医学部入試問題分析

東京慈恵会医科大学 【2025年度 物理】

東京慈恵会医科大学 【2025年度 物理】

基本情報試験時間:2科目120分/問題数:大問2題
分析担当中村 達郎
出題内容・難易度
大問 出題内容 出題形式 難易度
1 熱力学(断熱変化、第2種永久機関) 記述式 標準~難
2 原子+力学、波動(光子仮説、保存則、慣性力、ドップラー効果) 記述式 標準~難
問題分析
  1. 単原子分子理想気体の断熱変化を扱っている。そもそも見慣れない設定であり、取り組みにくかっただろう。それでも問3までは誘導文を丁寧に読み、教科書等で学んだ熱力学の考え方を適用すれば得点できただろう。問4ではポアソンの公式の導出を経験していないと正答は厳しい。問5も時間内に解答するのは難しい。さて、各問をみていく。問1、それぞれの容器中の気体が定圧変化であることを読み取れればむしろ容易。問2、熱力学第1法則を適用。PAVA=PBVBとしたあとは状態方程式で温度の関係に変換。問3、VBをVAで表して代入するだけ。問4、与えられた式は見慣れない形であるが、断熱変化における熱力学第1法則を表している。この各項を状態方程式の対応する項で割ればV、Tの微分方程式となる。試験時間内に自力でこの式変形をするのは難しい。普段から公式を導出する勉強をしておこう。問5、PVγが減少するというありえない仮定をもとに考察しろという眩暈のするような記述問題。ポイントは次の2点。1つは問3でPVγが増加していることに注目すること。逆に、PVγが減少する断熱過程とは容器Bから容器Aへ気体が移る変化を意味する。これは、Pが増加、Vは減少、かつ最終状態で温度が等しいという変化となる。もう1つは第2種永久機関とは与えた熱がすべて仕事に使われるという説明。すなわち熱の放出がない、と読み替えよう。体積が減少する過程を上述のように断熱で変化させられれば、放熱のない熱機関ができる。ただし、これは捨て問だと思う。
  2. ガンマ線は波長を検出しうる電磁波として扱い、エネルギー、運動量を扱うときには光子仮説を用いるのが基本。これを質量のある粒子のように扱うと混乱しただろう。問1、光子仮説にそって変換しよう。問2、運動量保存則から放射性粒子の速度を求め、エネルギー保存則の式に組み込もう。質量がもつエネルギーを忘れずに。問3、質量欠損とエネルギーの関係(アインシュタインの関係)の導出。M→∞を利用し近似。問4、音源が遠ざかり観測者が近づく際のドップラー効果。観測者が加速しており、検出時の速度が増加していることに注意。立式上vを置くことになるが、近似により消去できる。問5、問4からエネルギーが増加していることがわかり、この変化分を位置エネルギーと解釈せよとの指示。位置エネルギーは保存力のする仕事であるから力の向きの変位を考えれば求められる。問6、難問。問5の答えが通常の力学で扱う慣性力の形をしているが、その質量mは失われた質量だ。だとすると慣性力は質量だけではなく、質量のないエネルギーにも働き、そのエネルギーに仕事をしうる、という考えが浮かんでくるが…。仮説の上に仮説を連ねて考えなければならないので時間内に解答するのは不可能と思われる。
総評
2024と同様の出題形式。設問数が若干減り、60分の試験時間に対し小問数は11。これは私立医学部としては異例の少なさである。時間に追われてパニックになるということはないだろうが、答える内容は濃い。2024も難しかったがさらに難化した印象だ。仮にこれらの問いにすべて答えようとしたら60分では足りない。難度の高い大問最後の小問を捨てるとしても、全体に出題者の意図をくみ取りながら読んでいくのは困難。対策としては、やはり物理用語に習熟しておくこと。定義を確認したうえで公式間の関係を整理し、導出可能な公式とそうでないものを見分け、可能な公式は導出できるようにしておく。そうすると物理のつくりが見えてくる。原子分野については出題内容が高校範囲を超えている。ここ3年間こうしたはみ出しが続いている現状を考えると、本学を第一志望とする学生は「相対性理論」の軽い解説書でも眺めておいたほうが良いかもしれない。また、参考書としては「新・物理入門」もお勧めである。対応する問題集は多くない。本学の過去問とともに、東大、京大、東京科学大、慶応医学部などの過去問を演習し、物理的洞察力、論理展開能力を養っておきたい。

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