東京慈恵会医科大学
基本情報
試験時間:理科2科目合わせて120分/問題数:大問4題
分析担当
坂元 亮

出題内容・難易度

大問 出題内容 出題形式 難易度
1 オゾンの定量、
リン酸水溶液の緩衝液
記述式 標準
2 陽イオンの定性分析と
溶解度積
記述式 やや易
3 かご状炭化水素化合物
アダマンタンと関連のある物質、および立体異性体
記述式
4 光化学の知識、
有機化合物の安定性、
アミノ酸とトリペプチド
記述式 やや易

問題分析

  1.  酸化剤であるオゾンの定量をテーマにしたヨウ素滴定を題材にした出題であった。市販の問題集に掲載されている酸化還元滴定の定量の問題であるが、東京慈恵会医科大の問題らしく計算問題が多く出題され、時間的な余裕はなかっただろう。また、リン酸水溶液を利用した緩衝液の理解を問う問題が出題された。近年の医学部入試では頻出のテーマであるため、解答しておきたいところであった。大学側から問3、問7については出題ミスが公表された。
  2.  大問1に引き続き、多くの受験生が見たことのある陽イオンの定性分析をテーマにした問題であった。理論化学と無機化学がテーマとなっており、溶解度積を用いた計算から記述形式の解答を求められる東京慈恵会医科大特有の出題もあった。計算問題は標準的であるが分量が多かった。
  3.  かご状の炭化水素化合物のアダマンタンという未知の物質からの出題であった。3環式のアントラセンなどの有機化合物も問題中で扱われた。しかし、近年の東京慈恵会医科大の有機化学分野における出題テーマである「文章を読んで与えられたデータを使いこなし、解答する問題」への対応力が問われた問題であると言える。問3のダイヤモンドの密度計算ではアダマンタン中の最も離れた炭素原子間の距離がダイヤモンドの結晶格子の格子定数となること、また問5ではアダマンタンが酸化される酸化還元反応の旨がリード文に書かれているため、これらの文章をもとに特徴をおさえて解答できたかどうかがポイントとなる。
  4.  光化学に関する知識とアミノ酸、ペプチドを中心に有機化合物、有機高分子の知識について問われた問題であった。問2の結合角に関する知識問題は私立大医学部入試ではあまり見られない出題であるが、国立大医学部入試では頻出となる知識であり、東京慈恵会医科大以外の入試対策をしている際に学んでいる受験生が多いと思われる。4つの大問の中では最も解きやすいものであるため確実に得点しておきたいが、総合的に見ると時間的に余裕がない。後述するが、入試化学の学習において典型問題を早期に学び終え、知識の定着や読解力の強化、過去問演習に取り組んできたかどうかの差が出やすい試験になっている。

総評

 2018年から東京慈恵会医科大の出題傾向が変化した。これまでは文章を読んで受験生の知らない化学現象や物質の性質・反応を推察させる問題が主であったが、文章を読んで正しくデータを使いこなす問題や実験に関する理解を問う問題へと変化してきている。今年度の入試問題は近年の本学入試問題の傾向と比較すると計算問題は多かった。問題文自体も読みにくいため、得点はしにくい。国立大医学部と私立大医学部上位校の入試問題の対策に共通していえることは、典型問題を早期に学び終え、実験に関する知見や読解力の強化にどれだけ時間をかけられるかである。このことが、本学入試問題で合格点を取るための学習のポイントとなる。