東京医科歯科大学
基本情報
試験時間:理科2科目あわせて120分/問題数:大問3題
分析担当
菊川 敏一

出題内容・難易度

大問 出題内容 出題形式 難易度
1 ネルンストの式による電池の起電力 記述式 やや難
2 血糖値と糖化ヘモグロビンについて 記述式 やや難
3 炭化水素の分子構造と光の吸収に
ついて
記述式 標準

問題分析

  1. 標準電極電位、およびネルンストの式を用いた電池の起電力に関する問題である。受験生が当たり前に知っているようなテーマではないため、初見で文章を読み、理解してから解いていかなければならないのが難しい。だが、本年度の私立大医学部入試で流行っていたテーマである。その際に対策をしていた受験生は、あらかじめ内容がわかっているところからのスタートなので有利であっただろう。電池の話だけでなく、銀イオンとアンモニア分子、およびジアンミン銀(Ⅰ)イオンの平衡に関する問題も出題されていた。難しいテーマであるが難関大受験生にとっては典型問題である。
  2. 血糖値と糖化ヘモグロビンの生成・分解についての問題である。医学に関する文章を読んで、初見の有機化合物の構造を考えたり、データ表を用いて考えたりする必要のある東京医科歯科大学では頻出のものである。有機化合物の反応、糖、アミノ酸、反応速度など複数の単元の融合問題になっており、なかなか難しい。この問題の正答率が東京医科歯科大学の合否を分けることになると考えられる。
  3. 化合物の色に関して、炭化水素の分子構造と光の吸収から考えていく問題である。他に、有色の化合物の代表として色素であるβ-カロテンの酸化開裂に関する問題、指示薬としてフェノールフタレインの構造と変色域の計算問題が出題されている。問題文が長く、吸収極大波長の表やβ-カロテンの構造式など情報が大量に与えられているため、かなり身構えてしまうが、問題文に書かれている通りに答えていけば解答できるので見た目ほど難しくはない。

総評

東京医科歯科大学らしい出題形式で、難易度、分量ともに例年と変わらない。基本的には、医学や化学に関する受験生が見たことの無いテーマに対する長めの問題文を読んで、初見の有機化合物の反応や性質を予測したり、反応機構を考えさせたりする問題や、表で与えられたデータを駆使して理論化学の計算をさせるものである。どの大学も2020年度大学入試改革を見据えて出題形式が徐々に変化してきているが、東京医科歯科大学の出題形式は現在の大学入試改革で求められていることと合致しているため、来年以降も出題傾向は変わらないのではないだろうか。電気化学の基本である標準電極電位とネルンストの式で電池の起電力を考えさせる問題や、糖化ヘモグロビンの生成・分解を有機化合物の構造と反応機構、反応速度から考える問題、教科書では詳しく触れられない物質の色について光の吸収から考える問題など、化学の考察力を試す良問が多く揃っている。
しかし、深みのあるテーマを大学入試問題へと作り変える過程で難しさがあるのだろうと思うが、東京医科歯科大学では試験中の問題訂正が非常に多い。昨年は問題設定で誤りがあり、問題が削除されている。本年は、大問2と3に訂正があった。大問2では安定型HbA1cの構造式や反応速度を計算するためのデータシートに誤りがあった。問題を解くうえで必要のない箇所なら影響は少ないが、どちらも解答するにあたって非常に重要な部分である。さらに、大問2の問6は差し替えになっている。そして大問3では問題文の吸収波長の数値に誤りがあり、表の最終段のデータが削除されている。国公立大学の入試問題でこれほどのミスがあるのは正直に言って珍しく、四大学連合の一角としての医療系総合大学院大学の入試問題としては恥ずかしいレベルである。挑戦の結果によるミスなのかもしれないが、さすがにミスをなくすよう動きがあると予想され、複雑な問題は減っていくだろう。