードプレイスを確保する

残酷ですが、子どもにとっての世界は学校がすべてになりやすいのです。学校生活が暗く閉ざされるのは世界の終わりと同意でもあります。

それほどまでの狭い世界にいるので、子どもは絶望を感じやすいのですが、大人こそが「世界は家と学校だけではない」という当たり前の事実を教えてあげて欲しいのです。第3の場所があるというだけで、子どもの世界が広がる場合があるからです。

お子さんが腹痛や頭痛を訴えることが少なくなってきて、少し元気が出てきたように見え、退屈な毎日に飽きているようなら、家庭と学校以外にも居場所ができないかを探ってみてください。

サードプレイスは祖父母の家、習い事等、その子が安心できて、居心地が良い時間を過ごせる場所であれば、どこでもいいのですが、中学受験塾もその場所になり得ます。塾に行くだけでも、外に出る練習になりますし、勉強だけでなく、社会との接点としての役割も得られるでしょう。

もっとも、不登校のお子さんを持つ親御さんは「環境を変えれば事態が好転するのでは?」というお考えのもと、中学受験を意識されるケースが大変多いです。特に、小学校の人間関係で傷付いたので環境を変えたいというケース。このような明確な理由がある場合は積極的に受験に挑むのも一案です。

受験することで「事態が好転する=不登校解消」にはなりませんが、塾というサードプレイスを確保するのは子どもの元気を回復するのに効果的な場合が多くみられることも確かです。
その理由はいつでも撤退できること。週の内の数時間の居場所であること。通ってくる子どもたちに共通目標があること(雑多なことにまで気を回す時間がない)。たいていの塾の先生は教え方のプロだということです。

中学受験経験者に話を聞くと、彼らの多くが「(勉強はともかく)塾は楽しかった」「授業が面白かった」と答えます。知識が豊富な大人から、人類の知恵とも言える教養の一端を学べるのはInterestingですが、先生のジョークに笑い転げるFunの面白さも含め、いかに生徒を惹きつけ、合格させる(=目標をクリアする)かに特化している場所は「面白い」出来事が多いのだと感じます。

「ここには居場所があるな」と思えて、単純に「あれ? 意外と楽しいかも」と感じられる場所が中学受験塾であるならば、何かが動き出すきっかけになり得ます。
ただし、ここでも子どもの意思が重要です。押し付けは逆効果なので、さりげなく「こういう道もあるよ」ということを伝えて、「子どもが興味を持ったら動こうかな?」くらいの気持ちで、情報収集をしてみてください。

4 オーダーメイドの受験計画を立てる

実は不登校と中学受験は、合否にはほとんど関係しません。なぜならば、中学受験は当日の入試の一発勝負。面接や調査書がない私立中学のほうが多いので、出席日数を意識する学校は少数派です。そういう意味でも「不登校なのに受験なんて…」という葛藤はいらないですし、周りの目に対する不安も、はなから必要ないです。

しかし、不登校であるならば、お子さんの状況に応じた戦略は必要です。つまり、オーダーメイドの受験計画を立てるということです。

まずは先ほど申し上げたように、お子さんの意思があるかどうか。勉強するのはお子さんですから、受験の意思はどうしても必要になります。
さらに学校・塾・家庭学習のバランスの取り方も大事です。学校での勉強の遅れを取り戻す場合は特に気を付けてあげてください。塾選びは不登校でない子以上に大切になりますので、以下のことを意識しましょう。

  • 現時点での学力と合っている塾か
  • 塾は通える場所にあるか
  • 小学校の人間関係が嫌な場合、その子たちがいないほうがいいか
  • 勉強のペースが合いそうか
  • 塾内の子どもたちの様子や講師の教え方も含めた雰囲気が合っているか

これらをリサーチしなければなりません。

集団塾のほうが合う子、集団塾でもスパルタ系が合う子、自主自律系の塾が合う子、いろいろです。
また、集団授業が苦手な場合は、個別指導塾や家庭教師の選択肢もあります。それを選択するためには個々に、こちらの情報を開示した上で、複数の塾で面談してみる必要があります。

もちろん、この他にもオンライン学習や通信教育など、自宅で自分のペースで進める中学受験も「有り!」です。

さらに、親御さんは通える限りの中高一貫校に実際に出かけてみて、その学校とわが子との相性を見極める努力をしてみてください。その場合も、個別面談をお願いしてわが家の事情を正直に語ったほうが、向き・不向きがよくわかりますので、恐れずにカミングアウトすることをお勧めします。
もし、親子で熱望する学校が見つかったならば、合格を目指して、一段ずつ階段を登ればいいだけです。

登校している・不登校であるに関係なく、中学受験が「目標がある人生もまた素晴らしい」という“実体験”になることを祈っています。

著者プロフィール

鳥居りんこ
鳥居りんこ
とりいりんこ

作家&教育・介護アドバイザー。2003年、長男との中学受験体験を赤裸々に綴った初の著書「偏差値30からの中学受験合格記」(学研)がベストセラーとなり注目を集める。保護者から“中学受験のバイブル”と評された当書は、その後シリーズ化され、計6タイトルが出版された。自らの体験を基に幅広い分野から積極的に発信し、悩める女性の絶大な支持を得る。近著に『【増補改訂版】親の介護をはじめたらお金の話で泣き見てばかり』(双葉社)、『【増補改訂版】親の介護は知らなきゃバカ見ることだらけ』(同)、『親の介護をはじめる人へ伝えておきたい10のこと』(学研プラス)、企画・取材・執筆を担当した『女はいつも、どっかが痛い がんばらなくてもラクになれる自律神経整えレッスン』(やまざきあつこ著・小学館)、『たった10秒で心をほどく 逃げヨガ』(Tadahiko著・双葉社)、『1日誰とも話さなくても大丈夫 精神科医がやっている 猫みたいに楽に生きる5つのステップ』(鹿目将至著・同)、『神社で出逢う 私だけの守り神』(浜田浩太郎著・祥伝社)、『消化器内科の名医が本音で診断 「お腹のトラブル」撲滅宣言!!』(石黒智也著・双葉社)など多数刊行。最新刊は、取材・執筆を担当した『黒い感情と不安沼 「消す」のではなく「いなす」方法』(やまざきあつこ著・小学館)。

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