東京慈恵会医科大学
基本情報
試験時間:2科目120分/問題数:大問4題
分析担当
竹内 純

出題内容・難易度

大問 出題内容 出題形式 難易度
1 相図、蒸留の原理 記述式 やや難
2 TiO2光触媒、光化学反応 記述式 標準
3 芳香族化合物の分離 記述式 やや易
4 アスパラギン酸と関連化合物 記述式 標準

問題分析

  1. 問題文において、2種類の液体混合物の相図とその読み取り、および蒸留の原理について説明されている。読解の上で注意しなければならないのは、温度についても組成についても、溶液と蒸気とで別々に変化することである。これを誤解すると、蒸留の進行とともに2種類の液体成分がどのように分離されていくのかを正しく捉えられないので、ほとんど得点できない可能性がある。逆に、この点を正しく理解できれば、計算問題も実質問3(ⅰ)の1問しかないので、スムーズに解き進められる。ただし、問5は混合溶液中に添加した第3の物質の影響について考察する設問で、思考力を要する。
  2. 前半はTiO2光触媒に関する内容である。問2は遷移元素の電子配置を考える必要があり、やや発展的な設問であった。後半は光触媒作用を活用した電気化学反応についての出題である。TiO2極およびPt極での反応は、与えられた生成物が生じるような反応として考えれば理解できる。問5の計算問題は一見複雑であるが、液面の高さが一致したときにTiO2極側とPt極側にかかる圧力が等しい点に注目すれば、さほど難問ではないことがわかるであろう。
  3. 典型的な芳香族化合物の分離操作に関する問題である。問4、問5を解答するには分離される化合物を特定しておく必要があるが、問われている反応自体は教科書レベルの基本的なものである。問2、問3、問6は操作上の注意点に関する設問であったが、これらも炭酸水素ナトリウムや酢酸エチルの性質を考慮すれば解答できる。全問手早く処理して得点を稼いでおきたい。
  4. アスパラギン酸またはアスパラギン酸エステルから重合される高分子化合物に関する問題で、昨年度のアミノ酸やポリアミドに関する問題に類似している。アスパラギン酸の構造を確実に暗記していなくとも、重合の中間体から誘導できるようになっている。問5の計算問題は、昨年度と異なり高分子の末端を考慮する必要がないので解きやすくなっていた。問6はアスパラギン酸の中和滴定であるが、計算の必要はないので、経験のある受験生にとってはこちらも解きやすかったであろう。

総評

 例年と同様に大問4題構成で、難易度も例年並みである。昨年度と比べると、全体的に計算問題の量が減少し、有機分野(大問3および4)が解きやすくなった分、理論分野(大問1および2)が難化した。問題量に対して時間の余裕がないと思われるので、初めに大問3および4を手早く解き、得点を確保した上で大問1および2にじっくりと取り組むような時間配分が必要になる。
 本年度の理論分野では、教科書などでは見られない内容について、与えられた情報やデータを理解してそれらを活用する思考問題が多く出題された。このような形式の問題は難関国公立大学入試でもあまり多くはなく、対策が難しいが、正しく内容を理解することができれば設問自体は取り組みやすいものである。受験生においては、典型問題に習熟しておくのはもちろんのこと、実験を含む問題では操作の目的やその結果について読解し考察する力を養っていくことが重要となる。