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学習到達度調査・PISAに見る「読解力」の重要性

学習到達度調査・PISAに見る「読解力」の重要性

経済協力開発機構(OECD)が3年ごとに実施している国際的な学習到達度調査・PISA(Programme for International Student Assessment)の最新の結果が明らかになりました。日本の高校1年生の理数系の力は世界トップレベルを維持していますが、「読解力」は前回調査より後退しています。今後は、コンピュータを使った「デジタル形式」の文章から情報を探し出し、理解し、考える力を育てる「読解力」の育成がポイントになりそうです。

(出典・参考資料:『OECD 生徒の学習到達度調査2018年調査(PISA2018)のポイント』国立教育政策研究所)

2003年のPISAショックに匹敵

PISAは、義務教育が修了した段階の15歳の子どもを対象に、2000年から3年ごとに「読解力」「数学的リテラシー」「科学的リテラシー」の3分野で実施される世界規模の調査です。今回の調査では、世界79カ国・地域の約60万人が対象となり、日本では2018年6月から8月にかけて実施されました。

かつて「PISAショック」と呼ばれた2003年の調査では、読解力が30カ国中12位、平均得点が498点と低く、公立・私立を問わず小中高校で「学力向上策」が打ち出されました。

今回の調査で、読解力は37カ国中11位、平均得点504点となり、前回2015年調査の6位より後退し、平均得点も12点低くなりました。

日本はOECD平均より高得点のグループに位置していますが、今回の結果は統計的有意に低下しています。2003年のPISAショックほどの大きさではないにしても、「急落」と言ってもいい後退ぶりです。

では、読解力の調査では、どのような力が測定されたのでしょうか。

OECDの発表によると、「読解力」は次のように定義されています。

「自らの目標を達成し、自らの知識と可能性を発達させ、社会に参加するために、テキストを理解し、利用し、評価し、熟考し、これに取り組むこと」

具体的には、次のような能力が測定されました。

1)情報を探し出す能力

  • テキスト中の情報にアクセスし、取り出す
  • 関連するテキストを探索し、選び出す

2)理解する

  • 字句の意味を理解する
  • 統合し、推論を創出する

3)評価し、熟考する

  • 質と信憑性を評価する
  • 内容と形式について熟考する
  • 矛盾を見つけて対処する

OECDにより公開された問題を見ると、「大学教授のブログ」と「書評」「オンライン科学雑誌の記事」を読み比べながら、2つの学説に関する原因や結果を選ぶ、時系列を答える、画面をクリックして必要な情報を探し出すなどの課題が出されています。

日本の生徒の正答率が低いのは、Webサイトや電子メールなどのデジタルテキストから「情報を探し出す力」や、テキストの質と信憑性を「評価し熟考する力」を問う問題です。また、自由記述形式の問題では、自分の考えを根拠を示して説明することには、かねてから課題があると指摘されていましたが、今回の調査でも引き続き課題があると、OECDは分析しています。

パソコンで読み、考え、理解する習慣を

2003年のPISAショックから回復していた日本の生徒の読解力がなぜ低下してしまったのか。その原因の一つと考えられるのが、デジタル機器を用いた勉強が進んでいない、という点です。

実は、前回の2015年調査から、紙に手書きで答えを書くのではなく、パソコンを利用してクリックや入力をする「CBT(Computer Based Testing)方式」に移行しています。

これは社会のデジタル化が進み、将来、子どもたちが就く仕事の多くが、デジタル技術抜きには成り立たないという未来予測に基づいてのことです。

CBT方式、つまりパソコン上での読解力には、単に文章を読めるだけではない、さまざまなスキルを持っていなければなりません。

それは、

  • 長文の課題文を、画面をスクロールして読める
  • キーボードで自分の考えを自在に入力することができる
  • 複数の画面をディスプレイに表示させて移動できる
  • ドラッグアンドドロップで選択肢を動かすことができる

などです。

「これが読解力のうちなの?」と思われるかもしれませんが、PISAは「国語」や「数学」といった教科の学力だけを測っているのではありません。前述したように、「情報を適切に探し出す力」も読解力のひとつだと言っているのです。

学校でコンピュータを使った学習活動が充実しておらず、その結果、社会に出てからデジタル上で思考し、判断し、表現できないことは、「学力が低い」のと同じだということになります。

今回の調査では、日本は学校の授業におけるデジタル機器の利用時間が短く、OECD加盟中、最下位であることが明らかになりました。学校の宿題をコンピュータで行う頻度も加盟国中、最下位でした。

国語の授業で「1週間のうち、教室の授業でデジタル機器を利用する時間」は、週1時間以上がわずか3.0%、週30分~1時間が2.4%、週30分未満が8.6%、最も多い回答が「利用しない」で83.0%にものぼったのです。

学校の外では、チャットやゲームなどを利用できても、これではCBT方式の問題には不慣れで、解くのは難しいのではないでしょうか。

今回の調査結果を受け、萩生田光一文部科学大臣は、今後の課題として、「学校における1人1台のコンピュータの実現等のICT環境の整備と効果的な活用」を挙げ、学校、教育委員会等の関係者と連携・協力して、取り組みを推進していく旨をコメントしました。

11月に行われた経済財政諮問会議では、学校のICT環境整備が取り上げられ、経済対策として動き出そうとしています。

PISAは世界各国の「学力ランキング」のように見られがちですが、本来の目的はその国の教育を改善するために、どこに課題があるかを明らかにする点にあります。

読解力低下の要因として考えられることとして、教科書の内容や学校での教え方のほかに、コンピュータを用いた授業や教育活動が決定的に不足しているという現実を保護者は受け止め、学校選びに活かしていく必要がありそうです。

「1人1台」といっても、本当に授業で使われているのか、またどのように使っているのか、全員が一度にデータをダウンロードできる高速通信ネットワークが学校に準備されているか、クラウドサービスやメールアカウントも有効に活用されているのかなど、保護者も受験生も、厳しい目で学校のICT環境をチェックする時がきています。


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