医学部入試問題分析

杏林大学 【2025年度 化学】

杏林大学 【2025年度 化学】

基本情報試験時間:2科目100分/問題数:大問4題
分析担当戸来 又四郎
出題内容・難易度
大問 出題内容 出題形式 難易度
小問集合(無機・有機) マーク式
小問集合(理論) マーク式 やや易
カルボン酸・エステル・油脂 マーク式
水酸化物の溶解度積 マーク式 標準
問題分析
Ⅰ. 無機(化学基礎)3題、有機5題の計8題からなる知識問題の小問集合。無機は14族の酸化物である二酸化炭素と二酸化ケイ素を対比させた化学基礎レベルの内容、有機は異性体に関する知識、環状構造の不斉炭素原子の見分け、ザイツェフ則について問われている。例年通りの教科書レベルの知識問題が多く、完答を目指したい。14族の酸化物の化学式について、CO2が分子式、SiO2が組成式であることは必須知識。ザイチェフ則についてもアルコールの脱水反応の主生成物に関する考え方が教科書の発展のコラムで触れられている。問2(2)の選択肢の酒石酸はメソ体の話題でもよく出題される物質なので構造式まで正確におさえておきたい(教科書の発展内容に記載あり)。環構造の不斉炭素原子を見分ける問題は初見であったとしても、グルコースやヘキサクロロシクロヘキサンから類推して対応できるのではないか。環構造をつくる炭素原子がキラルであるかの判定はリモネンやメントールといった物質で理解しておきたい。
Ⅱ. 理論4題からなる計算問題・グラフ考察問題を含む小問集合。面心立方格子の密度データを用いた単位格子数の計算、希薄溶液の沸点の最大・最小の判定、混合気体の燃焼実験に関する正誤、冷却曲線に関する正誤が出題されている。いずれも教科書傍用問題集レベルといえるが、問2は溶質に水和物が混在していたり、問3は酸素不足でも完全燃焼と考える見慣れない設定であったりと少し解きにくいと感じたかも知れない。問3、問4については「正しいものをすべて選べ」の形式で一つもミスが許されない。体積一定の容器にヘリウムを加える状況やモル凝固点降下の値が溶媒依存であることなど、確実に理解できている受験生は悩まず、時間をかけずに取りこぼすことは無かったのではないか。
Ⅲ. カルボン酸・エステルに関する知識問題4題と油脂の計算問題1題の計5題から構成。酸性度の強さがスルホン酸>カルボン酸>炭酸>フェノールであること、エステル合成の際にアルコールの酸素原子がエステル結合に残ること、基本的なジカルボン酸や不飽和脂肪酸の知識など、教科書レベルの知識があれば容易に得点できる。ただし、問3については「当てはまるものをすべて選べ」の形式で正解が1つしかないことが気になったかもしれない。油脂の計算問題についてはけん化の量的関係に関する基礎的なものであり、油脂分野の計算に習熟している受験生からすると、質量0.878gから分子量878のトリリノールが推測できてしまうくらい難易度は低い。
Ⅳ. 水酸化物の溶解度積に関する知識・考察問題が5題と溶解度積の計算問題1題の計6題から構成されている。考察問題に関してはグラフから読み取る問題が3題と多い。溶解度積の定義式が固体濃度を定数とみなした化学平衡の法則由来であることは確実に理解しておきたい。グラフ考察問題に関しては、Kspの式の対数変形と直線グラフの読み取りに慣れていない受験生はやや戸惑ったであろう。直線左下領域が溶解ゾーン、直線右上領域が沈殿ゾーンの定性的判断、陽イオンの価数とグラフの傾きの対応、Al3+、Al(OH)3、[Al(OH)4]のマスバランスの意識、などがスムーズに解けるかどうかの鍵となる。計算問題は教科書傍用問題集レベル。
総評
本年も引き続きコロナ禍以降の易化の傾向のまま、過去4年と同程度の平易な問題が中心であり、非常に得点しやすい試験であった。だが昨年度に引き続き、教科書レベルの学習事項ではあるが、大問Ⅱの問1のように学習テーマとしては結晶格子の密度と基本的なものでも問われるものが密度ではなく単位格子の個数であったり、大問Ⅱの問3のように状況設定と問い方が少しひねられた正誤問題であったりと、教科書傍用問題集そっくりの典型問題ではないものも少なくなかった。グラフ問題は今年も多く出題され、大問Ⅱの問4は典型的な溶液・純溶媒の冷却曲線であったが、大問Ⅳはやや難易度の高い市販問題集には類題の掲載があるものの、普段見慣れないレベルの溶解度積のグラフであった。計算問題に関してはまともな計算を要するものは大問Ⅱの問1と大問Ⅳの問2くらいで、解法や計算力が試されるレベルではなかった。今年度の試験に関しては、知識問題・正誤問題のみならず、計算問題についてもいかに質の高い知識を持っているかが確実かつスムーズに解けるかを決めたといえる。普段の学習においてはただ問題が解けるだけではなく、いかにスムーズに解けるかを意識し、正誤問題の選択肢についてもどこがどう違うのかまで、一つ一つ理解しながら取り組んでもらいたい。
本年は多くの受験生にとって大問Ⅳが解きにくい問題であったであろうが、初見問題的に映ったとしても、化学の総合力がしっかりしている受験生ならば、問題文を丁寧に追い、グラフの読み方なども含めて対応・得点できるレベルである。化学が苦手な受験生は大問Ⅰ、大問Ⅲの平易な知識問題でしっかりと得点し、大問Ⅱと大問Ⅳで部分点を拾えるだけ拾い、化学が得意な受験生は大問Ⅱと大問Ⅳも完答を目指して、大きな差をつけたい。合格ラインは本年もかなりの高得点の水準となることが予想されるが、それだけに正誤問題などミスなく1問を確実に正解することが求められる。
尚、新課程に移行した初年度であったが、出題形式の変更が見込まれる化学反応とエネルギー分野からの出題は無く、本大学頻出の気体発生反応・イオン分析などの無機知識の出題も無かった。来年度に向けては今年度出題の無かった分野も含めて幅広く、一段質の高い知識を養う学習を推奨したい。

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